プロローグ
ラビィの物語の正当続編となっております。
前作を、まだお読みで無い方は是非……
《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》もよろしくお願い致します!
それではお楽しみください!
鏡の前で、ラビィは深呼吸をした。
月面都市の標準的な居住区。
窓の外には、ドーム越しに広がる灰色の大地と、遠くに輝く青い地球。
低重力用に設計された室内で、黒いスーツ姿のウサギ風知的生命人種の少女が、ぎこちなく襟元を整えている。
「む、むずかしい……」
耳の根元を押さえながらネクタイを締め直す。人間用に作られたフォーマルウェアは、どうにもこうにも耳との相性が悪い。
「ラビィ! まだなの? 転送予約の時間、過ぎちゃうわよ!」
奥のキッチンから母の声が飛んできた。
「い、いま行くー!」
慌ててカバンを掴み、玄関へ跳ねるように向かう。
扉の前で振り返ると、母が少し心配そうに、それでも誇らしげに微笑んでいた。
「面接、落ち着いてね」
「うん!」
ラビィは大きく頷く。
「行ってきます!」
自動ドアが開き、月面都市の通路へ。
白く清潔なアーチ状の街路、ゆっくりと移動する歩行帯、天井の人工空に映る柔らかな地球光。
今日、ラビィは月を出る。
行き先は――金星。
巨大なリング状の構造体が、都市外縁部にそびえている。惑星間転送ゲート。
人類圏を繋ぐ交通の要だ。
「金星行き、転送準備完了」
係員の声に促され、ラビィは転送ポッドへ乗り込む。
ドアが閉まり、視界が白く染まった。
次の瞬間。
重力が、変わる。
視界が晴れた先に広がっていたのは、雲海の上に築かれた超巨大都市だった。
大気上層に浮かぶ複合都市群。
光を反射するタワー群。空を走る輸送ライン。空中庭園。重力制御された浮遊構造体。
「すご〜……」
思わず声が漏れる。
その中心に、他よりもひときわ巨大な構造物があった。
球体と塔が組み合わさったような、象徴的な建築。
あれが――クロノスフィア本社。
クロノス・レガリアを生み出した、人類圏最高峰の技術企業。
ラビィは小さく拳を握った。
「ここでクロノス・レガリアが作られたんだ……。私、絶対ここで働きたい!」
受付を済ませ、案内された待合スペース。
壁一面のガラス窓の向こうには、金色に輝く雲の海が広がっている。
心臓が、うるさい。
(だ、大丈夫……大丈夫ラビィ……!)
手のひらをぎゅっと握る。
「ラビィ・ルナファさん」
呼ばれた。
「は、はい!」
立ち上がり、扉の前へ。
スッと息を吸い。
「失礼します」
ドアが開く。
室内には三人。
スーツ姿の男性が二人。中央に座るのは、整った顔立ちの女性面接官。穏やかな笑みを浮かべているが、視線は鋭い。
ラビィは席の横に立ち、深くお辞儀をした。
「ラビィ・ルナファです。本日はよろしくお願いいたします!」
「どうぞ、お掛けください」
「はい、失礼します」
ぴょこん、と耳が揺れる。男性面接官の片方が一瞬だけ視線を上げた。
「では、始めましょう。志望動機を教えてください」
来た。
ラビィは背筋を伸ばす。
「御社で開発・運営されている……クロノス・レガリアが大好きで……」
一瞬、言葉が詰まる。
でも、胸の奥にある気持ちは嘘じゃない。
「……大好きだからです。はい!」
沈黙。
男性面接官の片方が、わずかにペンを止めた。
その後も、技術理解度、協調性、志望部署についていくつか質問が続く。ラビィは必死に、誠実に答えた。
そして最後に、中央の女性面接官が口を開く。
「最後に、皆さんに伺っている質問があります」
優しい声。
「貴女にとって、クロノス・レガリアとは?」
ラビィは目を丸くする。
少しだけ考えて。
ふわっと笑った。
「青春です!」
一瞬の静寂のあと、女性面接官の目が細められた。
「ありがとうございました!」
深くお辞儀をし、ラビィは部屋を後にする。
扉が閉まる。
残された三人。
「……元気なのは分かりましたが」
「研究開発職としては、少し抽象的すぎますね」
男性面接官たちは資料を閉じる。
だが、女性面接官だけは履歴書をじっと見ていた。
ラビィ・ルナファ――
その名を見つめ。
彼女は、かすかに口角を上げた。
「来たわね……」
窓の外、金星の雲海が静かに輝いていた。
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土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
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