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第1話 学生、トリを買う

月。

月の世界には、トーキョーがあった。

東京とは、違う。トーキョー。

そこでは、時間が止まったトーキョーシティがあった。

両親は、年をとらず。子供は、ずっと学生。

永遠に、同じ学年。

同じ暮らし。

男子高校生・森田すばるは、両親と離れ、アパートで一人暮らしをしている。

「今日の夕食の、お弁当でも、買いに行くか…」

見ていたスマホを、テーブルの片隅に置いて、立ち上がる。

服装は、Tシャツと、ジーパン。

髪は黒のショート。

目つきは、暗め。

財布を、ズボンの後ろポケットに入れて、家を出る。

ガチャ…

アパートでも、トーキョーでは、オートロックだ。

すばるの住む部屋は、アパートの2階。

手すりに手をかけながら、ゆっくりと階段を降りる。

すばるは、近くのコンビニまで、歩き出した。


第1話 学生、トリを買う


すばるは、コンビニに入る。

ふわふわのフリル姿が、お洒落なトリがいた。

コンビニのレジ横である。

エメラルド色の長い髪。同じ、エメラルド色の瞳。

「いらっしゃいませ、学生さん。私を、買ってくれませんか?」

トリは、自らを、売り込んだ。

値段は、千円。

アルバイトの平均時給よりは、安い。

「うーん。ちょっと、待ってくれ。夕食の弁当を買いに来ただけなんだ」

レジ横を通り過ぎ、弁当売り場のラインナップを、見つめる。

カレーは、昨日食べた。

…まあ、今日もカレーでもいいのだが、何か、肉々しいものが食べたい。

ハンバーグ?

いいや、唐揚げだ。

唐揚げが良い。

良し。

すばるは、五百円の唐揚げ弁当を手にして、そのままレジに行く。

「学生さん、私を、買ってください。…それとも、もう、トリは買いましたか?」

「トリか…。トーキョーの国民は、トリを買うことが義務化されるんだったな」

トーキョー都知事が決めたことに、トリを買うことの義務化がニュースになっている。

すばるの両親は、テレビの通販番組で、オスドリを買っていた。

何でも、トリは、家事全般を代わりにやってくれる便利な動物だと、通販番組で話題になっているので、ついつい買ってしまったらしい。

一人暮らしの学生であるすばるは、家事全般を一人でやっている。

トリが、代わりをしてくれたら、きっと便利だ。

「トリの値段はいくらだ?」

「丁度、千円です」

「…じゃあ、買うか。…家事してくれるか?」

「家事…します!」

すばるは、エメラルド色の髪のトリを買うことにした。

無人のセルフレジで、トリの二の腕のバーコードを、読み取る。

あと、唐揚げ弁当のバーコードもピッとする。

合計、千五百円。

電子マネーカードで、支払いをする。

すばるは、トリと共に、コンビニを出る。

車のヘッドライトが流れる道路の信号待ちをする。

「学生さん。私、家事、頑張ります」

「ああ。頼む」

信号が、青に変わる。

自宅のアパートは、すぐそこだ。

階段を上がって、玄関の鍵を右手のひらの指紋認証で開ける。

「いいぞ。入って」

「ありがとうございます。失礼します」

トリは、フリルのついた洒落たブーツを片手で脱いで、いそいそと、部屋の中に入った。

フリルのお洋服が、ひらひらと揺れている。

「お部屋のお掃除します」

「え?いや…、もう遅いからいいだろう」

「だって、お台所、物がたくさんです」

「じゃあ、明日、頼む」

「…はい」

頷いたあと、トリは、きょろきょろと部屋中を見て回る。

押し入れを見つけて、すぐ、開ける。

「ここ、空いてます?」

「ああ。私物は両親のいる実家にあるから、押し入れは、何も入ってない」

「じゃあ、私、ここで寝泊まりします」

「え、ああ。いいけど」


ジッ…


トリは、突然、真剣な顔で言った。

「寝てる間は、絶対にこの押し入れを開けないでください」

「え?」

「寝てる間に、襲わないでくださいね」

「え…?」

慌てるすばる。

さらに、トリは、言った。

「…私、天使じゃないですから」

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