第十三話 ガチャ屋オープン
この世界に来てもう一か月半が経過した。
いよいよ今日はガチャ屋オープンの日だ。
営業時間は十八時~二十一時の三時間。
冒険者は朝が早いため、二十一時を過ぎるとどの店からもいなくなるらしい。
日中は冒険に出ているため、その時間に開けてても誰も来ないだろう。
定休日は寿司屋、ガチャ屋ともに毎週月曜と火曜の二日間にした。
週休二日制が体に染みついてしまってるからな。
しかしなんとこの世界では年中無休の店がほとんどだ。
休みなしで働くなんて考えられない。
確かにゲームの世界には休日なんてなかったけどさ。
今日は水曜だが、例え土曜であろうが客の人数にあまり変わりはないそうだ。
要するにこの世界の人々は曜日感覚があまりない。
だが四季はあるから季節感はあるらしい。
それがなかったら俺も一生変化のない日々を送ることになっていたかもしれない。
今は一月だからたまに雪が降ったりする。
雪はチラつく程度が一番いいな。
積もると交通の心配をしないといけなくなるからな。
「ねぇ! ヤマトはつけ場で見れるからいいけど、私はどこで見ればいいの?」
「ここで見るしかないだろ。さすがに接客中はやめてくれよ」
「ズルい!」
ガチャ職人のアイリによってつけ場にはガチャ屋内部が見れるモニターが設置された。
本当は大型モニターで見れるようにしたいところだが。
寿司屋店内はカウンター十席に、テーブル四人席が四卓ある。
カウンター越しの俺と客の間には段差とガラスケースがあり、俺から直接は商品を提供できない。
となると配膳係が必要になる。
「全部の店が軌道に乗ったらここも誰か雇うからそれまで我慢してくれ」
「絶対だよ!? ……でも私がやってたい気もする」
「地下の様子は録画してるんだからあとからでも見れるだろ」
「リアルタイムで見たいの! だからヤマトもつけ場に置いてるんでしょ!?」
その通りだ。
ドラマはCMがウザいから録画派だったが、スポーツはリアルタイムで見ないとダメだ。
録画だとなぜかつい早送りしてしまう。
ガチャがスポーツと同じかどうかはまだわからないが。
ただ俺の店だからトラブルがあった場合に備えて常に状況を見とかないといけないしな。
まぁトラブル対応はジャスミンとアイリの仕事だがな。
「そろそろ開けよう」
「はぁ~い」
寿司屋の開店時間の十七時になった。
「たまには並んでてほしいよな」
「仕方ないよ。まだ寿司の美味しさはあまり知られてないからね」
寿司屋の一日の客数は平均して三十人てところだ。
完全に赤字だな。
店の立地条件がまぁまぁいいからかろうじて三十人も来てくれているだけだ。
でも今は我慢のときだ。
そのうち行列ができる繁盛店になってみせる!
……そこまでの情熱はないな。
この店は赤字にならない程度でいい。
「地下はどうだった?」
「だーれも来てない」
まだ一時間前だからな。
◇◇◇
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
「あぁ」
「ではこちらのカウンター席へどうぞ」
アイリが接客をしてる間も俺は地下のことが気になって仕方なかった。
つい先ほどオープン時間を迎えたのだ。
「すみません」
「はい。ご注文はお決まりでしょうか?」
「松セット」
「松セットですね。ありがとうございます。松セットお願いします!」
ガチャ屋にはまだ客が来ていない。
列ができることも少しは期待していたのに……
「(ヤマト! 松セットだよ! ヤマト!?)」
「……はいよ」
モニターに集中しすぎて注文の声が聞こえていなかったようだ。
ヤバいな。
これがガチャ中毒ってやつか?
いや、まだガチャは引かれてないし俺が引いてるわけでもない。
単にオーナーとして店の心配だな。
まず客が来ないことにはガチャどころの話ではない
アイリはモニターには目もくれず、味噌汁と茶碗蒸しの用意をしている。
意外に真面目なんだよな。
自分で作ったシステムだから俺以上に見たいはずなのに。
「松セットあがったよ」
ここでは寡黙な店主を演じることにしている。
寿司屋の店主はそれくらいでちょうどいい。
「大将! 寿司って美味いね!」
「……どうも」
大将だと?
その呼び方いいじゃないか。
この世界にもそんな言葉あったんだな。
寿司屋の大将。
うん、いい響きだ。
「特にこの中トロが美味い! いや、ブリのほうが……」
どっちも美味いに決まってる。
今は定番ネタばかりだが、そのうち変わったネタもやってみるか。
それよりも今はガチャ屋だ。
地下だからわかりにくいのか?
看板は地上にもあるんだけどな。
やはり宣伝をしなかったのがいけなかったのか?
口コミで拡散されたほうが面白いんだが。
外で呼び込みしてみるか?
暇すぎてジャスミンは座ってお茶を飲んでいるし。
……新しい商売なんだから最初はこんなもんか。
とりあえず集客方法を考えねば。




