正義か悪か
―――魔族の領土から北に行くとあるヴェルロイド王国領、その更に北に広がる神聖王国領。火山地帯、山岳地帯、湿地帯等様々なバイオームを領土にしている。
そんな神聖王国は、魔族を悪として活動し、歴代の勇者を輩出してきたまさに人間にとっての正義を体現した国。とは言え金の為なら魔族でも僕にするような国でもある。
今代の勇者ワールスも孤児院は神聖王国にあり、そこで育ってきた。途中でヴェルロイド王国に派遣されただけである。
―――シード一同が会議している頃、神聖王国領でヴェルロイド王国に最も近い町にて
「――――神の名の元に魔族を討伐するぞ!」
「「おぉぉぉ!!!」」
「…神の名の元に、か。金に目が眩む偽善者の集団がよく言えるよね。聖女とかその辺の一部が良い奴なだけでしょ?」
「な、何だ貴様は!全員構えろ!て、天使も召喚するのだ!」
「み、皆下がりなさい!此処は私が彼女と話します!」
「聖女様!?」
「ふぅん、今回は聖女も参加してたんだ。本来は勇者のチームに加わる君はこんなことをしてて良いのかな?」
「…勇者は現在育成中です。ワールスさんは魔族に囚われてしまったので今回は魔族の殲滅、そして救出を目的としています!」
「へぇ…」
「ヴェルロイド王国の王都に立ったあの巨大な城は貴方のですか?…えっと名前が……」
「隠蔽してるだけだよ、看破しなって。それとも今の神聖王国はこんな雑魚しか居ないの?聖騎士の隊長さん達は?………うん、良い表情、見えてるんだね」
「か、帰りましょう…。あれには勝てない、いえ、勝てるわけがない…!」
「どうしたのですか!?」
「私は悪魔パルパータ、以後お見知りおきを!まず君達は私のゲームの邪魔をしようとしてる。今帰れば素直に見逃すよ?」
「げ、ゲームですか?」
「そう、シードとゲームをしてるの!」
「魔王シード…」
「そ!期限は一年、その間に渡しを殺せなきゃこの世界を消す。逆に彼が勝てばこの世界を守れる。守る、と言うか彼は世界征服と言う夢を叶える為に渡しを倒すだけだけどね」
「…魔族領だけを消すの?」
「君は耳が付いてないの?あぁ、それとも今の人間は理解力が足りないのかな?世界、って言うのはこの星の事だよ!」
「「なっ…!!?」」
「いったい何を考えてるの!?」
「救済かな。下らない欲望の為に悪魔を召喚し、人を殺したり国を滅ぼす様に命じる。欲望を持つことを否定しないけど、悪魔はそれのせいで忌み嫌われている」
「わ、我々はそんな事を―――」
「天使は?神の名の元に天使を召喚し、ただ生活しているだけの魔族を殺してる。それは君達が正しい事を証明するために道具として使ってるよね」
「それは…」
「…シードは支配欲に従って多くの人を殺すと思う。でも私はそれを否定しない。でも私は他の輩の欲を批判する」
「どうして?」
「…己が貫くべき正義以外を認めないから、かな」
そう言いながら悪魔らしからぬ龍の様な翼を広げ、巨大な黒い球体を生み出した。
「さぁ決めて聖女さん。諦めて戻るか、それとも悪を倒すという大義の為に私と戦うか!」
「悪魔一人、直ぐ倒せます!」
「熾天使の召喚は何時でも可能です」
「だ、ダメ…絶対に戦っちゃ…」
「…全兵、構え!」
「それが君の答えか」
「あ、悪を認めれば助かるんですよね!?パルパータ様!!」
「…君、聖騎士の誇りとか無いの?」
「いくら頑張っても聖騎士団の団長にはなれず隊長終い!お金は無いし貴族でもない限り神聖王国では無理!それなら…悪に染まった方が私は…」
「…貴族は嫌い?…悪を認められる?」
「様々な悪事を見てきました。私は…顔に火傷を負っているので慰み者にされていませんが、部下は何人も貴族、高位の聖職者に…。私はそれを…見てみぬふりをしてきたんです」
「うわぁ…」
「何を言っている貴様!」
「こ、此奴を殺せ!」
兵が襲い掛かるより前に魔力で引き寄せ、私の前に立たせた。彼女は宙に立ってることを驚きつつ、私を見つめる。
「他人の正義をすべて認めろとは言わない。でも…一部を認める事は出来る?支配欲を満たす為に世界征服をする子や、仲間を救済するために殺すような人を認める事は…出来る?」
「出来ます。…一つ教えてください」
「何?」
「私はもう…正義も悪も無いと思ってるんです。どうしてそんなに…」
「私達生命体は何か信念を持ってないと無理なの。親の為に、友達の為に、何かの為にって感じでね。…そして正義か悪は勝手に自分達で付けた価値観」
「自分の価値観…」
「攻撃開始!」
巨大な結界を生み出し、怯える彼女をそっと抱きしめる。
「人は勇者を正義と考え、魔族は力を正義と考える。そして人は魔族のそれを、魔族は人のそれを悪と考える。そうだったよね?」
「は、はい」
「でも今はもう違う。人の中にも悪と呼ばれる人が居て、魔族もそれは同じ。だから君は正義と悪が分からない」
「そうです」
「私は自分の道が正義だとは思ってない。そしてシードの考える貴族殺しや世界征服も良しとは思わない。でも否定しようとは思わない」
「ど、どうして…?」
「悪だから。彼は悪と分かってる。貴族に嫌われ、人に嫌われても良いと覚悟を持ったうえで実行しようとしてる、というかした。それは私も同じ」
「…ぱ、パルパータ様は自らの行いを悪と分かって正義と掲げているんですか?」
「そう言う事だね。…でも大半の奴等は自分が正義と思い込んで悪を悪と判断せず正義として執行する」
「貴族ですね…」
「その通り。でも実際ね、万民が認める正義なんて存在しないんだよ。それを分かってるから私は己の正義を悪と判断してる」
「……パルパータ様、私はこの命を貴女様に捧げます。そして私も理解者として貴女様、そして…シード様の後ろを歩みます」
「彼は敵だよ?」
「でもパルパータ様は認めていらっしゃるじゃないですか。…今は敵でも、分かり合っている仲間。違いますか?」
「フフッ…そうかもしれない。…ねぇ、悪人や聖人が自らの行いを悪と認められる事が少ないのってなんでだと思う?」
「え?…申し訳ございません、私には…」
謝る彼女を眺めつつ、結界を解除して彼女を片腕で抱きしめてからさらに上空へと移動。それから左手を上げ、魔力を込める。
「ううん、大丈夫。…純粋な悪人は己以外を敵とみなすけど、その判断には正義も悪も関係ない、自らの本能のままに動いてるだけ」
「確かに…狂戦士がいい例ですね」
「でしょ?聖人は…ただの馬鹿だね。何が正義か悪かを上手く判断できない。でも取り敢えず困った人を助けるのが正義だと思ってる」
「それって万民が正義と思うんじゃ…」
「そう思う?永遠に人形として扱われる存在が傷付いて回復された時、私は反吐が出るかと思ったよ。…殺さないと無理なんだよ、そういう時は。でも聖女はそれが出来ない、生死の価値観も善悪の価値観も曖昧だから」
「………なるほど」
集めた魔力は紫色に輝く球となって掌に浮かび上がり、それを握り潰すと同時に王城を遥かに凌駕する大きさの獄炎球が宙に出現。
「悪人の多くは復讐心や差別されたから怒りを糧に行動する。そうなれば善悪もクソも無い。そいつが苦しめば他がどうなっても良い、とにかくそいつを!ってなる」
「自分正義みたいなもんですね」
「そうそう。まぁ本当に極論だけど、言っちゃえば誰しもの行いは正義であり、悪でもある。それを理解できない凡俗な輩は…全て死ぬべき」
手を振り下ろしたと同時に巨大な獄炎球は一気に地面の方へと向かって行く。完全に落下するまでに時間は掛かるので一旦私達も地面に。
「さて聖女さん、少し君の友達と遊んであげよう。君は転移で逃げれるけど、今は駄目だよ?」
転移結界を張り、彼女の体を闇の鎖で拘束。それから自らの武器である黒い刀身の大太刀を取り出して軽く振るった。
そこから放たれる漆黒の斬撃は、下位の天使は見るまでも無く一瞬にして胴を切断されて消滅。兵に至っては振るった時の風圧だけで吹き飛んでいる。
勿論聖騎士の隊長君は私ががっちり抱き抱えてるから問題無い。
「そうだ、君名前は?」
「ラオです」
「ラオ、いい名前だね」
そう言いながら彼女を解放し、私と彼女の周りに結界を張ってからヘルメットを外した。そして…パーフェクトヒールで顔の怪我を治癒。
「うん、君は綺麗だ。…これから宜しくね、ラオ」
彼女は剣の反射で自らの顔を眺め、そして涙を流しながら何度も何度も頷いた。私は彼女を一瞥し、結界を解除すると同時に獄炎を放ち、土魔法で巨大な尖った山を生成したりして敵を蹂躙。
「さぁ時間だね。聖女さん、感想を一言どうぞ!」
「わ、私が動ければ皆を…」
「禁術で蘇らせるの?良いね、凄く良い案だよ!じゃあだれを選ぶ?一か月でたった一人しか蘇らせることが出来ない禁術で誰を選ぶ?…あぁ、まず君の力量じゃ無理か。死人じゃなくて負傷者を助けようとしてるんだね!」
「何が面白いんですか!?」
「君ってバカだよね。今までの戦闘で誰か私の結界に傷つけれた?私の1メートル以内に入って来れた?ううん、誰も出来てない。それで回復させて何になるの?」
「それは…!い、今は出来てないだけで必ず…!」
「戦場も知らない小娘が…」
「…おっ、いい事を言うねラオ!そう、君は戦いと言うものを知らない。君の記憶を覗いたけど…良いねぇ、家族に愛され、周りの奴にちやほやされ、君はいい気分で回復魔法を使うだけ」
「それは…その…」
「今回は大軍だから回復できるものを全員集めて前線に来てるけど…正直皆君を邪魔だと思ってるよ。戦えない小娘が前線に来るな、退けってね」
「えっ…」
兵は何も言わずに構え、こちらを睨んでいる。ただ…一部の兵士、主に負傷兵は少しだけ下を向いていた。
「あ~可哀想に、何も言わないと聖女さんが泣いちゃうよ?っと…はい、面白いのを見れたから鎖は解いてあげる。回復を優先するか、己の命を優先するかは…ご自由に」
転移阻害の結界も解除し、一キロの所まで迫っていた巨大な獄炎球を一瞥してからラオに触れる。
そしてその鎧を新しく黒く禍々しい感じに作り変えて背中をバシッと叩いた。
「もうヘルメットマスクを被るのは辞め!」
「御意」
「それじゃ戻ろう。あぁ聖女さん、戻るなら神聖王国の上層部にこう言っておいて。シードとその配下に手を出せば悪魔パルパータがやってくる、とね」
「ッ…」
「フフッ…良い表情、大好きだよその怒りと苦しみが混ざった表情!快楽を求めて人を殺しはしないけど、殺す時に快楽が得れるようにするのは良いと思うんだよね!」
「同感です。鬱憤晴らしにゆっくり殺すことは聖騎士でもございましたので」
「だよね~!アハハ!あ~もう…本当に愉快!」
――――それから数分後、その町は獄炎に包み込まれ、数十万の兵士と共に何も残らず消し飛んだとか




