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10日目
朝日がカーテンの隙間から差し込む。
翠はそれを見ていた。
朝が来てしまった。
隣で眠る凛は泣き疲れて寝ている。
結局、昨日もたくさん泣かせてしまった。
悪いと思いつつもそれが少し嬉しい。
凛の心が自分で満たされた証になるのだから。
処刑の時間はもうすぐだ。
そっとベッドを抜け出したら凛は怒るだろう。
ゆっくりと凛の体を揺さぶる。
ん、と声を出して凛は身じろぎをした。
「おはよう、凛」
額にそっと口づけをする。
こんな朝をずっと夢見ていた。
「もうすぐ時間だよ」
そう告げると凛はゆっくりと目を開く。
「…行ってしまうのね」
凛の顔が悲しみに歪む。
涙が浮かんでこぼれそうだった。
「泣かないで。
言っただろう?悲しいことはないって。
凛、君にこれをあげる」
翠は右手にはめていた指輪を差し出した。
「これは王家の証だよ。
もう精霊は消えてしまったけれど、また会うまで持っていて」
翠はそう言うとするりとベッドから出てしまった。
「ありがとう、凛。君を愛しているよ」
その言葉に凛は泣いた。
溢れ出る嗚咽がどうにもならなかった。
翠の手がそっと凛の頭に触れて離れた。
凛が顔を上げると翠はもう扉を開けていた。
そうして振り返ることなく出て行く。
その背中を凛は呆然と見つめていた。
翠が部屋を出ると愁が待っていた。
「ありがとう愁。すごく楽しかった。
そしてごめん、凛は俺のものだよ」
そう言って微笑む翠には悲壮感はない。
これから処刑される人とは思えなかった。
愁は何も言えなくてため息をついた。
「じゃあ、愁。またね」
翠は手を振ると愁の横を通り抜けて行く。
もう心残りはなかった。
いや、あるとすれば泣いている凛だろうか。
それでも翠の心は晴れ渡っていた。
愁が部屋に入るとすすり泣きが聞こえた。
暗く静かな室内にそれは響く。
ベッドに近寄ると凛が泣いていた。
「そんなに悲しいか?」
愁の声に凛は顔を上げる。
涙で乱れた凛はまるで別人のように見えた。
思わず愁は眉をひそめる。
彼女は翠に恋をしたのだ。
それは愁にとって辛い事実だった。
「君は何を望む?どうしたい?」
何を望む?
もちろん、翠の分も生きることだ。
愁の問いに凛は泣きながら答える。
「…今日だけ、今日だけはここにいさせてください。
明日からはまた働きますから」
今日だけはここで翠のぬくもりを感じていたい。
そうして明日からは頑張って生きるのだ。
また翠に会うために。
「…分かった。君がそう望むならそうすればいい」
そう言うと愁は部屋を出て行った。




