↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/11

エピローグ「すれ違う勇者」

数日後――。


王都アルヴェリア・南門。


一台の馬車が、ゆっくりと門を抜けていく。


御者台にはミサキ。


手綱を握る姿は、さすが王国最強の黒騎士。


迷いがない。


その後ろ。


幌のついた馬車の中で、ケントは荷物を確認していた。


「魔導撮影機。」


ある。


「感光媒体。」


ある。


「予備の感光媒体。」


ある。


「現像用品。」


ある。


「交換用の――」


「ケントさん。」


向かいに座っていたフウカが、くすっと笑った。


「さっきから撮影道具しか確認してませんよ?」


「大事だから。」


「着替えは?」


「…………。」


フウカがじっと見る。


「……ある。」


「今、考えましたよね?」


「あるって。」


前方からミサキの声が飛んでくる。


「フウカ。」


「はい?」


「たぶん入ってない。」


「ミサキ!」


「昨日、荷造りしてるところ見たけど、撮影用品しか詰めてなかった。」


「なんで見てたの!?」


「あなたが心配だから。」


「子供扱いしないでください!」


「じゃあ着替えは?」


「…………。」


沈黙。


フウカが吹き出した。


「ふふっ。」


「フウカさんまで!」


馬車の中に笑い声が広がる。


王都が少しずつ遠ざかっていく。


目的地は――竜海。


《第二の門》。


そして。


写真に現れた、謎の言葉。


『三光と星が、真に結ばれる時――』


その意味は、まだ分からない。


だが。


ケントは自分の右手を見る。


そこには今も――。


円の中に三つの星。


《星の鍵》の紋章が刻まれていた。


そして、その手には。


新しい指輪がある。


ケントはそっと指輪に触れた。


「…………。」


フウカも同じように、自分の指輪を見る。


視線が合う。


二人とも、少しだけ笑った。


すると。


御者台から声が飛んできた。


「……私のこと忘れてない?」


「忘れてない!」


「即答なのが怪しい。」


「忘れるわけないだろ!」


「ならいい。」


その声はいつものように淡々としている。


けれど。


少しだけ嬉しそうだった。


ケントは馬車の外を見る。


青い空。


どこまでも続く草原。


遠くに見える山々。


この先に何が待っているのか。


まだ誰にも分からない。


竜海。


第二の門。


白い塔。


そして――。


あの少女。


ケントは膝の上に置いた魔導撮影機に手を添えた。


「……撮れるかな。」


フウカが首を傾げる。


「何をですか?」


「向こうの世界。」


「撮れるんじゃないですか?」


「簡単に言うなあ。」


「だって。」


フウカは微笑む。


「ケントさんなら、撮るでしょう?」


「…………。」


その言葉に。


ケントも笑った。


「まあね。」


馬車は進む。


まだ見ぬ場所へ。


まだ見ぬ景色へ。


そして――。


まだ知らない物語へ。


その時だった。


「……ん?」


ケントが窓の外を見る。


街道の向こうから、一人の旅人が歩いてくる。


小柄な少女。


旅装。


腰には剣。


背中には荷物。


そして――。


風に揺れる、淡いピンク色の髪。


「…………。」


なぜだろう。


ケントは、その少女から目を離せなかった。


向こうも。


一瞬だけ。


こちらを見る。


視線が交わる。


ほんの一瞬。


それだけ。


馬車と少女は、街道ですれ違った。


「ケントさん?」


フウカが声をかける。


「……いや。」


ケントは振り返る。


少女はもう、遠ざかり始めている。


「なんでもない。」


馬車は進む。


少女は歩く。


互いの名前も知らない。


互いが何者なのかも知らない。


もちろん。


彼女はまだ知らない。


自分が未来で――。


《勇者》と呼ばれる存在であることを。


少女は立ち止まる。


そして。


遠ざかる馬車を振り返った。


「…………。」


胸の奥が。


ほんの少しだけ、ざわつく。


「……何、今の。」


理由は分からない。


けれど。


なぜか――。


また会う気がした。


少女は前を向く。


その先にあるのは――王都アルヴェリア。


彼女はまだ知らない。


そこで。


自分の人生を大きく変える場所に出会うことを。


そして。


再び彼らと出会う時。


自分が――。


メイド服を着ていることも。


まだ。


知るはずもなかった。


第一章――完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。