午後11時50分
私たちが、これから寝ようとしたとき、南先生の叱責の声が聞こえた。
「どうしたの?」
「今、行方不明になった2人が、見つかったみたい」
私は安心した。
パジャマ姿で隣の部屋をノックした。
「夜遅く、すみません」
「入って!」
強い口調だった。
「南先生、行方不明になった2人が見つかったのですか」
「そうよ」
南先生は機嫌が悪い。少しきつい口調だった。
「で、どうして勝手な行動をしたの!ねえ、みんなに心配させて」
「すみません・・・」
私は南先生に尋ねた。
「先生、この子たちは、どこにいたの?」
「バス停から離れて、地元の若い男の人たちのクルマに乗せてもらって」
私は、行方不明になった2人を責めた。
「ねえ、みんなが心配したのよ。夕食はろくに食べられなかったわ。勝手な行動しないで!」
行方不明になった2人は、泣き出した。
「あなたたち、今夜は私が泊まる部屋で寝なさい。着替えと荷物は、ここにあるから」
彼女たちは12歳。まだ社会常識を知らない子たちもいる。あまりに長い待ち時間に耐えられなくて、勝手な行動をとってしまった。
南先生と行方不明になった2人は、同じ部屋で寝た。
午前7時に起きた。
今日の午後3時に宇宙列車に乗る。宇宙エレベーターはモルジブ・シティから南に向かって200キロ先にある。
朝食後、私たちはホテルの集会所に集まった。
「では、私が宇宙へ引率する南です。この宇宙旅行は往復20日間あります。地球と違う環境ですから忍耐が必要です。3人ずつ列車の個室で片道7日間暮らしますので喧嘩をしなようにしてください。なにか問題がありましたら私に相談するように」
私は南先生に質問した。
「宇宙エレベーター行きのリニアモーターカーの発車時刻は何時ですか?」
「午後1時30分です。他に何か質問はありますか?」
「宇宙エレベーターの発着所では、身体検査がありますか?また、荷物検査もあるのでしょうか?」
「この宇宙エレベーターは全人類の財産ですので、どこの国の所有物ではありません。万が一、テロリストが自爆すれば宇宙開発の停滞だけではなく、水爆40発分の破壊力があります。人類の80パーセントは死滅します。だから、厳重に身体検査や荷物検査を行います」
「そんな・・・。私、嫌だわ」
「ねえ、それを承知の上で高いお金をだして宇宙に行くのでしょう」
「そうですが・・・」
「現在、ブラジルの赤道上に第二宇宙エレベーターが建設されています。完成するには、30年かかります。全ての人が宇宙に気楽にいけるには、あと2世紀くらいかかるでしょう」
23世紀の人類は土星まで進出した。宇宙には数百万人もの人たちが暮らしている。私たちの世代でも宇宙旅行は高値の花である。
お昼ごはんを食べた、私たち21人は、副顧問の石川先生と一緒に宇宙港がある人工島に向かった。延々と太陽電池が海の上に浮いている。
『まもなく宇宙港いきの列車がまいります。発車時刻は13時30分です』
日本語のアナウスが聞こえる。
カモノハシのような先頭車両のリニアモーターカーがホームに入ってきた。
「それでは、これから宇宙港に行きます。忘れ物は落とし物はないですね」
「はい」
みんなは返事をした。
「南先生、なぜモルジブから200キロ先に宇宙エレベーターがあるのですか?その理由は」
「良い質問しましたね。万が一、航空機が衝突すれば大惨事になります。特に偵察機などは何の警告なく破壊します。この宇宙エレベーターを建設に参加した100もの国の軍隊が駐屯しています。かつては建設業者たちが1000万人住んでいましたが現在では軍関係者しか住んでいません」
「ということは、巨大なゴーストタウンがあるのですか?」
「そうです。テロリストがボートで上陸をするかも知れません。その場合、即座に射殺されますので、絶対に立ち入り禁止区域に入らないで下さい。近年、廃墟探索ブームで立ち入り禁止区域に入って射殺された民間人もいました」
私たちはリニアモーターカーに乗った。急に加速して、私は座席に押しつけられる感覚に陥った。時速500キロで達するとローカル線の古い電車のような振動を感じた。




