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東方兄妹記  作者: 面無し
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西行の都




 歌人の死んだ桜が人を死に誘い魂を妖怪桜になった。

 なんでも、有名な歌人が死んだことで歌を志す人間がそこで死ぬようになり、いつの間にか今度は一般人も勝手にそこに出向いて死ぬようになったらしい。

 聞いてみれば思い当たる経緯としては一つだけ、歌人が死んだ話は時間が経つごとに、話が遠い地に届くほどに薄れ、大勢の記憶に残ったのはインパクトのある人が桜の下で続けて死んだという話だけ。

 本当の話はその噂で塗りつぶされて、結果として噂に釣られて妖力を持った桜は噂通りに人を喰うようになったと言ったところか。


「そこで死んだ歌人さんには気の毒な話ですね……」


 自分が死にたいと思って念願の場所で死んだら、その場所が今度は妖怪になるとは。


「そうですね。きっとあの人はそれを望んではいなかったでしょう。満開のあの桜はそれは美しいものでしたから。それがあのように不吉に輝くことは、望みではなかったはず」


「いつか、その呪いかとければ良いのですがね」


「そうですね…いつか」


 私と依頼主である西行寺の女当主はふと最近良く出る妖怪の話からこんな話になっていた。

 件の桜の一件により、元々人の霊魂に関連する力を持っていた彼女は妖かしが振りまく周囲への妖力によってその能力を変化させられ、妖かしと同じ人を死へ招く力を持つようになってしまっていた。


「妖かしの呪いは解けそうですか?」


 彼女は私の目を覗き込む。

 私は少し悩んでから、首を振った。


「いえ、力に晒された期間が長かったせいでしょう。完全にその力が貴女と融合してしまっていて、浄化をするとなれば貴女ごと浄化して滅しなければいけません。時間を巻き戻しでもしない限りは不可能です。

 呪いの力を抑える可能だったので抑えていますが、長期的に周囲への影響をなくすことはできませんでした」


「そうですか」


 西行寺の主人は少し悲しげに目を細めてそう言ったあと、微笑見ながら私にお礼を言った。


「診ていただいてありがとうございました」


「解決もできず。申し訳ない」


「いいえ、今までは力を抑えることすら不可能だったのですから、感謝しています」


「ありがとうございます」


 自分の影を見る。そろそろ次の人のところに行かなければいけない時間になっていた。

 

「そろそろ、日が傾き始めますわ。最近の夜道は危険と聞きます。先生もお気をつけになって」


 そう言われて、気を利かされたと思った。

 先程思ったことが顔に出ていたのか。


「そうですね。では、暗くならないうちに」


 私は立ち上がり襖を開ける。

 襖を閉める前に、一度振り返りお互いに一礼してから襖を閉める。

 襖の向こうに待機していた初老の従者が私に声をかけた。


「ありがとうございました。先生」


「根本の解決ができず、申し訳ありません」


「人の死を誘う力、そんな大きな呪い、抑えていただけでどれほどの余裕があるか」


 従者は深く、深く私に頭を下げた。

 


 家を出る時、私は遠くに見える妖怪桜を見た。花が咲いていないこの冬の季節でも、その桜の周りは妖しく輝いて見えた。これが、春になればそれほどの力になるだろうか。

 そう考えて、私は身震いした。何かできればと考えるが、まるごと切り倒しても、あの妖力では再生し、燃やすのは住宅の多い都では不可能だ。

 私は空を見上げた。どうしたものかなぁとつぶやきながら次の依頼人のところに足向ける。

 呼白ならどうするかな…と私は隣にいない自分の先生の事を考えた。



      ****



「初めまして、西行のご主人さん」


「あら、妖怪さん。物珍しい力を持った人間を観賞しに来ましたの?」


「そんなところですわ」


 そんな会話をしたのはもう半年ほど前のことになる。

 あれから、何を気に入ったのか妖怪はたびたび私の屋敷に来るようになった。

 そして今日、あの祓師の先生にかけてもらった術によって弱まった力を見て、妖怪は感心したように頷いた。


「凄いわねぇこれ、良く出来てるわぁ」


「あら、そうなのね。最近有名な方だと聞いて来ていただいたのだけれど」


「ええ、人のちからとしては凄まじいと言わざるをえないわね。此処まで出来る人間は三人しか私知らないわよ」


 妖怪は頷きながら私を見て、一瞬首を傾げた。


「この書き方……どこかで見たような。気のせいかしら」


「あら、何か気になることが?」


「いえ、少し知り合いが術を書くときのくせに似ていたところがあったので」


 あら、妖怪の知り合いが彼女にいるわけもなし、何の偶然か。

 珍しいこともあるものだ。と私は感心した。


「これで、呪いが消えるわけでは無いけれど、今までのように絶対に引きこもらなければ、ということはないということね」


「ええ、そうなるわ」


 非情にありがたいことだ。父が死んでから、あの妖怪桜が生まれてから、私にこの力が宿ってから、私はこの屋敷でずっと閉じこもらねばならなかったから。

 そう、私の目の前で首をかききった。あの男のような事はもうないようにしなければいけない。


「完全な解決とはいかないけれど、貴女は今まで重いものを持ちすぎてたし、今日から少しは気を抜いて過ごすことね」


 妖怪はそう言って私に笑いかけた。

 そうね。と答えて私は空をみる。今日はきれいな満月だった。


「しばらくやっていなかった歌を、また詠んでみようかしら」


「あら、それはいいわね。聞かせて貰えるのを楽しみにしているわ」


 妖怪は笑顔でそう言いながら、何処からともなく、お酒を取り出した。


「今日は月も綺麗だし、貴女のお祝いにいかがかしら?」


 ああ、そう言ってくれると思っていた。

 今度は私の方が、あらかじめ用意していた団子を出した。


「そうね。丸いお月さまをみて、丸い団子を食べて、全部丸くなるようお祈りね」


 お互いに笑いあって、私たちはお互いの出した物に手をつける。

 今日のお酒は、今までに飲んだどんなものより、清々しく染み渡るような感覚がした。

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