12 新婚生活
昴くんは、事務所からのプレゼントで、年末年始に9日間もオフがもらえた。
「新婚旅行、行って来ようよ!」
「うん。あ、でも実家にも行ったほうがいいんじゃないの?」
「そうだね。じゃ、1泊してから、そのあと行こうよ。どこに行きたい?俺、海外行ってみたい」
「うん、行きたい!でも英語話せないよ」
「それは俺も同じ…。じゃ、日本語通じるハワイ?あ。でも年末年始って、芸能人多そう。あ、そっか。どっかの島にする?オアフ島じゃなくって」
「うん!」
早速私は、旅行会社に当たってみると、一週間のツアーを取ることが出来た。
その旅行に行く前に、式を挙げたらどうだってうちの両親から提案された。
「今からどこか、あいてるのかな」
ウェディングプランナーに頼んでみると、すぐにレストランでの披露宴をプランニングしてくれた。
式はクリスマスの日に決まった。
「聖なる日に式って、なんか、すごいね」
昴くんはちょっと、感動しているようだった。
昴くんがドラマの撮影で忙しい中、私は母とウェディングドレスを選んだり、招待状を送ったり、着々と結婚式と披露宴の準備をした。
そして、あっという間に12月25日は来た。
昴くんは真っ白のタキシード…。ああ!めっちゃかっこいい。
でも、昴くんは私のウェディングドレスを見て、感動してて、自分のかっこよさになんてまったく気づいていないようだ。
『あったりまえじゃん!ひかりの方が何倍も奇麗で…。俺、すんげえ感動してる!』
ほんと、昴くんは目をうるませていた。
式が終わると、披露宴パーティ。いきなりのパーティにもかかわらず、たくさんの人が来てくれた。
ノエルさん、白河さん、海藤玄さんや、そのお子さんたち。葉月ちゃんや悟くん、珠代ちゃん、陽平くん。それに流音さん、漆原さん。薫も美里も来てくれた。みんなで、祝福してくれた。
報道陣もけっこう来て、写真を撮ったりしていたが、テレビカメラは丁重にお断りした。
会場はものすごい光に、包まれていた。何しろみんなで光を出すものだから…。パーティの時のその光はきっと、地球全体を覆うくらいの光だったんじゃなかろうか…。
『ひかり、みんなで祝福してくれてて、俺ら幸せ者だね』
『うん、本当に』
『この幸せが、みんなにどんどん伝わって、みんなも幸せになったらいいね』
『うん』
『そのためにも、これからもずっと、いちゃついていこうね!』
『え?』
『ね?』
くす…。
『うん』
昴くんはにっこりと微笑み、私の手を握った。
あったかいエネルギーが注がれた。
『昴くん、大好きだよ』
昴くんにそう心で言うと、
『おれも、めっちゃ愛してるよ』
と昴くんが光を思い切り出しながら、そう返事した。
翌日、式に昴くんのご家族も来ていたので、実家に泊まるのはやめにして、1日家でゆっくりとしながら、旅行の準備をした。
近くのスーパーに二人して、旅行のための下着やら、冬だというのに、日焼け止めなどを買いに行くとお店の人に、
「あ。もしかして、どこかあったかいところに、旅行ですか?」
と、聞かれた。まだ若い女性の店員さんだった。昴くんは、
「するどいな。ひかりと新婚旅行でハワイ行くんです」
と、ばらしていた。
「素敵。いいな~~。私も行きたいな…」
その女性は、目がハートになりながら、昴くんを見ていた。
「ああ。行けるといいですね、いつかハワイ」
昴くんはにこりと微笑みながら、そう言ったが、いやいや、その女性は多分、昴くんとハワイに行くのを羨ましがってたんだと思う。
昴くんは撮影が忙しくて、なかなか一緒に近くに買い物に行くことも出来ず、ドラマが終わり、ようやくこうやって、二人揃って買い物にも行けるようになった。
「手つなご!」
「え?」
『そんなに恥ずかしがらないでいいじゃん、俺ら、夫婦だよ?』
『そ、そうだけど…』
やっぱりなんか、妙に照れくさい。でも、そんなのおかまいなしに、昴くんは手をつないできた。
それから、レンタルビデオ屋に行き、DVDを借りそしてマンションに戻った。
そして、旅行の支度を終え、のんびりと夕飯を食べてDVDを見終えると、
「明日早いし、もうお風呂入って寝ない?」
と昴くんが言ってきた。おや、めずらしい…。
昨日は式と披露宴で私が疲れてしまい、お風呂に入るとさっさと寝てしまった。夢の中でもまだ、式の続きをしてる感じの夢で、昴くんは夢の中で、
「また、俺と結婚式するの?」
と驚いて、笑っていた。
いいじゃん。だって、昴くんめちゃかっこいいから、何度でも見たいんだもん。
でもその式では、昴くんは紋付袴。そう、それも見たかったんだよね…。私は綿帽子をかぶって白無垢だった。
「白無垢のひかりも、すげえ奇麗~~~」
結局昴くんも夢の中で、大喜びをしてて、夢でも私たちは結婚式を挙げていた。
そして、今日も、またすぐに寝ちゃうんだ…。
「不服?いいよ。疲れてないなら、Hしても」
「Hって言わないでってば!」
「ひかり、疲れてないの?明日からハワイだし…」
「うん、疲れてるかも。やっぱり早くに寝る」
「うん。だから、お風呂は一緒に入ろうね!」
「……」
そう言われると断れないじゃない…。そして一緒に入って、べったりバスタブでくっついていると、
「あ。駄目だ。俺、その気になりました」
と昴くんは、その気になってしまった。やっぱり…、こういう展開…。
『あ。そうなるって思ってた?』
『思ってた…』
『なんだ~~。あはは…』
そして昴くんは優しく、キスをしてくる。ああ。また、私、溶けちゃうな…。
翌日、ハワイに出発。
タクシーを呼び、そのまま成田へ。う~~ん、さすが芸能人?私だったらリムジンバスか電車に乗るな~~。
そして、飛行場に到着。
サングラスに、帽子までかぶっているが、
「天宮昴だ!」
と周りの人に、昴くんはばれていた。そっちを見ると、軽く昴くんは会釈をする。
ありがたかったのは、取材陣がいなかったこと…。
カウンターに行き、手続きを済ませると、ゆっくりとカフェでコーヒーを飲んだ。
「あ~~。もうすぐハワイだ~~」
昴くんがコーヒーを飲んで、にやけてそう言った。
「昴くん、ハワイは初めて?」
「うん。アメリカなら、去年の夏に行ったけど」
ああ、そうだったよね。
「ひかりは?」
「OLの時、友達と行ったよ」
「いいな~~」
「いいな~~って、これから行くじゃない」
「あ。そっか…」
周りにいる人がちらちらとこっちを見ながら、話しているのが聞こえた。
「天宮昴と空野いのりじゃない?」
ああ。私のことも知っちゃってるのよね…。
『いいじゃん。別に。言わせておけば』
昴くんは悠々とコーヒーを飲んでいたが、私はまだ慣れてなくて、どう反応したらいいのか困ってしまう。
「あの…」
二人の20代前半くらいの人が、声をかけてきた。
「はい?」
昴くんが返事をした。
「ご結婚おめでとうございます」
いきなりそう言われて、私はめんくらったが、昴くんはにっこりと微笑んで、
「ありがとうございます」
と丁寧に、答えていた。私も慌てて、横で小声でお礼を言った。
「きゃ~~!」
二人は、私たちのいた席から離れると、声にならない声で喜んでいた。昴くんのファンかな…。
「昴くんに会っちゃった。奇麗だよね!ありがとうってお礼言ってくれたね!」
しばらく二人できゃっきゃってしているのが、聞こえていた。
『すごい。喜んでるね…』
私が心で昴くんにそう言うと、
『うん。嬉しいね』
と昴くんはにっこりと笑いながら、心で返事した。こういうの、素直に喜んじゃう昴くんも、すごいと思うよ。いつもながら…。
『?そう?』
うん。天狗にもならないし、えらぶることもない。
『あはは。だって、俺、別にえらいわけじゃないし』
あ~~あ。天真爛漫な笑顔…。たまらないよね…。
『ひかり…』
『え?何?』
『……』
『あ、照れてる?』
『あんまり、はずいこと言うから…』
『だって、本当のことだもの』
昴くんは席を立ち、真っ赤になりながら、私の手をつかんで、
「もう時間だ。行くよ」
と、歩き出した。
それから飛行機に乗り込んだ。ビジネスクラス…とは行かず、エコノミー。でも、ハワイまでの距離ならそんなに窮屈でもないよね。
『あ、なんだ。窓側じゃないんだ』
昴くんがちょっと残念そうだった。
真ん中、通路側に私が座り、その奥に昴くんが座る。しばらくして、
「すみません」
と、女性二人が私と昴くんのシートの前の狭い隙間を通り、昴くんの隣に空いていた二つのシートに座った。
「ああ。もうすぐハワイだね!ハワイ暑いかな」
少し息を切らして、その二人は話し出す。見た感じ20代。
「年末年始だし、芸能人とかいたりして!」
いやいや、もう隣にもすでにいるんだけど、顔を見ていないからか、気づいていない様子。
しばらく二人は話に盛り上がっていた。昴くんは、そんなのおかまいなしに、イヤホンをつけ、音楽を聞いているようだった。
『ひかり…』
『何?』
『ひかりって、飛行機大丈夫な方?』
『うん。けっこう平気。なんで?』
『離陸するときだけ、手握っててね』
『え?もしかして、怖いの?!』
『ちょ、ちょっとだけだよ』
ぶぷ~~~~。思わずふきだすと、昴くんは、
『なんだよ!笑うなよ!』
と心で怒ってきた。あ、何も話していないのに、ふきだしてるのは変だよね…。
「ごめん、つい」
小さな声でそう返事をした。
「いいよ…。ふんだ」
あ、すねた。
『今から手、つないでてあげようか?』
『もういいよ~~~だ』
あ、完全にすねた。
それから、アナウンスが入り、CAが機内を回りだした。
「シートベルトをお閉めください」
と言いながら。そして、昴くんと私のところにも来て、シートベルトが閉めてあるか確認していて、昴くんに気がついたようだ。
「あ!」
CAが一気に真っ赤になった。
昴くんは目が合ったので、ぺこって軽く会釈をしていた。CAはそのあと私を見ると、ああって何か納得するような表情を見せた。
『昴くんだって、わかったみたいだね。でも昴くんの横の女の子たちは、気づいていないみたいだけど』
『え?』
『ううん、なんでもない』
飛行機が動き出した。
『あ、動いた!』
昴くんはすねてたくせに、私の手を握ってきた。
『この前のアメリカでは、どうしてたのよ?』
『事務所の先輩の手、握ってた』
『え?男の人だよね?』
『うん』
『あはははは。怪しい』
『じゃ、女性スタッフと手つないでた方が良かった?』
『い、嫌かも…』
『でしょ?ああ!わあ!』
『え?』
『飛んだ?!』
『うん』
体がフワって浮いた。
『幽体離脱もしてるし、宇宙船にまで行くくせに、こういうの苦手なの?』
『魂が浮くだけなら、平気なの!』
くす…。変なの。
『どうせね!』
あ、またすねた。飛行機が無事飛び立ったせいか、昴くんは手を離した。
しばらくして、シートベルトを外していいというサインが出ると、昴くんはさっさと外し、
「俺、トイレ」
と席を立って、トイレに向かっていった。…緊張のあまり、気持ちが悪くなった……、とか?
『ちげえよ。緊張のあまり、トイレが近くなっただけでえ!』
ぶふ…。あ、やばい。また一人で笑ったら、変に思われるよね。
ぽつんと昴くんの席が空いたので、その隣にいる女の子たちが見えた。ハワイのガイドブックを一人が見て、もう一人は何かの雑誌を読んでいる。
「ここに行きたいんだよ~~」
一人は、ハワイのどこかの店に行きたいらしい。
「あ~~~。なんってかっこいいのかな」
もう一人は、雑誌を見ながらそこに写っている誰かに、見とれている様子だ。誰だかまでは、ここからは見えない。
「もう~~。ハワイに行くんだから、ハワイのこと考えようよ」
と友達に言われている。
「ゆみとハワイもいいけど、彼氏と行きたかった!」
「それはこっちも同じだよ。でも、彼氏できなかったんだからしょうがないじゃん」
ふふ…。まだ、10代かもしれないな。化粧が濃くてわからないけど。
「あ~~あ。今年こそって思ってたのに、またクリスマスも女友達と飲んで歌って終わったし」
「あやは~~、昴ばっかおいかけてっから、彼氏もできないんでしょ?」
す、昴?
「ゆみだって、せっかく彼いたのに、3ヶ月で別れたじゃん」
「向こうが浮気したんだもん。もう、それ言わないで。また頭に血がのぼるから」
昴?まだ私は、その言葉にひっかかっていた。昴くんの隣の席の子だ。見ている雑誌のページをどうにか見ようとしても、覗き込む形になるから、見れなかった。
そこに昴くんが、戻ってきた。
『ひかり、ごめん…、前通るよ』
昴くんはなぜか、心で話をするから、声もあまり出してないし、隣の子も気づいていないんだろうな。
もし、昴くんのファンだったら、すんごいびっくりすると思うんだけど…。
『もう、緊張取れた?』
と心で聞いてみた。
『うん。あとは、着陸のときね。また、手つないでね』
『うん。わかった』
ほんと、可愛いよね…。
CAがお絞りと飲み物を運び出した。
「お飲み物は、何がよろしいですか?」
「コーヒーください」
私はコーヒーをもらった。昴くんは、
「オレンジジュースありますか?」
と聞いていた。
「はい。ございます」
さっきのCAの人だ。また、顔を赤らめていた。
CAからジュースを受け取ると、
「ありがとう」
と昴くんは、にっこりと微笑んだ。CAはますます、顔を真っ赤にした。そりゃ、そうだ。その笑顔はずるい。誰でも、惚れちゃうよ。あ、昔あったよね、そんなギャグ。
『惚れてまうやろ~~~』
『あはは!ひかり、やめて。ジュースふきだしそうになった』
隣で、笑うのをこらえながら、昴くんが心で言ってきた。
CAはさらに昴くんの隣の女の子にも、
「お飲み物は何がよろしいですか?」
と聞いていた。
「あ、えっと…」
昴くんのコップに入ってるジュースを見ながら、
「オレンジジュース」
と言うとその横の子も、
「私も」
と答えていた。CAがコップを持って、その子に渡そうと手を伸ばすと、昴くんがさっと手を出して受け取り、
「はい」
とまず、奥の子に手渡した。
「あ、すみません」
奥の子が恐縮しながら、受け取る。もう一個CAがコップにジュースを入れると、それも昴くんが受け取り、
「はい」
と隣の子のテーブルの上に乗せようとして、雑誌が乗っているのを見て、
「あ…」
と小さく声を出した。
「すみません。雑誌しまいます」
その子が慌てると、
「ああ。ゆっくりで大丈夫」
と昴くんは言いながら、心の中で、
『雑誌、俺の特集載ってるやつだ』
と私に言ってきた。
『やっぱり?』
『え?なんでやっぱり?』
『さっき、女の子たち二人の会話が聞こえてきて、昴くんのファンだって言ってたから』
『まじ?』
女の子は、雑誌を足元の鞄に押し込んだ。昴くんは、コップをテーブルに置いてあげた。
「すみません」
その女の子は多分、気づいていない。でも、その横の子が昴くんを凝視している。
『あ。気づいたかも』
『え?』
『隣の隣の子。昴くんのこと見てるよ』
『え?』
昴くんはその子の方を見ると、その子の目はみるみるでかくなり、隣の子の肩を黙ってたたき出した。
「何よ?ゆみ!痛いな~」
「隣…」
その子はささやくように、そう言ったが丸聞こえだ。
「え?」
ゆみって子にそう言われたが、まったくその女の子は気づいていない。
「さっきの雑誌、誰か好きな俳優が載ってるんですか?」
いきなり、昴くんがその子に聞いていた。
き、聞いちゃうの?
「あ、見られちゃいました?天宮昴くんの特集で、今日出たばかりで、コンビ二で買ってきたんです。ハワイに持って行くのかって、ゆみに笑われたけど、いいじゃないですかね~~?昴くんのこと、ハワイで見てても…」
まだ、気づいてないらしい…。
「あ、やっぱ、俺?」
昴くんがそう言うと、ようやくそのこは昴くんの顔を見た。
「……!うひゃ~~っ!!!」
その子は、両手で口を押さえ、しばらく固まった。そうだよね、そういうリアクションになるよね。いきなり隣にいたんじゃさ…。
それから、みるみる真っ赤になり、それでもその子は固まっていた。横の子が、
「だから、言ったのに…」
と小さくつぶやいた。
「え?ゆみ、知ってたの?」
その女の子がようやく口を開いたが、返事を聞かずまたこっちを見ると、
「ハ、ハワイ行くんですか?」
と昴くんに聞いた。
「はい。新婚旅行で」
昴くんは、にっこりと微笑んで答えた。
「新婚旅行?」
その子は初めて、私の方を見た。
「あ!」
私に気づいたようだ。
「二人で、ハワイに旅行ですか?」
昴くんが聞いた。
「はい。初のボーナスで」
「へえ。そうなんすか…」
「わ~~。信じられない。横にいる」
そう言うと、その子は自分のほっぺを思い切りつねった。
「痛い!」
「だ、大丈夫ですか?」
昴くんが聞くと、
「夢じゃない」
とその子は目を潤ませた。
「わあ。本物だ~~」
「……」
昴くんはリアクションに困っていた。
「か、かっこいい~~。肌奇麗。美しい」
その子の発する言葉に、思い切り戸惑ってもいた。
『あ、照れてる?』
心で、言うと、
『うっせえやい』
と返ってきた。
「新婚旅行…なんですか?」
その横の、ゆみって子が聞いてきた。
「はい」
昴くんがまた、笑顔で答えた。
「オアフ島に行くんですか?」
ゆみって子が聞いてくる。
「いえ。俺らはマウイ島」
「な、な~~んだ」
昴くんの隣の子が、残念がった。
「私たちオアフ島だけなんですう…。なんだ。向こうじゃ会えないですね」
「あや、なに言ってんの。新婚旅行邪魔しちゃ駄目だよ。それに今、隣にいるだけで奇跡だって!」
「そ、そうだよね!」
「あやさんっていうんだ」
昴くんがそう言うと、
「はい。わ~~~。昴くんに名前呼ばれちゃった」
と真っ赤になった。それから、しばらくそのあやっていう子は、黙って前を見て、
「なんか、あの…。昴くんっていい匂いがするんですね」
と言った。
「え?俺?え?どんな?」
昴くんが慌てた。
「石鹸か…」
「石鹸?シャンプーかな?」
「あ、そうかな」
「あ、もしかして、昨日ひかりのシャンプーで俺の頭、洗った?」
いきなり、昴くんは私に聞いてきた。
「ああ…。そうかも。何も考えないで、シャンプー手にしてたから」
「……」
その会話に女の子二人は、目が点になっていた。
「あの、もしかして、ひかりさんが昴くんの髪を洗ってあげてる…、とか?」
あやさんが聞いてきた。
「うん。そうです」
昴くんはうなづいた。
『あ~昴くん、そんなことばらさなくても』
『え?なんで恥ずかしがってんの?』
私は隣で、真っ赤になっていたようだ。
しばらく昴くんは、あやさんとゆみさんと会話をしていたが、そのうちにご飯が運ばれてきて、それも昴くんが、二人のテーブルに置いてあげたりして、あやさんは真っ赤になって、喜んでいた。
「いただきます」
昴くんは元気にそう言うと、ご飯にばくついた。元気だな…。別に高所恐怖症なわけじゃないんだよね。
『うん、離陸と着陸が苦手なだけ』
ばくつきながら、心で答えてきた。
すごいスピードで昴くんはご飯を食べ終わると、
「あ、眠くなっちゃった…」
と、あくびをした。私がご飯を食べ終わる頃には、昴くんはしっかり寝息を立てて寝ていた。
「わ、寝ちゃった…。寝顔だ!」
と、あやさんとゆみさんが覗き込みながら、喜んでいた。
昴くんは、私の方にだんだんと頭をずらしてきて、すっかり私にもたれかかった。
『ひかり~~。どこ?』
夢で探しているらしい。
『俺一人で観光しちゃうよ』
もしかしてもう、夢の中じゃハワイにいるんだろうか。
『あ!すげえ!カンガルー!』
オーストラリア?もしや…。
『わ!早くひかりもおいでよ!すごいよ。オーロラ』
どこに行ってるんだ?!
すやすや寝ている昴くんのことを、あやさんはちらちら見ていた。私は昴くんがもたれかかっているのを、どうしていいものか悩んだ挙句、そのままにしておいた。
私は、どうも眠くならなかったので起きていると、いきなり機体が揺れだした。
「わ!何これ。すごい揺れる!」
あやさんとゆみさんが、怖がっていた。私は前にハワイに行ったときも、かなりの揺れだったから、そんなに気にならなかったけど、昴くんがその揺れを感じ取ったらしく、飛び起きた。
「何?何?なんでこんなに揺れてんの?」
ポン…。シートベルトのサインがついた。CAの人たちがいきなり、みんなにシートベルトをするよう言って回り出した。
『ひかり、なんで揺れてるの?』
『気流のせいじゃないかな?前にハワイに行ったときにもこうなったよ』
『嘘!そういうのは、ハワイに行くって決める前に言ってよ!』
『怖いの?』
『こ、こ、怖くないけど!』
と言いつつ私の手を握ってくる。
ガタガタガタガタ……。かなりの揺れとたまに、ヒュ~~って機体が下に下がる。体が浮いたようになる。
『げげ…』
昴くんを見ると、顔がかなり青い。
『大丈夫?気持ち悪いの?』
『だ、大丈夫』
『もうこうなったら、幽体離脱して、宇宙船にでも行っとく?』
『行ってもいいけど、一瞬しか時間たたないじゃん。帰ってきても、きっとまだこの状態だよ』
確かに…。ああ、だったら、すっかり夢の中にいたらよかったのに…。
『ひかり、怖くないの?』
『うん』
『つえ~~~!』
『そうかな?』
『だって、周り見てみなよ。真っ青だよ。隣のあやさんだって、すんげえ神妙な顔つき』
『だね…』
そして、辺り1面が黒い霧で覆われてるのに気づいた。
『昴くん、光出さなきゃ…』
『う、うん。わあ~~!またすげえ揺れた!』
昴くんからも、恐怖だか不安の黒い霧が出る。私が昴くんを、光で包み込むと、昴くんはそれに気がつき、
『サンキュー』
と力なく心で言った。
『大丈夫?』
『うん。ちょっと落ち着いた。あ、ひかり外見て』
窓から外を見ると、雲の中に入ってしまったようだったが、その雲がどんどん黒くなり、渦巻き出した。
『黒い霧?』
『なんだろう…機内もみんなが、怖がってるけど、あの黒い霧に影響されてるのか、それともみんなの不安が呼んじゃったのか…』
昴くんは、いきなり私の手を強く握り締め、
『ひかり、愛してるよ。すんげえ、愛してるよ』
と心で言ってきて、すごい光を出し始めた。私も、同じように光を出した。二人の光が混ざり合い、周りの黒い霧を消していったが、窓の外の霧は消えなかった。
『なんでだ?光が足りないのか?』
また、機内も黒い霧で覆われだした。その時、窓の外からものすごい光が飛び込んできた。目もくらむような…。
「何?太陽?」
昴くんは目を細めて、窓の外を見た。私も見てみると、その光の中にUFOが見えた。
『あ!』
私と昴くんはものすごく驚いたが、周りの人もその光に驚き、
「何?この光…」
と窓の外をみんなが見出した頃には、そのUFOは消えてしまっていた。
『あれ、もしかすると…』
『え?』
『悟さんかも』
『え?!』
『悟さんから出る光と、同じエネルギーを感じた』
『悟くんが乗ってたUFOなの?』
『悟さんの高い波動の、エネルギーかもしれないけど…』
その光で機体が包まれたあと、揺れがぴたりとおさまった。窓の外の黒い霧もまったく、消えてなくなっていた。
『あの光で浄化されたんだね…』
『うん』
シートベルトのサインのランプも消え、私と昴くんはシートベルトを外した。
「は~~。良かった」
昴くんは大きくため息をつき、また私にもたれかかってきた。
「もう少し寝る…」
そう言うと、本当にまたすぐ眠りについたようだ。相変わらずの寝つきのよさ…。
『時差ぼけになってもしらないよ』
『それは逆。今寝ておかないと、ハワイについてからがきついよ』
寝てるのに私の心の声に答えてきた。相変わらず、器用だわ…。
そして、無事ハワイに着いた。
スーツケースが出てくるのを待っていると、あやさんとゆみさんが来て、
「私たちこれで、失礼します」
と言ってきた。
「あ、旅を楽しんでくださいね」
昴くんがそう言うと、二人は握手を求めてきて、昴くんはにっこりと微笑みながら、握手をしてあげていた。
「嬉しい!ありがとう!」
二人は喜んで、そしてその場を立ち去った。