その後
―――――その後、
元第2王子フォーネル、元宰相家子息シューベル、元騎士団団長子息カイル、元魔導師団団長子息マーティスは、自分達が仕出かした罪を淡々と聞かされ、斬首の刑に処された。
その最期、自分達の罪を悔い貴族としての心を取り戻した彼らは、僅かながら救いがあった。
しかし、元シャメゾン男爵家子女エレナは、気がふれたように暴れ、奇怪な言葉をこぼし、自分の罪を決して認めようとしなかった。
斬首される直前までそれは続き、剣を目の当たりにすると泣き叫んでみっともなく減刑を叫び、斬首の後もおぞましい顔を晒した。
元王子妃候補者達は、イライザは除籍の上修道院へ、他の2人は各家で幽閉される事となった。
イライザの家は、国王の御前で偽証したイライザへの教育に対して責任をとり、爵位を1階級降格した。そして即座にイライザを絶縁し、再度同じ事をしないようにと、貴族社会から隔離された修道院へイライザを送った。
また他の2人はイライザに比べ罪は軽いとされ、厳重注意の上、各家に処遇を任された。しかし、同じような騒動を起こしかねない不安から、両家とも再教育を施し不安がなくなるまで幽閉する事にした。
今回の一件は、貴族社会に激震を巻き起こした。
どれだけ爵位が高かろうと、王族であろうと、気の迷いを起こし正当な判断が出来なくなる、という事。
貴族に相応しくない言動をすれば、王族だろうと除籍される、という事。
そして、正当な判断が出来なくなれば、ここまで愚かな行動を起こす可能性がある、という事。
各々が自分達の立場から事件を振り返り、『貴族としてのあるべき姿』を考えさせられる事となった。
そして、見事無実を証明して見せたレイティーとサラーシャは醜聞など一つも上がらず、むしろ淑女のお手本として称賛された。
以前から約束されていた王家や側近達の家から迷惑料が支払われ、多大なお金と広い人脈を持つ2人は、未婚者のいる家から沢山の婚約の打診を受けるも、すべて断ってしまった。
それは、両人とも「しばらくはのんびりしたい」というささやかな理由だったが、王家の「婚約に関して協力を惜しまない」という約束から、どの家も手出しができなかったのだ。
そして、優良物件の2人には夜会やお茶会の招待が絶え間なく届くようになった。
「ねえ、サラーシャ、あのリボンってホントにエレナが用意したの?」
「ん? ああ、あれね。……たぶんイライザが用意したんじゃないかな?」
「え? そうなの?」
「あ~……いつだったか、エレナとイライザが一緒にいる所を見たのよね~。なんか、最初はイライザが注意してたみたいなんだけど、その内エレナが私達の悪口を言い出してさ、イライザがほくそ笑んでたんだよね。んで、その後なぜかイライザにリボンの事を根掘り葉掘り聞かれたんだよね~」
「……マジか……」
「そんで、その時にオレンジは王子の色だから~とか、出来るだけ王子の色を纏うように言われてるから~とか、紋章が入ってて~とか説明したんだけど、その時のイライザの顔がさ、すんごい引きつってんの。訊かなきゃいいのに、なんで質問してきたんだろうって思ったらさ、これ何かに使われるんじゃないかと思ったんだよね。でも、よく考えたら私達が使ってるオレンジって貴族は使えないから、手に入れるなら庶民からだし、そしたら素材が悪いだろうから、一発で私達のじゃないってバレるからほっときゃいいかなと思って。んで、あのパーティーの最中にあのリボン見て思い出したんだけど、いう必要もないかと思って黙ってた」
「そうなんだ……イライザが……」
「ショック?」
「ううん。それよりも、そんな事よくするな~って感心する」
「まあ、そうね。それよりレイティー、あんたいい男見つけた?」
「う~ん……見つけた事は見つけたけど……」
「え!! 誰!! どんな人!!」
「……えらい食いつくわね。サラーシャはどうなのよ。……第3王子とは」
「なっ?! 何で知ってるの?!」
「ふふん。私にだって伝手はあるからね。それに、あの一年、王城で第3王子となぜかよくすれ違ってたじゃない。あの広い王城でよ? これは何かあると思って観察してたら、第3王子ってばサラーシャをよく見てるんだもん。婚約が白紙になったんなら、きっと第3王子アタックするだろうと思ったし、王家も辺境との関係を悪化させたくないから応援ムードになると思って」
「うわ~……恥ずかしい……」
「いいじゃない。第3王子って結構優秀らしいし、悪い噂もないし。サラーシャだってよく目で追ってたじゃない。婚約すればこの煩わしさからも解き放たれるよ」
「……ぅぅぅぅぅ……レイティーにバレてたなんて……」
「ちょっと、私をどう思ってるのよ?」
「いやごめんごめん。……はぁ~……。まあ、レイティーの言う通り第3王子の事、良いなって思ってるし、王家からも打診が来た」
「おお~。で?」
「……今度、顔合わせします……」
「おめでとう!!」
「……ぁりがとぅ……」
「もう! そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない!」
「……ぃや……その……。……っはああああ………‥。で、レイティーはマジいい人居ないの?」
「ぁ……そのね、いない事もないんだけど……」
「白状しな」
「……私さ、今ハンターギルドで隠れて依頼受けてるんだよね」
「え?! なにそれ羨ましい!!」
「はぁ~、言うと思った。誘おうと思ったけど第3王子との事考えて、誘えなかったのよ」
「あ……」
「もしサラーシャがハンターの仕事してたってバレたら、淑女の鏡じゃなくなっちゃうから破談になるかもしれないじゃない。言える訳ないでしょ?」
「うん、まあ、そうよね……」
「でさ、サラーシャ、この国にSランクのハンターが何人いるか知ってる?」
「2人」
「そう。で、そのうちの一人がつい最近王都にいたのは知ってる?」
「え?! まさかハンター?!」
「ちょ! 声が大きい!」
「あ、ごめん」
「誰もいなかったからいいけど。気を付けてね。……まあ、それで依頼中にお世話になったの」
「そこのとこ詳しく」
「……レッドエイプの討伐にザンガの森に行ったんだけど、仲間を呼ばれちゃってね、30匹以上に囲まれたのよ。なんとか捌いてたんだけど、森だからあんまり魔法使っちゃマズイと思って抑えてて……。そしたら、体当たりされて飛ばされてしばらく動けなくなっちゃったのよ。これは範囲魔法で惨殺するしかないと思ってたら、助けてくれたの」
「ほぇ~。かっこいいじゃん」
「しかも、足くじいてたから姫抱っこされた」
「きゃーーー!!! それでそれで!」
「はぁ……。離れた場所に降ろされて、その後1人でレッドエイプを倒してくれた。ポーションで足治して、お礼を言って立ち去ろうとしたら、森の境界まで送ってくれたの」
「ステキーーー!! 惚れてまうわーーー! で、レイティーも惚れてまったの?」
「……ソウデス……」
「うふふふふ。レイティー顔真っ赤~」
「いいじゃない!」
「いいよ~。で、その人脈アリ?」
「…………」
「ねぇ~、レイティ~。どうなの~?」
「……でっ…‥デートはした。討伐デート」
「それデートじゃないわよ!!」
「これでも誘うのすっごい恥ずかしかったんだからね!」
「そうかもしれないけど~……。もうちょっと色気のあるさぁ~」
「……その人、28なの」
「え? 10歳年上?」
「そう。……年の差もあるけど平民だから、家族に反対されそうだし、他家の人に妨害とかされそうで……」
「あれま……それは……ありえるわ」
「うぐぐぐ……やっぱりそうよね……」
「……まあ、がんばってとしか言えないわ~」
「……そうよね……。はぁぁぁぁぁ……」