第二十七話 プロフェッショナルな仕事
「若槻さん、彼女・・自由奔放すぎませんか?大丈夫・・ですかね?私も何人かモデルさん見てきてますけど・・あんなに自然体な方見たことなくて・・
それに今日の彼女はイベントの時程のオーラがないというか・・モデルさんっぽくないというか・・自分で指名して何なんですけど心配で・・」
焦って若槻さんにそう言ってしまった私
控え室の彼女を見ていたら不安で仕方なくなってしまった
会社の明暗と私の降格が掛かっているから尚更だ
不安な顔が払拭出来ずにいると気を使ったのか若槻さんが話しだした
「大丈夫です、akiは新人ですが近年稀に見る才能を持ったモデルです
私が知る限りakiはONとOFFの差が激しいようでして・・」
その話を聞いたがやっぱり半信半疑、そもそもONになるのか?と言う新たな不安も生まれてしまった
それを見ていたakiさんのマネージャーさんにも話しかけられた
「akiなら大丈夫です!普段はちょっとあれですけど仕事モードの切り替えはしっかり仕込まれてますから!」
仕込まれる??仕事とプライベートって仕込まれて覚えるものだっけ??
やっぱり高校生か・・
お願いした私は見る目がなかったのかも・・
社運を掛けた最後の仕事、かもしれない今日
絶望と不安に押し潰されそうな私が大きなため息を吐いた時、スタジオの扉が開いてakiさんが入ってきた
その瞬間、先程までと違った空気感を感じ取った私はその女性に完全に目を奪われてしまった
当社が指定したシックなブラウンのスリットワンピースに身を包み、フワッと揺れたスリットから覗かせる若々しく張りのある白く長い脚が女の私をも魅了してくる
ふと上に視線を移すと揺れるストレートヘアがサラサラと無造作に揺れスタジオの照明に照らされ妖しく輝き、髪から覗かせる表情は自信に満ち溢れ余裕さえ感じ取れるほどの微笑みを薄っすらと浮かべていた
その姿を見て私は理解した
これこそがプロフェッショナル
控え室での所業など彼女にとっては戦いの前のウォーミングアップでありルーティン
これほどまでに大人びて一般人が絶対に帯びることが出来ないオーラを放つモデルなど今までに見たことがない
仕草の一つ一つが妖艶、威圧感さえ感じてしまう
あの時見たこの娘が新人・・?
私は彼女のあまりの堂々たる姿に呆気にとられ動けずにいた
そんな私にakiさんが近づいてきて話しかけてきた
「若里さん?御社の立ち上げた若者向けのブランドの意図・・この衣装から感じ取れました、撮影はわたしに任せていただいてもよろしいかしら?最大限に素材を活かさせてもらいますわ」
akiさんの言葉と帯びるオーラに私はすっかりあの時のように信者になってしまっていた
ボーッとする意識の中、私はakiさんにすべてを委ねるように頭を縦に振った
それを見たakiさんの表情がニコッとあのステージの時と同じ笑顔を私に向けると若槻さんに向けてakiさんが話しだす
「若槻さん、準備はいいかしら?わたしのベストなポージング見逃さないでね」
akiさんの掛け声に親指を立てて返事をする若槻さん
akiさんがLISA・RIZカラーのオレンジとブラウンの幕の壇上に上がりスッと目を閉じ深呼吸をする
その刹那、華麗に舞うようなポーズと表情を繰り出したakiさん
若槻さんが逃さまいとシャッターを連続で切る音がこだまする
次の瞬間、クルッと回ったakiさんのワンピースの裾が踊るように弧を描くと、タンッと力強くステップを踏みローヒールサンダルを履いた白く美しい脚をスリットから覗かせる
それと同時に腰に手を掛け、もう片方の手でサラサラな髪をたくし上げた
そしてそのハラハラと舞う髪の隙間、カメラから視線をずらすような目線で私をaki信者にしたあの妖艶の微笑みがスタジオ内をaki色に染めあげた
開始してからまだ数分、私は自分の仕事も忘れ、またもakiさんの妖艶の魔術にかかり、気付けば笑顔で拍手を送ってしまっていて撮影が終了したことも気付かずにしばらくその場を動けずに余韻に浸った
どれくらい立ち尽くしていたのか、あたりを見ると若槻さんがステージセットの片付けをしていた
慌てて私は視線を移すと椅子に座りマネージャーさんと話をしているakiさんを捉え歩み寄り話しかける
「akiさんありがとう御座いました、私が想い描いてたブランドイメージ通りの若々しくてエレガントな風景でした!」
私の言葉にakiさんは無邪気な笑顔をして話しだす
「えっ・・それはどうも・・凄かったですか?ボクどうもバッチリ化粧して衣装を身につけて撮影に臨むと記憶が曖昧になるみたいで・・喜んでもらえたなら嬉しいです」
控え室と同じ口調でハニカミながら言うakiさん
その後、私はakiさんに今日の衣装を差し上げる事、うちの店舗にも是非顔を出してほしい旨を伝え清々しい気持ちでスタジオをあとにした




