第五十四話 王女様は名探偵
「……」
表情にはいっさい出ていないはずだが心臓はバクバクだ。
まさか俺が疑われるとは……。
しかもあのばあさんにではなく王女に。
だがおそらくただのハッタリだろう。
「沈黙は肯定と見なしますよ?」
「……オーナーに関する情報はいっさい話してはいけないという契約なので」
「昨日クレアおばあ様は少し話してましたけど?」
くっ、確かに人間だとか差別はしないとか色々言ってたな。
「それはあの方の勝手ですので」
「私は最初アイリさんを疑ってたんです」
アイリをだと?
あんな可愛くて明るくて働き者のどこに疑う余地があるというんだ?
「アイリさんにはこわいものなんてなさそうですしね」
……店での最初の出来事を言ってるのか?
「クレアおばあ様もアイリさんとは凄く親しいようでしたし」
同じ職場の仲間なんだから親しくて当然だろ?
それとも変わり者の偏屈ばあさんが他人と親しくするのは珍しいってことか?
「でも真犯人は一番怪しくない人物だというのがお決まりじゃないですか」
ここで急展開。
それが俺だと言うのか?
しかも犯人だと?
悪い人物って決めつけてるんだな。
そんなやつと二人きりで危険を感じないのか?
「それにずっと違和感を感じてたんです」
店では寡黙な大将を演じきれていたはずだ。
「クレアおばあ様もアイリさんも大将の話は全くしようとしませんでしたし」
それは俺が絡みにくい寡黙な大将だからだろ?
「仲間モンスターさんたちはアイリさんよりも大将をお好きなようでしたし」
確かにアイリより俺に懐いてる奴のほうが多いかもしれない。
でもそれは俺が食事を作ってくれるからだろうし。
アイリのことが苦手だとか決してそんなことは……。
「営業終了したときにみんな大将の前に集まってましたよね?」
すぐにアイリが地下二階に行くように指示したはずだがよく見てるな。
「それと昨日は左耳になにかつけてましたよね? 今までは右耳だったのに」
イヤホンのことか?
この世界にはないからなにかまではわからないはずだ。
確かに今までは寿司屋の入り口から遠い側の右耳につけていた。
昨日は右側にアイリがいたり格闘場受付があったりするから左耳につけた。
なかなかの洞察力じゃないか。
「そして今はどちらにもつけていない」
だからどうした?
そもそもなにかわかってるのか?
「どちらの耳も音が聞こえているようですから少なくとも身体的な理由ではないということになります」
……さっきからチョロチョロ歩きながら話してるのはそれを確かめるためか。
名探偵みたいだな。
「私が推測するに、あれはどこかの音が聞こえているんだと思うんです」
やるじゃないか名探偵。
ではどこの音を聞いていたと言うんだ?
「寿司酒場の位置からして格闘場受付や飲食エリアの音は普通に聞こえるはずです」
「……」
「もちろん格闘場の音はモニターから聞こえてますので違います」
「……」
「そして今までも聞いていたとしたら以前からある施設の可能性が高い」
「……」
「つまりガチャ屋のお客の声ではないでしょうか?」
……半分正解ってところだな。
これ以上はわかりようがないか。
まぁ合格点はあげてもいいな。
「確かめてみますか?」
「えっ!? いいんですか!? ……では本当に大将が」
俺を疑ってるんなら驚くことはないだろうに。
片方のイヤホンは店に置いてあるが、もう片方はいつも袋に入れてあるからな。
ちょうど昨日左右を入れ替えたところだし。
「これを右の耳につけてください」
「えっ!? 今お持ちなんですか!? でもなぜ今……」
確かに今聞いてもガチャ屋の音の証明にはならないよな。
王女はおそるおそるイヤホンを耳につける。
「はい、それで大丈夫です。もう少ししたら音が聞こえますので」
「え!? ……はい、わかりました」
王女は覚悟を決めたようで、イヤホンに片手を当て耳をすましている
「…………きゃっ!」
王女は慌ててイヤホンを外す。
少し音量が大きかったか?
そして再度イヤホンをつける。
「……なんですかこの音は!?」
「なにって音楽ですよ? 音楽って知りません?」
「それはわかりますよ! なぜ音楽が聞こえるのかってことです!」
「なぜってそういう機械だからですよ」
正確に言えば音を出してる本体は別だけどな。
だがそれを見せる必要はないだろう。
「……つまり音楽を聞いていたということですか」
「そうです」
「……お客から見えない側につけていたのは?」
「アイリの声がよく聞こえるようにです」
「うぅ~、ではなぜ仕事中に音楽を聞いてるんですか?」
「集中するためですよ。寿司はリズムが大事なんです」
適当な出任せを信じてくれているようだ。
王女がランチ営業に来てくれてなくて良かった。
ランチ営業中はイヤホンをつけていないからな。
でも仮に来てたとしても別の言い訳をしただけか。
「……仲間モンスターさんが大将に寄っていってたのは!?」
「ご飯待ちでしょう。現に俺が大量に作ってるのを見たじゃないですか」
「うっ、それは確かに……」
もう諦めてくれ。
俺が真犯人だという証拠なんか見つかるわけがない。
「大将が犯人じゃないとするといったい誰が……」
やっぱり犯人って言い方は気分がよくないからやめてほしい。
犯人なんだけどさ……。
「やはりアイリさんが……」
なんでそうなるんだ?
……でも違ってはないのか。
俺とアイリは一蓮托生だしな。
「大将! 真犯人が誰か教えてくれませんか!?」
ド直球で来たな。
名探偵が泣くぞ?
「知ってどうするんです?」
「それはもちろん…………私、どうしたいんです?」
俺に聞いてどうするんだよ……。
自信のあった推理が外れて戸惑ってるようだな。
「オーナーがあなたたちになにかしたんでしょうか?」
「それは……モンスターとなにか関わりがあるんじゃないのかと……」
「格闘場の敵モンスターのことですか? そもそもなぜモンスターたちは堂々と来れるのでしょう?」
「それはクレアおばあ様の強い仲間モンスターさんがむりやり連れて来て、さらに報酬にお金をあげると言ってるからです!」
しっかりばあさんから聞いているようだな。
「では魔物使い経由とはいえオーナーも関わりがあると言って当然なのでは?」
「そうです! だからその関係を絶たねばならないんです!」
「そのモンスターたちは悪い奴らなんでしょうか?」
「それはモンスターですから当然……でも最近は襲いはするけど殺しはしないって……」
「昨日来てた格闘場のモンスターも冒険者を殺そうとしてるとは思えませんでしたが」
「確かに……あれだけモンスターが勝つ展開だったのに……」
トーンダウンしすぎだろ……。
「味方であるはずの魔物使いやエルフ、ドワーフが酷い扱いを受けてることのほうがよっぽど問題だと思いますが?」
「それは……一国の王女として恥ずべき問題です」
「そもそもあなたは別の国の人間でしょう? なぜここまで関わるんですか?」
「モンスターが増えると困る人が増えるからです! これは自信があります!」
「ではモンスターはいなくなってしまえばいいと?」
「はい! …………え? ……違うんですか?」
だから俺に聞くなって。
寿司屋の大将がそんなこと答えられるわけないだろ。。
結局この王女はなにも考えちゃいない。
単にオーナーとモンスターとの間に関わりがありそうだからそれを潰そうとしてるだけだ。
それをしたところでどんな効果があると言うんだ?
きっとモンスターが減るとでも思っているに違いない。
まぁ普通の人間からしたらそれが正しい行動なのかもしれないが。
正直今の俺にはなにが正しくてなにが悪いかの区別がつかなくなってる。
でもそのことについて難しく考える必要はない。
所詮、人生はゲームで俺たちはただの駒にすぎないんだから。
「オーナーの正体が知りたいですか?」
「……はい」
「人間とエルフとドワーフ、さらに魔物使いや敵モンスターたちを同じ場所に集めようと考えるような方ですよ?」
「……それでも知りたいです」
「あなたが知ったところでどうにかできるとでも?」
「私だけでは無理ですがみんなで力を合わせればきっと……」
残念だがここまでだな。
一人でも会う勇気があるというなら少しは考えようと思ったが。
「しばらく通ってみたらどうですか? 得意の名推理でなにかわかるかもしれませんし」
「……バカにしてますよね?」
「さぁ? それか俺を拷問にでもかけてみてはどうでしょう?」
「そんなことできるわけないじゃないですか……」
「ではランチ営業の時間が迫ってますのでそろそろ」
「あっ、そうですよね! すみませんでした!」
俺は足早に歩きだす。
「大将!」
少し離れた場所から王女が声をかけてきた。
「今の大将のほうが感じいいですよ!」
……俺は寡黙な大将なんだった。
さすが名探偵だな。




