第34話 憧れ抱き、夢を見る
怠惰の魔剣こと、プー。
最近戦闘がめっきり減ってしまったことでクマのぬいぐるみ姿で具現化してしまったが、好きな時に食べさせていることで今は落ち着いている。
だがプーはこの姿が気に入ったのか、普段からクマの姿で過ごすことが多い。
ちなみに家では掃除や洗濯をしてくれたりと家事全般を手伝っている。
プー曰く、ただ飯を喰らうわけにはいかないそうだ。
怠惰の魔剣なのに本人は働き者なのとは世も末である。
そんな働く魔剣に触発されたのか、持ち主であるタローは珍しくギルドで依頼を探していた。
「楽そうなやつないかな?」
一見タローの独り言のようだが、タローの肩にはプーが乗っていた。
まるで電気タイプのモンスターを肩に乗せる主人公のようである。
話を振られた肩にのっているクマはピョコっと依頼書を見る。
「(^・ω・^)」
(訳:じ~……)
「どうだ?」
「(`・ω・′)」
(訳:自分、字が読めないです!)
どうやら訊く相手を間違えたようだ。
クマに訊いた時点で気付けよと思うが、そこは知力100。底なしのバカである。
どうしようかと思っていると、そこに一人の男が声をかける。
「貴殿がタロー殿であろうか?」
「へい?」
タローの後ろに立っていたのは和服を着た男性。
左腕が無く、腰に刀を3本帯刀している。
髪形はちょんまげだ。
一言で表せば『隻腕の侍』である。
「拙者の名はロッゾ。Aランク冒険者だ」
「どーもタローです」
「(^・ω・^)」
(訳:どーもプーです)
「……その奇怪な縫いぐるみはどうやって喋っているのだ?」
「あ~気にしないで」
「(^ω^)」
(訳:こういうもんだと思ってください)
「で、なんか用?」
タローが尋ねるとロッゾは袖から依頼書を取り出す。
そこには難度A 『コカトリスの卵の採取』と書かれていた。
「この依頼を受けたいのだが、二人以上じゃないと受けられないのでござるよ」
「ござる?」
「(^・ω・^)?」
(訳:ござるって何でござる?)
「気にしないでほしいでござる」
ござるが気になったでござるが、ロッゾは受けてくれたら報酬は均等に半分にすると言うので、丁度いいと思った。
タローは二つ返事で了承し、二人はコカトリスの生息地まで向かった。
***
<コカトリス>
見た目は鶏の姿をしている鳥類系モンスター。強さはB+。
鶏とは違い飛ぶことも可能である。
爪や血液は猛毒であり、10分以内に解毒薬を飲まなければ命を落とす。
コカトリスの卵からは強力な解毒薬を作ることができ、大抵の毒ならこの薬で対処可能である。
上位種に『バジリスク』というモンスターが存在する。こちらは討伐難度AAに指定されている。
コカトリスが生息する山まで来たタローとロッゾ。
ちなみにタマコは近くの商店が特売日なのでお休みしている。
タローたちは自分の身の上話をしながら歩いていく。
そこでロッゾが語ったのは、隻腕になった経緯だった。
「拙者は昔、転移者が持ち込んだ漫画なる聖典を読んだのだ」
「転移者?」
聴きなれない言葉に疑問を浮かべる。
ロッゾは説明してくれた。
この世界には時折、転移者と呼ばれる者たちがやってくる。
この世界とは別の世界が存在しており、そこでは魔法は空想の中でしか存在しないという。
その代わりなのか、転移者はスキルと呼ばれる能力を有しているらしい。
スキルは魔法とは違い、転移者特有の物である。魔力を消費せずに使うことができるが体力をその分消費する。
転移する前の世界で一度も喧嘩したことが無くても、スキルを持っていれば十二分に戦えるというチートっぷりらしい。
それと、転移者のほとんどが奇想天外な発明をする。
この世界には無い技術などももたらすため、転移者は凄いらしい。
その中の一人が、漫画をこの世界で流行らせたそうだ。
「その漫画に描いてあった人物に憧れ、拙者も真似したのでござる」
「そしたら腕なくなったの?」
「そうでござる」
「……なんかの修行?」
「……いや、修行ではござらん。あれはそう――2年前の武器屋で起こったことでござった」
・・・・・・・
・・・・・
・・・
『店主よ』
『なんだい?』
『この刀と拙者の運、どちらが強いか確かめてみるで候』
『何言ってんのかわかんねぇけどやめてくんない? 普通に危ないし』
『では――いざッッ!』
店主の声には耳を貸さずに拙者はとにかく憧れた男の真似をした。
刀を一本抜き、それを空中に放り投げる。
そして落下する軌道に腕を伸ばした。
回転しながら落ちてくる刀。
ザクッ
ボトッ
『…………』
『…………』
『……これを貰うっ!』
『重症じゃねぇかッッ!』
が、実際はそんなうまくいくはずもなく、拙者の腕は切られていた。
武器屋の店主がすぐに医者を呼んでくれたので、大事には至らなかった。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
「ということがあったのでござる」
「お主はバカでござるか?」
珍しくタローがまともなツッコミをした。
***
「だが、拙者は後悔してはござらん」
ロッゾの瞳に嘘はなく、恥じらう姿もしていなかった。
「何はどうあれ拙者はその男に憧れたのでござる。憧れることは罪ではござらんからな」
「……そっか」
憧れを抱く。夢を見る。
それらを語ると、大抵のものは嘲笑する。
なれるわけがない。
できるわけがない。
そのようなネガティブな言葉は間違いではない。
それが現実。厳しくもそれが真実。
だが、それはやってはいけない理由にはならないのだ。
憧れるだけ、夢を見るだけ無料なのだから。
男なら、女なら、人間なら、ドンと夢を見ればいいのである。
誰に馬鹿にされても、叶えたらソイツを逆に笑い返そうではないか。
叶わなかったら、同じ夢を持つ人が現れたときにアドバイスをしてやろうではないか。
そう、私たちは人間――自由なのだから。
「続けていれば良いことは絶対に起きる。例えば――」
そう言うロッゾの目の前にはお目当ての『コカトリスの卵』があった。
しかも、幸運なことに親はいないようだ。
「たまにこうして、楽に依頼を達成できたりな」
笑う男の顔には、後悔の念などどこにもなかった。
***
依頼を達成しギルドに戻る二人。
報酬を折半してお互いに受け取る。
そのときロッゾはタローにこんな話をした。
「先ほど転移者と言ったが、Sランクの冒険者は皆転移者でござるよ」
「そうなんだ」
「冒険者を続けていれば、その内会うかもしれないでござるな」
そう言ってロッゾはタローと別れる。
一人残るタロー。
「Sランクの冒険者、か……」
「(^・ω・^)?」
(訳:どうかしました?)
彼は何かが気になっていた。
予感、というべきなのだろうか。
「いつか会うかもな」
妙な不安を抱きながらタローもギルドを後にした。
その数日後、ギルドにある知らせが届いた。
――6人のSランク冒険者が、6柱の魔王を討伐した――と。
次回、いよいよ新章突入!




