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11.掲示板

 キルコ村を出たハナは、予定通りリリィを連れて昼前にヘムルの町へ戻ってきていた。

 どこの町でも出入りは自由で、身分証の提示などを求められることはない。


 ハナはヘムルの町で、リリィに町での生活を教えようかと考えていたが、この町に長く滞在するのはなんとなく危険な気がしたので、明日にはヘムルを出ることにした。

 だから、今日は色々とやっておく事があるので、リリィには宿屋で待っていてもらうことにして、冒険者ギルドや肉屋へ行く予定だ。


 ギルドの着くと、受付でキルコ村での調査依頼の完了報告と、Dランクへの昇級を申請した。

 昇級審査の結果はすぐに出ると言われたので、ギルド内でしばらく待つことにした。

 今日は、この前と違っていつもの落ち着いた雰囲気で、冒険者の数も少ない。


 待っている間、掲示板でも見てみようと、ハナは掲示板の前に向かった。


(もう緊急依頼はなくなっているみたいだ。捜索はどうなったんだろう? 魔物が見つかっていないのは知ってるけど……)


 しばらくすると、ハナの背後にやってきた冒険者の会話が耳に入ってきた。


「しかし、代り映えのしない依頼しかねーな。この前の緊急依頼みたいなヤツねーのかな」

「結局、緊急依頼が出ていたのは、あの日だけでしたからね。今は良くも悪くも通常通りといった感じですね」


(あれ? この二人は、この前も掲示板の前にいた二人だよね)


 キルコ村へ行く前にも、掲示板の前にいた二人だ。


「そういや、あの魔物の捜索は急に打ち切りになったが、いったいどうなってんだ? 何か新しい情報はないのか?」

「ありますよ。どうも、魔物は逃げ出したのではなく、何者かに盗まれた可能性が高いようです。それで捜索が打ち切られたみたいですね」


(えっと、本人は逃げ出したと言ってましたが……。てゆーか、二人の会話が気になって掲示板に気が向かない)


「盗まれた?」

「ええ。魔物の入っていた檻はどこも壊れていなくて、足跡とかの逃げ出した痕跡もなかったらしいですよ。そもそも、逃げ出した魔物は『子供のドラゴン』らしいですから、逃げ出せば誰かが気づいてその場で何か対処されたでしょうしね」

「まじかよ。子供でもドラゴンはヤバいだろ」

「ええ。ですから情報が錯綜して、まずは緊急依頼で捜索となったのでしょう」


(やっぱり、『人の姿になれるドラゴン』っていう情報はないみたいだね。よかった)


「それにしてもよ、檻に入ったドラゴンをどうやって盗むんだ? 魔法か?」

「魔法以外には考えにくいでしょうね。収納魔法は、生きた動物は収納できないので違うでしょうから、おそらく転移系の魔法でしょう。でも、ドラゴンに直接触れたまま呪文を唱えなければ転移できませんから、近づいてドラゴンが激しく暴れたりして、邪魔が入る可能性が高いです。それに加え、転移魔法に使う触媒は非常に高価なので、不確定要素が多いと使いにくいでしょうけどね」

「なるほどなあ……。でも、かなり難しいが不可能ではないって事か」

「ええ。ですから、状況からみて『おそらく盗まれた』と判断したのでしょう」


(盗まれたって事は、盗んだ犯人はわたし、って事? いやいや、盗んでませんから!  たまたま出会ったドラゴンを助けただけだし、わたしは魔法も使えませんよ。やっぱり、この町からとっとと出ていこう!)


「それにしても、お前の情報収集力はたいしたもんだな。お前をパーティに引き入れて正解だったぜ。ま、俺は人を見る目があるからな」

「情報収集は大事ですよ? 依頼の成功率にも影響しますからね」

「それは分かってるけどよ、俺には向いてないんだよなあ。ちなみにだ……」


(ポン!)

(ん? 誰かがわたしの肩に手を置いた?)


「この嬢ちゃんの情報もあるのか?」

「ぇ? わたし?(いきなり話しかけられたんですけど……)」

「このお嬢さんですか? そういえば、最近若い女性の冒険者が出入りしているという噂を聞きましたが、あなたの事ですかね?」

「うーん。確かに最近この町に来たけど……」


 ハナは自分が噂されていることに驚き、やっぱり早くこの町を出ようと思った。


「へー、最近来たのかい。調子はどうだい?」

「わたし、まだEランクなんで……。あ、でも、さっきDランクへの昇級を申請したんで、今日からDランクになるはずです」

「お、昇級とはめでたいな。嬢ちゃんのパーティは、どんなパーティなんだ?」

「わたし、パーティ向きじゃないので、ソロで活動していまして……」


 二人の男性は急に周囲を見て、何かを確認したようだった。

 そして、ハナの耳元に顔を寄せて小声で言った。


「嬢ちゃん。自分がソロだってことは、人に言うな。『わたしを殺して、持ち物を奪ってください』って言ってるようなもんだぞ。そうでなくても女は目立つんだ、気を付けな……」


 ハナは、ハッとした。

 偶然、周囲には他の冒険者はいなかったが、たしかに迂闊な発言だった。


「こっちが聞いといてなんだが、こういうときは上手くごまかしな。あと、気さくに話しかけてくる感じでも、お前を襲うための情報を集めている場合もあるからな、つねに気を抜くな」

「じゃあ、今も……」


 ハナは二人を見ながら一歩下がった。


「ちょ! 俺たちは違うぞ! な、なあ?」

「え、ええ。困りましたね……」

「冗談ですよ。わたしを襲うつもりなら『気を抜くな』なんて言わないでしょ? 忠告ありがとうございます」


 ハナは、ウルフの群れを倒して、少し調子に乗っていた自分を反省した。

 あらためて、現実の厳しさを突き付けられたのだ。

 町の外が危険なのは誰にでも分かるが、町の中でも気を抜くなと。


 両親からは十分注意するように言われていたが、どこか実感が湧いていなかった。

 忠告してくれるような知り合いもいなかったので、他人から言われて初めて実感したかっこうだ。


「あ、ああ。まあ、あれだ。気をつけな」

「おせっかいかもしれませんが、今夜の酒代のために人を殺すような冒険者だっていますからね」

「はい。気をつけます」


 ここは地球とは違うのだ。

 それに、これからは自分が気を抜けばリリィも危険にさらすことになる。


「まあでも、Dランクに昇級とは、頑張ってるな。前衛なんだろ? メインの武器は何だ?」

「これ! あ……」


 自信満々に左手のルーカスを見せたが、盾は一般的には防具だ。

 腰には一応ショートソードも装備しているというのに。


「お嬢さん、それは武器じゃなくて防具ですよ」

「あ、あはは……。えっと、武器はこの安物のショートソードかな……」

「……なあ、嬢ちゃん。名前は何て言うんだ?」

「ハナです」

「……そうか。俺はポルコ、こっちはグレンだ。俺たちはもうすぐCランクに上がる予定だ。よろしくな」


 ハナはポルコが差し出した手を握った。

 続いてグレンとも握手した。


「こちらこそ、よろしくです!」

「グレン、ハナを覚えとけ。これは勘だが、きっとハナは、いい冒険者になる」

「え? わ、わたしが?」

「それは楽しみですね。しっかり覚えておきますよ」

「ああ。さっきも言ったが、俺は人を見る目があるんだ」


 その時、ギルド職員の女性から声がかかった。


「ハナさん、いらっしゃいますか?」


 カウンターで手を挙げている女性に、わたしも手を挙げて応えた。


「すみません、呼ばれちゃいました」

「ああ、行ってきな。グレン、俺たちもそろそろ行こう」

「そうですね」

「じゃあな、ハナ。またな」

「はい、また!」


 ハナがポルコたちと別れてカウンターへ行くと、依頼を受けた時のギルド職員の女性が嬉しそうに待っていた。


「昇級おめでとうございます。それと、例の依頼も受けていただいてありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございます。まだ、あまり昇級とか意識していなかったので、提案してくれて助かりました」


 新しいギルドカードと依頼の報酬を受け取り、明日にはヘムルの町を出る事を伝えてギルドを出た。


 ギルドを出る時には、すでにポルコとグレンの姿はなかった。


(あの二人にも、明日にはヘムルの町を出ると伝えておけば良かったかな。他の冒険者と自己紹介をしたのは初めてだったし、それに『いい冒険者になる』って言ってもらえてけっこう嬉しかった)


「また会えるといいな……」





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