最終話 いつもの朝
翌朝。
俺はいつものように店を開けていた。
コーヒー豆を挽く。
パンを切る。
サンドイッチの準備をする。
気が付けば、すっかり朝の生活が板についていた。
「慣れてしまいましたね。」
リリアがパンを並べながら言う。
「慣れてしまったなぁ……」
本当は慣れる予定なんてなかったんだけど。
人生、分からないものである。
カラン。
「黒薬を……」
「はいよ。」
最初の客は限界文官だった。
今日も死んだ顔をしている。
安心するくらい、いつも通りだった。
「昨日はお疲れ様でした。」
「本当に疲れました……」
「お前は参加者側だろ。」
「精神的にです。」
それは分かる。
王族が全員揃っていたしな。
すると。
カラン。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
騎士が来る。
魔導師が来る。
商人が来る。
いつもの朝だった。
その時。
カラン。
「……おはよう。」
「おはようございます。」
国王だった。
「来たなぁ……」
思わず呟く。
すると。
国王は当然のように窓際の席へ向かった。
「いつものを頼む。」
「いつもの扱いになってる……」
リリアが小さく笑う。
「常連さんですね。」
「余は常連ではない。」
「週に何回来てるんです?」
「五日ほどだな。」
「それを常連って言うんです。」
店内に笑いが広がる。
すると。
国王は少し考える。
「……そうなのか?」
「そうです。」
グランベル侯爵が店へ入ってきた。
「おはようございます、陛下。」
「うむ。」
「今日も来られたのですか。」
「今日も来た。」
完全に定型文だった。
侯爵も諦めたように席へ座る。
「紅茶を頼む。」
「はいよ。」
「あと黒薬も。」
「結局飲むんだ。」
「眠いのでな。」
最近の侯爵は正直だった。
すると。
リリアが窓の外を見る。
「店主。」
「ん?」
「今日も良い天気ですね。」
「そうだな。」
王都の朝。
少し忙しくて。
少し騒がしくて。
でも。
前より少しだけ、皆が笑っている気がした。
その時。
カラン。
「店主さん!」
元気な声が響く。
王女だった。
「おはようございます!」
「朝から元気だな。」
「プリンください!」
「朝なんだけど?」
「プリンください!」
「大事なことだから二回言ったな?」
王女は満面の笑みだった。
国王がため息をつく。
「朝から甘い物か。」
「お父様も黒薬飲んでますよね?」
「うっ。」
王様が負けた。
珍しい光景だった。
店内に笑いが広がる。
俺はコーヒーを淹れる。
プリンを出す。
サンドイッチを運ぶ。
たぶん。
明日も同じことをするんだろう。
その時。
リリアがふっと笑った。
「店主。」
「ん?」
「英雄扱いされてますね。」
「されてない。」
「されてます。」
「されてない。」
すると。
国王が黒薬を飲みながら言った。
「されているな。」
「陛下まで!?」
店内が笑いに包まれる。
俺はため息をついた。
まあ、いいか。
コーヒーがあって。
プリンがあって。
笑っている人がいて。
それなら。
きっと悪くない。
俺はただ、異世界でカフェを開いただけだ。
……たぶん。
でも、なぜか英雄扱いされています。
完




