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コンサルさんと

「あるんですよ、そういうところが」  白槻は腕を組んだまま言った。

「だから表示をもっと整理しろと言ったんです。情報は見えればいいわけじゃない。読めて、選べて、使えないと意味がない」


「でも、危険度と逃走経路は機能した」  えんちゃんはモニターに映る涼花たちを見ながら反論した。 「しかも転倒時の頸部損傷の注意が入ったから、すずかちゃんは剣じゃなくて体で止めた。あれはよかったです」


「ええ、そこは認めます」


白槻が、意外なほどあっさりうなずいた。


えんちゃんは少しだけ目を丸くする。


このコンサルは基本的に言い方が硬いし、最初の印象も最悪寄りだった。強すぎる主人公、足りない上下動、刺激不足、感情負荷設計――口を開けばそんな話ばかりで、正直、合わないと思っていた。


でも今のうなずきは、数字だけを見ている人間のものじゃなかった。


「……じゃあ、次は?」  えんちゃんが聞く。


「次は、絞ることです」  白槻は画面を指した。

「彼女は考えながら動ける。だから数値を山ほど出す必要はない。必要なのは、いま選ぶべきことだけです」


「優先表示」


「ええ。同行者位置、対象物、危険の質。それ以上は邪魔になる」


「……なるほど」

えんちゃんは少し黙ってから、ぽつりと言った。 「すずかちゃん、傷つけたくないんです」


「知っています」


「え」


「あなた、そこは一貫しているでしょう」


白槻は資料を閉じた。 「だから私は、壊すための設計じゃなく、活かすための負荷に調整しているつもりです。感情を揺らすのは、痛めつけることと同義じゃない」


「……」


「今回の件でも分かったでしょう。彼女は、誰かを助ける局面でよく動く。奪われるより、取り戻す。そういう軸です」


えんちゃんは、少しだけ息をついた。


噛み合わないと思っていた歯車が、ほんの一段だけ合った気がした。


「じゃあ、次の試行は」


「実数値ではなく、短文の補助と予測線。必要最小限」


「了解です」


「あと」


「はい?」


「あなたの現場勘は悪くない。そこは使うべきです」


えんちゃんは一瞬、返事を忘れた。


それはたぶん、白槻なりの褒め方だった。


派手ではないし、甘くもない。けれど、適当に言っていないのが分かる一言だった。


「……がんばります」 「でしょうね。残業はまだ続きますから」 「うわ、そこは現実的」


白槻はほんの少しだけ口元をゆるめた。


モニターの向こうでは、宿へ戻る涼花たちの背中が夜の灯りに照らされている。


小さな盗難騒ぎは、ぎりぎりで収まった。


けれど、本当に問題なのは、盗まれかけた袋に付着していた旧中継塔由来の異常だ。


宿場の夜にまで滲み始めた継ぎ目のほころび。


それが何を意味するのか、まだ誰にも分からない。


ただ一つ分かるのは――


セイルへ向かうこの旅が、もうただの移動では済まないということだけだった。



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