プロローグ
色々多忙で2~3年フォルダ内で眠っていたお話です…。
ストックがなくなりしだいマイペース更新になりますので、のんびりお付き合いよろしくお願いします。
王族が主催する夜会は、ひときわ華やかで煌びやかだ。
贅の限りを尽くし整えられたフロアに、艶やかな花が咲き誇るようなドレスの彩り、有名な楽団が演奏する美しい旋律が広がり人々に寄り添っている。
夜のとばりが下りた静かな庭園にも、わずかではあるが軽やかな音が洩れ聞こえていた。
権威を誇示していると感じるのは、あながち穿った考えではないはずだ。
今夜は特に、そうしなければいけない理由が王家にはあった。
夜会には滅多に姿を見せない家も含め、国内すべての貴族家が出席しているからだ。
端的に言えば見栄だ。
現王家は、先代国王が抱いた野心のせいで権威が失墜している。国を、地位を盤石たらしめた、血筋に受け継がれてきた女神の加護も失った。
当時の残忍で非道な行いに唯一否を突きつけ、国が未曾有の危機に瀕する一歩手前で回避したルドウィグ公爵家に王家は頭が上がらなくなり、すべてにおいて遠く及ばなくなった。
当事者からすれば、因果応報と言わざるを得ない。
それなのに王家は、ルドウィグ公爵家をさりげなく牽制し、対抗心を燃やしているのだから権力に固執した者は性質が悪かった。
主催者の人間性が遺憾なく反映された夜会は、作り笑いを貼り付け、腹の探り合いばかりの疲れる場だ。抜け出したくなる気持ちはわかる。
(どこ行った?)
こっそり会場を抜け出す背を追って足を踏み入れた庭園に、人影はなかった。
庭師が丹精込め育てた花々が美しく咲き誇り、少しひんやりする夜風に揺れている。けれど景観を楽しむ余裕などなく、脳裏に思い浮かべた麗しい人を探す。
見失うほど、距離は開いていないはずだ。
(いた)
喜ぶと同時に、美の化身とも言えるその姿に目を奪われる。呼吸さえも忘れた。
明るい月が降り注ぐ優しい光に照らされてなおも、周囲の闇に溶け込むような漆黒の髪、先ほど目が合ったときには息が止まるかと思った濃紺の瞳、その怜悧な美貌は夜の庭園に艶やかに美しく映えた。
目が離せない。
一目惚れなど信じていなかったけれど、我が身に起きればあるのだと認めざるを得ない。その姿を瞳に映した瞬間に、運命だと思った。
「あの」
一期一会という言葉もある。
勇気を出して、声をかけた。
「はい」
静かに返ってくる声さえ麗しい。
感動を覚えながらも、足を止めてくれたのをこれ幸いと距離を詰める。手を伸ばせば触れられるところまで行くと足を止め、目を合わせた。
周囲に人の気配はない。
こんなところに美しい人が供もつけずに一人でいて、誰かに襲われたどうするんだと心の中で憤る。なんて、無防備なんだ。
けれどチャンスだ。
こんな機会はきっともうない。
思うままに生きると決めたその誓いの通りに、美しい人の前ですっと跪く。
「なにを」
落とされるのは、戸惑いが滲む声だ。
見下ろしてくるその瞳の真っ直ぐさに、心が震えた。
「一目見て、恋に落ちました。どうか私と結婚してください」
手を取り、真摯に気持ちを伝える。そして愛を乞うように、手袋越しに甲へと口づけた。
「……ベラーニ伯爵令嬢、頭は大丈夫ですか」
するりと、手が逃げる。向けられる眼差しも声も冷ややかで辛辣だ。
けれどまったく気にならない。
「はい。私はいたって真面目で真剣です。どうか私と結婚してください。ルドウィグ公爵様」
にっこりと笑って、クリスティアは再度求婚の言葉を口にした。
相変わらずヒロインが我が道を行くお話です。
そんなに長くならない予定です。




