死を統括せし神
――――響き渡る絶叫、嫌って程に聞こえてくる自分の心音、そして…頬を走る激しい痛みで俺は目が覚めた。
「此処は…」
目を開けると、そこにはちゃんと四人が居る。ただ俺の方を見て何とも言えない表情を浮かべていた。
「な、何?」
「…ワールスが思いっきり叩いたせいで顔が腫れてる」
「うそぉ!?」
「え、えへへ…。全然起きないもんだから…」
「道理で酷く痛むわけだ…。泣いたろか?」
「えぇ!?」
「冗談…でもないけど、取り敢えず此処が死界か」
此処からちょっと大きめの一本道が下の方に向かって続いている。蛇みたいにうねうねしてる感じなのだが、落下したら終わりだな。
ただしそこを歩く奴等は皆黙って歩いてる。どうやら死人に口なし、魂には意思すら与えて貰え無い様だ。裁かれて漸く意思を持てるんだろうね。
「…突き落したらどうなるんだろ」
「―――過去の例を挙げるならば、突き落とされた魂はタルタロスの館に封じ込められた。お前達も落ちてみるか?我の許可なしでは出れぬがな」
「へぇ、んじゃ今もまだそいつその館に?」
「まさか、普通に死界で生活している。大型の魔物の場合も死界でな」
「人は町、人型じゃない魔物はそれ以外って感じか」
「大体がな。で、何用だ生者共」
「え?…うわっ、死王!?眩しっ!」
目を瞑りながら聞いてたせいで全く気付かなかったが、いつの間にか目の前に居て俺の顔を覗き込んでいた骸骨。
えっ、怖いんだけど!?骸骨だから表情分かんねぇし!その深淵にしか見えない目の窪みを覗いたせいでもっと怖いわ!
深淵の先にある緋色の閃光のせいで目が痛いしな!骸骨の目だろうけど!!
「…騒がしいな。こっちなら問題無いか?」
骸骨に肉が付いたかと思えば、まさかの美女が目の前に出現。緋色の閃光は緋色の瞳に変わり、美しい漆黒の髪を靡かせている。
「死王サクリス…」
「如何にも。まぁ死神でもあるけどね。ラストとは知り合い、旧知の仲よ。本来は死神最強の彼女がやるんだけど、元部下の私がやってる訳」
「ラストに部下が居たんだ…」
「え?知らないの?あの御方は多くのアンデッドを従えてるわよ?ってか他の死神ですら膝を突く程に畏れられてるんだから」
「…………無いな」
「「無い無い」」
だって完全に俺の妹みたいなもんだし。あと結構我儘を言う子だし。いざって時は凄いけどそれ以外は……うん、見た目相応の子供。
絶対に、ぜっっったいにありえない!!
「―――へっくし!う~ん、風邪引いちゃったかなぁ…」
「死神って風邪ひくの?」
「魔王が風邪を引くこともあるし引くと思う!」
「そういうもんかぁ~」
「そうなのだ~。ってわけでレイ、背中借りるね!寝る!」
「どぞどぞ~」
―――色々あったが、取り敢えず城に案内してもらった。現在は応接室で全員ソファーに座っている。
とは言えアトラスとプレイオネの二人は周囲の警戒も兼ねてソファーに座らず後ろに立っている。サクリスは俺の正面に、ワールスとエトワールは俺の横に座っている感じ。
「なるほどね、あの伝説の悪魔パルパータの封印、その為にタルタロスの館を使いたいと」
「そうだ」
「今あそこにいるのは一人。そいつはまぁ…有名な熾天使でね。純白の輪と翼は黒に染まった熾天使、聞いたことがあるんじゃ?」
「…ジェネシス」
「うん、その通り。聖なる神の死を望み、万民の根絶を望む熾天使さ。そこに突っ込むことになるけど、一瞬の封印解除ですら彼女が抜け出す理由になりかねない」
「…ここってタイミングで言う、だからそのタイミングで館の入り口を現世に繋げて欲しいんだ」
「まぁそれは構わないけど、逃げたらどうする?」
「俺の目論見になるけど、パルパータはジェネシスよりも強いと思う。そして俺が勝てば彼奴はどんな条件でも絶対に飲んでくれる」
「確証が無いな」
「―――それなら私が保証するよ」
「「え?」」
「敗者は如何なる条件も飲む。それは私も、そしてシード、君も」
「な、何でここに!?」
姿を見せたのはパルパータ。彼女はソファーに座らず、部屋をただウロウロとするだけ。
「え?暇だから城から観察してたんだけど、死界に移動したから私も行こうと思って!」
「えぇ…?」
そう言いながら彼女を睨む。だが彼女はにっこり微笑むだけ微笑み、サクリスの方を見た。
「…罰せないよね?何せ君は彼等が入った事を罰してない。だから私が入っても罰せない」
「ちっ…」
「普段は罰してるの?」
「掃除をさせている」
「だから意外と皆と仲良いんだよ~」
「「お~」」
「感激してる場合か!」
「こわっ」
「…で、貴様は本当にジェネシスを抑えれるんだろうな」
「会った事は無いし確証はないけど、まぁ簡単に出来ると思うよ」
「何処からそんな自信が来る」
「だって私は最強だから!やけにこちらを睨むシード意外は誰一人としてその首に鎌をかけられていることに気付いてない」
「「!?」」
「暗殺者だろうが、死神だろうが…私には勝てない。あぁ勿論死神ロストのレベルになると話が違うけどね!」
「………」
「魔王三人衆も厄介なんだよなぁ。接戦して、勝敗は分かんない。でも少なくとも君には勝てるよ、サクリス」
「悪魔の神にでもなるつもり…?」
「興味無いね。そもそも悪魔帝になった事に気付いたのも最近だし。…で、シード、よく気付いてたね?」
「魔力探知に関してはワールスの方が上だが、それ以外の僅かな動き等々は気付けるんだ。まぁ魔力で今回は気付いたわけだが…」
「ぼ、僕ね…細かいのも確かに気付けるんだけど、その精度が良い訳じゃなくてさ。気づけるときと気付けない時があるの」
「…なるほどな。でも今回は…お前、魔力をこの死界に流れる魔力と同じに調節しただろ」
「正解!それじゃ、私はこれで!」
「おう!ばいば~い」
「ん、ばいなら~」
彼女はクスッと微笑んでから姿を消し、サクリスは呆れた様な表情でこっちを見てきた。
「…仲良し?」
「否定はしないけど、あれでも敵さ。殺意を向ければ殺意を向けてくれる」
「そ、そう。まぁ良いわ、タルタロスの館を使うことを認めましょう。言ってくれれば繋げるから」
「感謝する」
「…生きてるのに死界には来ないでね。とか言っても来るんだろうけど」
「勿論!それじゃ!」




