第ニ十四話 数週間前のボクの進路
イベントが終わって数日、8月になって暑さも増したのか、ボクの身体は外に出たくない病に侵されてしまっている
部屋のエアコンを効かせてのんびりお菓子を嗜んで動画サービスで映画を視聴する
はあ〜・・極楽・・やっぱり休みはゴロゴロするに限るな!
お母さんは外に出てっていないし、大変なこともこなしてやったしな!今日はとことん怠けてやる!
スッとお菓子に手を伸ばすと中身がない・・
仕方なくボクは動画サービスを止めてキッチンに嗜みグッズを取りに行くべく部屋を出て階段を降りた
ふと降りた先の玄関の方を見るとヤバい奴に出くわした
「千秋?あんたまたダラダラしてるでしょ?しかもそんなカッコして!・・少しは女子としての自覚・・もてな?」
目が据わってる紗良、ロングTシャツ1枚のボクはサッと前を隠して言ってやった
「いいじゃん家なんだし、ちゃんとブラもつけてるよ?それに暑いし、休みなんだし!ボクは趣味を嗜むのに忙しいの!紗良は智秋とどっか行ってきなよ?」
それを聞いた紗良の顔が久しぶりに鬼の形相になっていく
ヤバい・・ボク逆鱗に触れちゃった?何したの?何したのボク?
そう思った瞬間、紗良がボクの首根っこを掴もうとボクの後ろに廻り込もうとするが間一髪ボクは交わしてやる
とりあえずキッチンに隠れようとシンクの前まで来たが、気配を感じ振り向くとニヤついた紗良がシンクの上にボクの上体を押さえつける
完全に逆反りにされたボクは手を押さえられ身動きがとれなくなってしまった
ボク悪い事してないよ?
何に紗良はキレてるの?
痛いことはやめて?
怖いよぅ・・・
フルフルと震えるボクの上でニヤついて顔を近づけてくる紗良がボクに言う
「あんた・・もう高校2年生・・だよな?そろそろ進路も考えるべき時期なのにさっきの言い草はなんだ?趣味を嗜むだと・・?中2の男子みたいなこと言ってるなよ・・?」
いや・・ボク身体は女子だけど中身は限りなく中2の男子なんだけどな・・
まぁこんなこと言ったら紗良に何されるかわかったもんじゃない・・
だが!身体が動けなくともボクにはまだ秘策がある!
ボクは思いっきり息を吸って止めると紗良の両目めがけて思いっきり息を吹きかけてやった
急なことで紗良の腕の力が緩んだスキに体勢を直してボクはリビングまで逃げたがロングTシャツを引っ張られソファーの上にあえなく紗良に押し倒されてしまった
「むふふ・・そのアホな千秋が可愛くてイジメたくなっちゃうんだよねぇ・・今日は何されたい・・?」
女帝の降臨にボクは目を潤ませて降参するが女帝紗良は許してくれない
すると突然笑顔になった女帝紗良がボクに聞いてきた
「千秋?こないだのイベント凄く盛り上がったね?千秋がまさかモデルで出てたのには私もびっくりしたけど・・あんた・・モデル・・するの?」
唐突すぎてボクの頭が追っつかなかったがなんとかその時の光景を思い出すボク
モデル?あれは手伝っただけだぞ?そうだ、アホの若槻にはめられたんだ!雑誌に載るとかボクは聞いてねぇ!
脳内でアホの若槻を久しぶりの男のプライドでねじ伏せてやったところでボクは紗良に言い返す
「あ・・れは、手伝っただけだよ・・?モデルなんかボクに勤まるわけ・・」
そう言いかけたがなぜか言葉に詰まるボク
そう言えばあの時の感覚、家でゴロゴロして好きな事やってるよりも楽しかったな
ボクが考え出して創り上げた空間にみんなが共有して楽しめて笑顔が見れたあの場所
ボクだけかもしれないけど中毒性がヤバくて考えただけで胸が高鳴ってくる
脳内でそんな事を考えて無意識にニヤッと紗良の前で微笑んでしまったボク
「千秋・・キレイだったよ・・?カッコ良かった・・!友達として鼻が高かった!私思うんだけど千秋にモデルは天職なんじゃない?知ってるよ私、おばさんも昔モデルやってたって!」
そう言われて黙り込んでしまうボク
それを見て馬乗りの紗良はまた顔を近づけてくる
「こんなに整った目鼻立ちで、同い年なのにこんなに色っぽい唇で・・もうモデル以外千秋にはできないでしょ?さだめってやつじゃない?」
そう言って紗良は馬乗りを解いてボクを起こすとソファーに腰掛けた
するとボクの方に向き直し話しだした
「だから、私決めたわ!あんたの引き籠もり直してとことん鍛え直してあげる!あんたの進路応援してあげるよ!」
急に乗り気な紗良、ボクはそれを見て顔が引きつってしまってボソッと言ってしまう
「いや・・いいや・・!これ以上めんどう・・じゃなくて・・!女子として教わることないし・・!進路もモデルやるなんて一言も言ってないし・・!とりあえず現状維持で・・!!」
そう言うと紗良は引きつった笑顔でボクを見ている
紗良の目の奥に女帝の曲がらぬ信念が見えた気がした
それを見たボクはススっと紗良から少し離れてやる
はわわ・・!?また怒ってる・・?!
丁重にお断りしただけなのに!?
完璧なお断りなのに・・
完璧な筈なのに・・
女帝の癇に障っちゃってるじゃん・・!?
そんなことを脳内でやり取りしていると紗良がニヤッと微笑んでボクに言った
「千秋に断る権利なんかないよ?アホな千秋が完成される前に私が調教するって決めたから・・!おばさんにも改めてお願いされてるし?おまえ・・その美貌でショーに出ておいて・・引っ掻き回しといて・・フェードアウト出来ると思うなよ・・?」
女帝の眼光鋭く、石化寸前のボク
これは・・強要だ・・
強要罪だ・・!
ボクにも自由はあるんだ!
自由を紗良に答弁しようとした瞬間、紗良はボクの口を押さえてギラついた目をして囁いた
「もう引けないよ・・?おばさんにいくつかの雑誌社とモデル事務所から連絡あったって聞いてるから、大騒ぎだってさ・・急に消えた伝説のモデル、妖艶の魔術師の娘が出てきたって・・おばさん最近居ないでしょ?あんたが遊んでる間に対応に追われてるのよ?少しは自覚持って私生活も見直せな?」
マジか・・確かにお母さん最近遅くまで外出てるな・・
ボクの顔見るなりいつもほくそ笑んで何も言わずにリビング行っちゃってたから気味が悪いなとは思っていたが・・
ていうか・・ヤバいじゃん・・
このままじゃモデル一直線じゃん!
進路勝手に決めてんじゃねぇ!
ちくしょう・・まさかお母さんと紗良がグルだったとは・・
このままボクは飲まれるのか・・?
あっ・・でもモデルいいかもなぁ・・
目立っちゃうけど、あの快感は捨てがたい・・カッコいい服装とかも出来そうだし・・
ボクの優柔不断な思考をよそに、静かにボクをモデルへと導く手回しが翌日に迫ろうとは今は予想だにしなかった




