第五十八話 パンダの要望
「一週間お疲れ様でした! 乾杯!」
いつものようにみんながいっせいに食べはじめる。
今週からは人数が倍以上に増えてるからそれはもう賑やかなこと。
ただの営業後の食事とは思えない。
毎日賄のメニューを考えるだけでも大変だ。
営業前と営業後の二食だから週五日勤務でも十食になる。
さらにウチに住んでいる者は朝昼兼用の一食を食べてるからな。
従業員たちに気持ちよく働いてもらおうと思ったら手抜きはできない。
仲間モンスターは二体を除いて地下一階の牧場で食べている。
さすがにカイザーやモッスンたちにはここは手狭だからな。
他の仲間モンスターたちもそれに合わせてくれてるというわけだ。
仲間想いでとてもいいと思う。
「ジェルちゃん、天津飯食べる?」
「麻婆豆腐のほうが美味しいよ!」
「そんなからいもの食べさせるなよ!」
「エビチリ食べますか?」
「酢豚も食べるのかな?」
エンジェルスライム……ジェルは相変わらず大人気だ。
名前はアイリが付けた。
「ヤマトさん! 私、餃子好きです!」
「そうか。いっぱい食べてくれ」
「はい!」
ベビーはいつも俺の近くで食べたがる。
ウチの看板娘……看板ドラゴンとして客受けもいい。
「あれ? ミルクとココアは?」
「地下一階です!」
「すっかり仲良くなったな」
副審を任せてるからか自分たちも仲間モンスターとでも思ってるのかもしれない。
ただのペットなのに。
「そうだ、マドラーナ」
「ふぁい? ……失礼しました。なんでしょうか?」
食べてるところを邪魔してしまったか。
「あのタヌキボスはなんで格闘場に登録しないんだ?」
「あぁ彼女はですね、とても慎重な性格なんです」
「慎重?」
「はい。石橋を叩いて叩いて叩きまくって渡ると言いますか」
「……臆病なのか?」
「そうとも言いますね。でもフィールドでの戦闘は強いです」
今週の小動物パックガチャの販売は木曜と土曜の二日間だけだった。
格闘場でのレベルをある程度コントロールするためにそうしている。
中級ボスは目当てのガチャがない日にわざわざ来ないだろうからな
だがあのタヌキ、木曜に初めて来てからそれから四日間通い続けてるんだ。
小動物パックは既に五十連ほど引いてるはず。
ドワーフラビットを何体か引き当てて凄く喜んでいたのが印象的だ。
ガチャが設置されてない日は飲食エリアと格闘場の客席を行ったり来たり。
ただの観客として見学に来ているようにも見える。
でももしかすると作戦を練っている最中ってことなのか?
初級レベルを見てもあまり参考にはならなそうだけど。
「彼女はお寿司が気に入ったようです」
「寿司?」
「はい。だから今日も来てたんです」
食事のためにここを利用してるパターンか……。
地下二階は観客席でも食べられるから客が多いに越したことはないけどな。
「食事の利用だけじゃなく装備品の持ち込みもかなりしてくれてるようですが」
「だからあんなにガチャが引けるのか」
「おそらく。装備品もいい物ばかりです」
「今度の新商品で使えそうな物か?」
「それはもちろん。サーラさんやドーラさんに聞いてみてください」
今度の水曜からは地下一階ガチャ屋でも中級者向けのガチャを開始する予定だからな。
あとで商品を確認しておくか。
「それはそうとそのお客様から要望を聞いております」
「要望? タヌキから?」
「……彼女はタヌキではなくてレッサーパンダです」
「レッサーパンダ? タヌキじゃなくてパンダなのか?」
「はい。正確にはドレッサーパンダというモンスターになります」
……どっちでもいいや。
「で、要望はなんだって?」
「格闘場報酬の見直しをしてはどうかとの意見です」
「ほう? だてに毎日通ってないな」
「それと……」
「まだあるのか?」
「リンゴや笹の葉をネタにしたお寿司が食べたいそうです……」
「寿司ネタに? ……却下で」
「はい」
寿司のことは置いといて、なかなか頭がキレるようじゃないか。
今の報酬はとりあえず適当に設定したものだからな。
冒険側はともかくモンスター側の報酬設定は難しいんだ。
自分からは敵を選べないんだからな。
客もモンスターだからそこまで気にしないだろうと思ってたところもあったが。
それにそこまでお金を持っていないだろうという配慮もあったんだがな。
今は中級ボス用に参加料金を二倍にして対応してる。
もちろん商品もスライムパックⅡじゃなくて小動物パック。
だが冒険者のランクに合わせた可変式での報酬システムには問題点だらけだ。
タヌキ……パンダに言われてしまうようでは再考するしかないか。
……そういや笹の葉寿司って聞いたことがあるな。
寿司を笹の葉で包んで香りを出すやつだよな?
パンダだから単に笹の葉が食べたいだけだとは思うが。
今はそんなことより報酬の話だ。
「虹卵ガチャ券と十連ガチャ券だったらどっちが嬉しい?」
「こちらは虹卵の商品だけ飛びぬけていいというわけではありませんからね」
「そうだよな」
新パックの虹卵モンスターであるドワーフラビットは他の商品モンスターよりかは少し強い程度だ。
倒されると銀貨三枚という価値を考慮して虹卵にした。
それなら十連で虹卵も入ってればラッキーくらいのほうがいいということだろう。
う~ん、面倒だからこっちも地下一階と似たような感じにしようか。
登録ランクごとの参加料金と報酬は以下の通りだ。
Fランク:銀貨三枚、スライムパックガチャ券二枚
Eランク:銀貨五枚、スライムパックⅡガチャ券一枚
Dランク:銀貨十枚、小動物パックガチャ券一枚
Cランク:銀貨二十枚、小動物パックガチャ券二枚
Bランク:銀貨三十枚、虹ガチャ券一枚&小動物パックガチャ券三枚
Aランク:銀貨五十枚、虹ガチャ券二枚&小動物パックガチャ券五枚
あれ?
こうすればわざわざ初級と中級で参加料金を分ける必要はないな。
あとはガチャ券を下位のガチャ券になら交換できるようにしよう。
小動物パックガチャ券一枚をスライムパックⅡガチャ券二枚と交換というようにな。
下位から上位への変更はなしだ。
今までと同じく自分より上のランクに負けたら銀貨は全額返却。
虹ガチャ券はどのガチャでも使用可。
「……って感じでどうだろうか?」
「前よりわかりやすいですね。こっちのほうがいいと思います」
「下位ランクから申し込まれた場合は得しかしないがまぁいいか」
「冒険者の考えが未熟なせいでモンスターが増えるんですから仕方ないと思います」
そうだよな。
欲を出して上のランクに申し込むほうが悪いよな。
「クレアばあさん、聞いてましたか?」
「あぁ。冒険者側も新ガチャに合わせて変更するんだろ?」
「はい。内容は商品を見てからですが、中級者はCランク以上になりますかね」
「了解。こっちもわかりやすいので頼むよ」
目当てのガチャごとに参加料金を変えるつもりだったが確かにわかりにくい。
指標がいくつもあると結局困るのは自分たちになりそうだ。
「そういやちょいと小耳に挟んだんだけどね」
「なにをですか?」
「国が動き始めたかもしれん」
「……」
ガナッシュ王国の話ではないよな?
となると…………この国か。




