第五十四話 新幹線の中
修学旅行の帰りの新幹線、生徒で賑わう車両、あっちもこっちも旅行の話で持ち切りの中、ボクはいつもの四人で向かい合って座って旅の話に華を咲かせている最中だ
「もう絶対高い所に行く乗り物は乗らないから!強引なのよ千秋は!」
未だにご立腹の紗良、泣き過ぎてクールな目が腫れぼったい
それを見て小さくほくそ笑んでやったボクだったが、紗良がジト目でボクを見て言ってくる
「それより・・さっきから手堂々と繋いでるね・・?急にどうしたの?あんた達?」
さり気なくアームレストに置いたボクの手に重ねるように手を置くリキ、ボクは今更ながら恥ずかしくなって話題をそらすように話しだす
「どうもしないよ・・?それよりさ、源八朗だよ紗良!観覧車で話したでしょ?」
旅のお供の綱島園のお茶をすすってやりながら紗良の反応を伺うボク
お茶を見て思い出したのか、紗良が源八朗に食いついてきた
「そう言えば・・!源八朗ってもしかして綱島源八朗氏の事?綱島氏は綱島園の創業者の名前だよ?千秋知ってるの?」
その言葉にボクは指をグッと紗良に突き出すと堂々と言ってやった
「まぁね!思い出したよ!ボク学校帰りにパンクした軽自動車のおじさん助けたんだ!綱島源八朗って名乗ってすぐに行っちゃったけど・・なかなかに太っちょだったよ?お茶も飲み過ぎると太るのかな??」
お腹に手を置き高速でドリブルもどきをしてやるボク、それを見ていた紗良はため息をついて呆れた表情でボクに言った
「太っちょって・・あんた失礼にも程があるわよ?まぁ綱島氏が太ってるかは私はわからないけど・・千秋が助けた人が綱島園の創業者で現会長の綱島氏なら今回の突然の訪問もわからなくわないわね、綱島氏は人を見抜く力がずば抜けてるって聞いたことあるし」
目を瞑り眉間にシワを寄せ老化を促進させて頷いている紗良
ただのメガネオヤジじゃなかったのか・・
やはり只者ではなかったな・・!
その選球眼・・褒めてつかわそうぞ!
だが!
ボクは太っちょなお腹のドリブルは諦めてないぞ!
なにせこのボクを・・
「やり逃げしてったオヤジだからな・・!」
突然のボクの小さなリアル心の声、トナリで嫌でも聞こえたリキの手がボクの手の上でピクッと反応して話しだす
「や・・やり逃げ・・?オヤジに・・?千秋さん・・が・・」
なにやらドンヨリ顔色が悪いリキ、悪いものでも食べたかと思ったが、ボクはハッと気付いて苦笑いを向け説明してやる
「違う違う・・別にいかがわしい事された訳じゃないよ?タイヤ交換した挙げ句に汚れたボクを呼び止めて名乗らせてから捨てるように走り去って行ったから・・まぁボクがやるって言ったから源八朗は悪くないんだけどね・・リキ君心配した?」
そう言ってリキの力のない手を仲良し繋ぎをしてやってスリスリ指で撫でてやるボク
真っ赤になった顔をニヤニヤしながらチラ見してやると、目を泳がせて「いい景色だなぁ!」とか言ってトンネルの中なのに外を見始めたリキ
それをニヤけた顔で見てた智秋が、えばってボク達に話しかけてくる
「君達・・まだまだだな!恋人繋ぎしたくらいで恥ずかしがってるようでは!俺はすでにその先まで経験済みだからその程度では狼狽えんぞ?A.B.Cどこまでとは教えられんがな!」
誰も聞いてないのに突然、公然暴露する智秋、隣の紗良も焦ったのか鬼神の形相で智秋の腕を捻りを加えながらフルパワーでつねっている
「黙れ!しかも例えが古い!何公然とプライベート話してるのよ!そんな事言わなくていい!」
頬を赤らめちゃって・・
小説的にタイトルを付けるとすると・・【紗良と智秋の照れ隠し】だな・・!
ふふふ・・我ながら良いネーミングだ・・!
それにしても、紗良のあの動揺っぷり・・
手繋ぎより先は・・真か・・?
あの照れ隠し・・初を表面化してはいるがあれは演技・・
流石、鬼の神・・と言ったところか・・
やることはやってるのぅ・・!
だが!
甘いのだよ・・?
このボクはアクシデントキッスをすでに昨日済ませているのだ・・
しかも味まで確かめてやったのだぞ?
ボク達の仲は限りなくCに近いBなのだ!
鬼神め!このボクに平伏するがいい!!
脳内でお子様なABCでマウントを取ってやったところで咳払いをした紗良がボクに話しかけてくる
「話が逸れたけど・・千秋?明後日その綱島園の会長が事務所にまた来るらしいから、さっきみたいな失礼な発言がないようにしてよ?わかった?」
失礼にも指をボクに向けて上からものを言ってくるエセ初紗良に、ボクは少し腹が立って控えめに言い返してやった
「初な紗良に言われたくないねぇ・・大丈夫・・ボクは人様に指さして話したりしないよ・・?紗良みたいにすぐ怒んないし・・」
それを聞いた紗良が少しピクッと眉間を動かすと、少し含み笑いをしながら妖しい目つきでボクに言う
「あら・・?初って千秋の事じゃないの?
まだちゃんと付き合ってもいないんでしょ?お子様な千秋にはお友達が精一杯かしら?私は智秋の事・・全部知ってるわよ?なにせ結婚前提ですから!」
急にエンジンが掛かり、高飛車にボクをマウントしてきた紗良、だがそんなことより智秋の全部と言う言葉にボクは崖から落とされ驚愕していた
全部だと・・!!
それは頭のてっぺんから足の先っちょまで全部という意味か!?
な・・何という・・
破廉恥な・・!!
おのれっ!!鬼神め!!
神の力をそんな事に使うとは!!
フルフルとこぶしを力の限り握りしめ、震わせるボク
それを見た紗良がニコッと笑い言ってくる
「なんてね!昨日の観覧車のお返しだよ?そんな破廉恥なこと堂々と千秋じゃあるまいし言わないよ?」
それを聞いた隣の智秋の目が何故かビー玉みたいになって紗良を見つめている
その反応にボクとリキは疑いの眼差しで紗良を透視するのであった
鬼の神紗良にボク達は翻弄され、そのクールな表情とは裏腹に情熱的になった紗良を想像して【ボクにもリキのお世話が出来るのかな・・?】と妄想して赤面、ボク達は対面する二人に弄られながら、忙しくもボクの修学旅行は幕を閉じた




