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キャリントン・イブ  作者: 伊阪証


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エピローグ-やがて来る春に

ヴィクトリアとパヴェルは疲弊した中で、少し腰を据えた。ユスティティアはその役割を終え、歴史の裏側へと消えた。

この世界に散らばっていた「見えない死神」の残骸は、確認される限りすべてが地の底へと投棄され、厳重に封印された。戻り札がすべて資料室へ戻った日、片腕の女は静かに記録板を閉じ、医療担当は薬油の瓶を片付けた。彼らがどこへ行ったのか、もう誰も知らない。褒め称えられることもなく、ただ手順だけを残して、組織は綺麗に霧散した。

それから、早いもので二年の歳月が流れていた。

「……パヴェル、そっちの土はどうだ」

錆びついた剣を背負ったまま、ヴィクトリアが荷馬車の影から顔を覗かせた。かつて騎士の鋭さを持っていたその瞳は、今ではどこか穏やかで、パヴェルの歩幅に合わせて歩くことにすっかり慣れている。

「ダメだな。ただの湿った黒土だ。キノコの気配もない」

パヴェルはしゃがみ込み、指先についた泥を払った。

二人は今、夫婦のように寄り添いながら、あてのない旅を続けている。

目的は、アインシュタインが遺した古い提言の解読だった。彼が読み取った資料の中には、『見えない死神をその身に吸い上げ、体内の毒を洗い流す薬を宿す植物』がこの世界のどこかに存在する、と書かれていた。キノコか、あるいは花の形をしているらしい。いわゆるプルシアン・ブルー等の薬の材料になるらしい。

「そう簡単に見つかるわけないか。アインシュタインのじいさんも、おとぎ話みたいに書き残してたしな」

「だが、探す価値はある。死神の残骸は消えたが、傷を負った人間はまだ生きている。彼らのための薬が作れるなら、二年でも十年でも探すさ」

ヴィクトリアはそう言って、パヴェルの荒れた手をそっと握った。その手には、かつて港湾の爆発で負った火傷の痕が、名誉の負傷のように静かに残っている。

その村を訪れたのは、そんな探索の途中だ。

村の端にある小さな畑で、一人の少女が熱心に土を弄っていた。年齢は十歳に届かないくらいだろうか。両親を早くに亡くしたというその子供は、周囲の大人たちから「少し変わった子」と呼ばれていた。

「……きれいに、さいてね」

少女の口から漏れた微かな声に、パヴェルは雷に打たれたように足を止めた。

ヴィクトリアには、それが異国の呪文か、子供特有のデタラメな言葉に聞こえただろう。だが、パヴェルには分かった。それは、彼がかつて生きていた世界の、東の島国の言葉――「日本語」だった。

「君……今、なんて言った?」

パヴェルが思わず日本語で問いかけると、少女は大きな目を丸くして振り返った。

意思疎通は簡単ではなかった。少女の記憶はひどく曖昧で、前世の言葉を完全に操れるわけではなかったからだ。けれど、何日も村に通い、彼女の不器用な言葉を何度も、何度もパヴェルが繋ぎ合わせたとき、一つの物語が浮かび上がってきた。

 彼女は、パヴェルよりもずっと未来の地球から来た転生者だった。

『わたしのいたところはね、とっても楽しかったの。お日さまの力をぜんぶ使えるようになったんだって』

少女は無邪気に笑った。しかし、その笑顔の裏には、どれほど科学が進歩しても克服できなかった病によって、幼くして命を落とした切なさがあった。この世界に生まれ変わっても、すぐに新しい親を失い、それでも「花が好きだから」とお花屋さんを目指して、一人で畑を耕し続けていたのだ。

しかし安堵して寝転んだら普通に頭を蹴られた。世知辛いが少なくともこの世界にはもう核の廃棄物は奥底にしか残っていない。

夕暮れの光が畑を赤く染める中、パヴェルは少女の小さく汚れた手を見つめていた。

かつて自分は「怖くない奴が掘るんだよ」と言った。生きるために、飢えを凌ぐために、人は危険な土を掘るのだと。だが、目の前の少女が掘っているのは、誰かを喜ばせるための、ただの花畑だった。

「なあ」

パヴェルは少女の目線に合わせてしゃがみ込んだ。

「俺たちと一緒に、数年間、旅をしてみないか」

少女が不思議そうに首を傾げる。パヴェルは横に立つヴィクトリアを見上げた。ヴィクトリアは何も言わず、ただ優しく微笑んで、すでに荷馬車から3人分の毛布を取り出そうとしていた。

「この世界のどこかに、もの凄く綺麗な『青い花』があるんだ。それを見つける旅だ。お前が一緒なら、きっとすぐに見つかる気がする」

少女の目が、ぱっと輝いた。

「青いお花? わたし、いきたい!」

死神の処理は終わった。

けれど、彼らの新しい旅――命の、花を探す旅は、今ここから新しく始まる。親子のようになった三人の影が、夕日の中をゆっくりと歩み出し、やがて地平線の向こうへと溶けていった。

エピローグ終了後解説ぅぁ!!

キャリントン・イブ

→キャリントン・イベントをもじってキャリントン・イブ

タイトルの由来は核融合の完成前という意味としてこれにした。

キャリントン・イベントは太陽フレアの現象でインターネットデトックス光線みたいなもんだと思って欲しい。あとオーロラめっちゃ発生する。


パヴェルとヴィクトリア

名前はイニシャルだけ決めてた。

パヴェル(P→陽子)

ヴィクトリア(V→ボルトつまり電力)

あとヴィクトリア・ラヴェルのラヴェルは「花、咲き揃うまで」のラヴェルと同じです。盾に鎖繋げてぶん殴るスタイル。


事故一覧

米政府職員によるプルトニウム・セシウム紛失事件(2017年・アメリカ)

クラマトルスク放射線事故(1980~1989年・ウクライナ)

ゴイアニア被曝事故(1987年・ブラジル)

キシュテム事故 / マヤーク核技術施設(1957年・ソ連)

スリーマイル島原子力発電所事故(1979年・アメリカ)

東海村JCO臨界事故(1999年・日本)

天津浜海新区倉庫爆発事故(2015年・中国)

チョークリバー研究所NRU原子炉事故(1958年・カナダ)

チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年・ソ連)

リア放射能事故(2001年・ジョージア) 森の中で放置された旧ソ連製の原子力電池(ストロンチウム90熱源)

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