第六十九話 魔王
「四天王が一人やられた?」
「はい」
「勇者パーティにか?」
「そうです」
もうそんなに力をつけてるのか?
こないだ上級ボスと戦い始めたばかりだろ?
でもあれから一か月は経つか。
結局勇者たちは最初に来てからは一度も来ていない。
寿司を食べに来るかと思ってたんだけどな。
「そいつは最弱だったのか?」
「はい。一対一なら私でも勝てます」
「なら仕方ないな」
「ただ他の四天王が黙ってません」
モンスターじゃなくて魔族がやられたんだもんな。
人間と戦うようなもんだろ?
殺すことに抵抗とかないのか?
モンスターと戦うのとはわけが違うはずだ。
そのうちレファやリリアンヌとも戦うことになるのかもしれないのか。
いつまでも他人事ではいられないな。
「でもなんでもう四天王が戦ってるんだよ?」
「おそらく手柄を独り占めしたかったんだと……」
「最弱のやりそうなことだな……」
四天王と戦える場所まで勇者たちは来てるってことか。
上級レベルが二人もいれば当然かもしれないが。
「残りの四天王はどうするつもりなんだ?」
「全員で迎え撃つらしいです」
「魔王城でか?」
「はい」
「でも勇者たちはまだ聖剣を手に入れてないぞ?」
「おそらく明日ここに来ます」
ついにSランクに挑戦するのか。
モンスター側の二戦目以降のパーティ選択はマドラーナに託されてるからな。
「それと勇者ですが、雷嵐の剣を装備してる模様です」
「なにっ!? ……いや、あの王女ならやりそうなことか」
「はい……。魔道士も聖女の杖を装備してます」
「杖もか」
その二つの金箱商品は他の冒険者がガチャで当てたやつだ。
おそらく買い取ったんだろう。
強奪したのかもしれないが。
でもそれなら上級ボスに勝ててるのも納得ができる。
どちらの武器も聖剣の次くらいに貴重らしいからな。
聖剣を手に入れたら雷嵐の剣は戦士が装備することになるんだろう。
「その魔道士がやっかいなんです」
「魔道士が? あの中じゃ一番弱いんじゃないのか?」
「成長速度が半端ないんです」
「……上級二人よりも強いのか?」
「はい……レファ様が言うには勇者にも匹敵するかもしれないと」
「そこまでなのか……」
これはSランクのモンスターでも危ないかもしれない。
マドラーナもそれを感じてるんだろう。
「策はあるのか?」
「私が出ようと思います」
「……勝てるのか?」
「わかりません……でもここでとめないと」
「わざわざここの枠組みで戦わなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、聖剣を渡すわけにはいきません」
……それなら聖剣を商品にするのをやめようか。
まだ誰にも知られてないんだし。
もしマドラーナがいなくなったらみんなが悲しむことになる。
もちろんマドラーナだけじゃなく、誰か一人でもいなくなるのは耐えられない。
俺にできることはなんだ?
今までと同じではいけないのか?
勇者が現れるまではなにもかも順調だったじゃないか。
なぜ勇者は魔王を倒そうとする?
勇者が人間側の希望だとしたら魔族側の希望は魔王なんだよな?
魔王はなにをしているんだ?
「なぁ、そろそろ魔王がどういう人物か教えてくれてもいいんじゃないか?」
「……」
いままで何度か聞こうとしたことはあった。
だが誰も答えようとしなかったし、俺もそこまで追求しようとは思わなかった。
流れ的にレファの父親が魔王だと思ってたからな。
「なにか言えない秘密があるのか?」
「それは…………」
「私から話す」
「レファ!?」
「レファ様!」
最近レファは上級ボスの補充やらで魔王城に行くことが多くなってる。
「話すって魔王についてか?」
「うん。もう隠してる場合でもないし」
「隠してる?」
魔王について隠してること?
……やはりレファが魔王だったのか?
今までのことを考えるとそれが一番しっくりくる。
「魔王は…………いない」
「なっ!?」
魔王はいないだって?
存在していないということか?
じゃあ勇者はなんのために戦ってるんだよ?
「どういうことだ?」
「そのまんまの意味。今は魔王はいない」
「今は? 前はいたってことか?」
「うん。勇者と戦って死んだ」
死んだのか……。
ん?
勇者は魔王を倒したってことか?
でも勇者も死んだって言ってなかったか?
確か俺たちがこの世界に来る少し前ってレファが言ってた気が……。
「その勇者はどうなったんだ?」
「魔王を倒したすぐ後に死んだ」
……勝手に死んだわけじゃないよな?
「誰かが勇者を倒したのか?」
「うん」
「……もしかして、レファか?」
「うん」
やっぱりそうなんだ……。
魔王を倒した勇者を倒せる力があるんならレファが魔王で問題ないじゃないか。
「レファは魔王じゃないんだよな?」
「うん、違う」
「前の魔王ってレファとどういう関係だったんだ?」
「私の母親」
……レファは母親を亡くしてたのか。
それに父親じゃなくて母親が魔王だったんだな。
魔王を勝手に男のイメージで考えていたな。
でもそれなら俺はなんでレファを魔王と疑ってたんだろう?
「レファのほうが魔王より強かったってことでいいのか?」
「うん」
「うんって……。じゃあレファはいったいなんなんだよ?」
「……大魔王」
「は?」
…………大魔王?
大魔王って裏ボスとかで出てきそうな大魔王?
魔王を隠れ蓑にして裏で操ってる大魔王?
その大魔王がレファだって?
こんな可愛い少女が大魔王?
「……冗談だよな?」
「ホント」
「そっか、ホントなのか」
マドラーナの顔を見るが冗談ではないようだ。
……俺、大魔王といっしょに暮らしてたの?
しかも毎日いっしょに寝てるんだぞ?
「いつから大魔王なんだ?」
「産まれたときからずっと」
「……」
素質ってやつか。
それだけの魔力があったんだろうな。
レファを魔王と疑って申し訳なかった。
大魔王に向かって魔王はないよな。
「なんでここに来たんだっけ?」
「だからなんとなくだってば」
「なんで地下一階より上に行けるんだ?」
「知らないってば。ヤマトの力なんじゃないの?」
「ジェルやサクラと同じようなことなのかな」
「そうかもしれない。でも私の色はハッキリ魔族」
「今も地下二階でしか力は使えないんだよな?」
「うん。それは最初から変わってない」
なぜ神様はサービス枠に大魔王を選んだんだ?
……どうせ考えるだけ無駄なんだろうな。
ゲームなんだから。
俺と大魔王をいっしょに住ませて、同じ世界から勇者を転移させる?
ゲームじゃなけりゃありえないことだろう。
完全に俺は魔族側じゃないか。
今のこの状況すら神様は楽しんでるんだきっと。
……魔族側?
アイリは最初勇者を希望してたんだよな?
タイミング的にも勇者が死んだすぐ後だったのは間違いない。
さらに同じタイミングで魔王も死んでいる。
そして俺もアイリと同じタイミングで転移することになった。
もしかして魔王は…………。




