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20. 後夜祭で咲き誇る満開の花

 夏祭りが終わった翌日の夕暮れ、ルミナ・シティは祭りの後の静けさに包まれていた。通りにはまだ提灯が残っているものの、行き交う人々の表情からは昨日の熱狂が消え、日常へと戻りつつある。

 そんな中、『後夜祭』の会場となる広場の端は──


(みんなのおかげで、なんとか形になって良かった)


 撤収作業中の資材置き場の一角を間借りした、急ごしらえの小さなステージ。木の板と酒樽で作った簡素な足場に、布を被せて最低限の見栄えを整えたものだ。昨日の豪華絢爛なメインステージを見た後ではどうしても見劣りする。

 集まった観客は百人程度。リザや冒険者たち、ギルドの関係者、そして一部の物好きな住民たちだ。昨日見た大観衆に比べれば少ないが、これまでの活動を考えれば大入りだ。

 祭りらしくするため、リザたちが屋台を出して食事を振る舞ってくれている。美味しい料理と酒のパワーもあり、雰囲気自体は悪くない。


(来てくれた人たちのために全力でやろう。数じゃない、ハートだ! 一人でもファンがいるなら、そこが俺たちの武道館だ!)


 タケルは自分を奮い立たせるように、努めて明るく振る舞った。ステージ袖では、出番を待つヴァルガンが腕を組んで立っていた。


「……タケルよ。やはり布の面積が少なすぎる気がするのだが」


 ヴァルガンが自分の股間を見下ろしながら、怪訝そうに眉をひそめた。

 着ているのはタケルが夜なべして作った祭り専用スペシャル衣装。背中に『祭』の筆文字が入った法被とねじり鉢巻。そして下半身はもちろん、白いふんどし一丁である。


「ほぼ裸だぞ、本当に正装なのか?」

「本当です。これは『ニッポン』という国の伝統的な祭りの正装で、男のソウルを解放する衣装なんですよ!」

「魂の解放か……。確かに、風通しは良いな。防御力は皆無だが」

「大丈夫ですよ、筋肉という天然の鎧がありますから」


 ヴァルガンは「変な国もあるものだ」と呟きつつ、ふんどしをきゅっと締め直した。どんな格好でも堂々としていれば様になるのが、魔王のカリスマ性というものだろう。

 鍛え上げられた褐色の筋肉に白い布が映え、妙な説得力と野性味を醸し出している。あとすごい。ボリュームが。


「ステージの確認も終わったので、もう準備はできてます。さあヴァルガン、暴れてきてください!」

「任せておけ。この会場を我の歌で焦がしてやる」


 ヴァルガンがステージに上がり、マイクを握った。

 松明を灯した照明は簡素で、夕闇に沈みかけているステージは薄暗い。普通に考えれば、これで人が集まるのだろうかと不安に思うだろう。だが、ヴァルガンは不敵に笑った。


「さて……我の舞台を始めるには、少し静かすぎるな」


 ヴァルガンがパチンと指を鳴らした、その瞬間。


 ヒュルルルル……ドォォォォォォォォンッ!!


 広場の裏手から、腹に響くような轟音が鳴り響いた。夜空に巨大な花火が打ち上がり、大輪の華を咲かせたのだ。


「えっ!? 花火!? そんな予定なかったぞ!?」


 タケルが驚いて見上げる。近くの建物の屋根の上で、ガルドとギルドメンバーたちが巨大な筒を抱えて笑っていた。全員、顔を煤で真っ黒にしている。


「ガッハッハ! 祭りの最後っ屁だ、景気良くいくぜぇ!」

「予算オーバーですけどね。経費として、マスターのボーナスから引いておきます」


 隣でセレイナも呆れたように、だが楽しそうに笑っている。


 ドンドンッ、ドォォォォンッ!

 次々と打ち上がる花火。

 色とりどりの光が、薄暗いステージを鮮やかに照らし出した。

 魔法で生み出された洗練された美しさではない。火薬の匂いがする、無骨で荒々しい光。だが、それが泥臭く這い上がってきた『RE:Genesis』には相応しい。


「なんだ? まだ何かやってるのか?」

「花火だ! すげぇ!」

「行ってみようぜ!」


 花火の音と光に気づいた人々が足を止め、広場に集まり始めた。閑散としていた会場が、少しずつ熱気を帯びていく。


「ガルドさん……! ありがとうございます!」


 タケルはこのチャンスを逃すまいと、マイクを握りしめて叫んだ。注目を浴びたこの流れに乗って、場の空気を作ってみせる!


「みなさん、こちらです! 祭りはまだ終わってませんよ! 『RE:Genesis』が、復活の狼煙を上げます! 伝説の始まりを目撃してください!」

「フン、ようやく集まってきたか。この灯火、無駄にはせん!」


 イントロが流れる。

 選曲は『灼夏の夢火(しゃっかのゆめび)』。

 太鼓などの打楽器メインで構成された古い民謡を、ノリのいい和ロック風にカバーされた一曲だ。


「♪……咲き誇れ、命の限り……! 儚き夢を、夜空に焦がせ……!」


 花火の爆音に負けない、力強い歌声が夜空に突き抜ける。

 逆光でシルエットになったヴァルガンの姿が、赤や青の光に照らされて浮かび上がる。その顔や身体に刻まれた古傷が、光の中で野性的な色気を放っていた。ふんどし姿という奇抜な格好さえも、シャーマンのような神々しさに変わっていく。


「すげえ……」

「なんか、こう……うずうずしてきたぞ!」

「かっけぇ……!」


 集まった観客たちのテンションが上がり始めていた。腹の底に響くようなリズミカルなビートに、いつの間にか身体が動き出す。ある者は手拍子をして、ある者は掛け声を出し、ある者は拍子に合わせてジャンプする。

 そこにあるのは計算された美しさではない。生きる力そのもののような、剥き出しのエネルギー。さらにヴァルガンは、曲のサビに合わせて指先から魔法の炎を放った。


「ハアアアアッ!」


 ゴオォォォォッ!

 ステージの四隅から炎の柱が立ち昇った。魔王自身の魔力を活かした迫力ある炎の乱舞。熱波が客席まで届き、観客たちの肌を焦がすような臨場感を生む。

 熱く響き渡るヴァルガンの歌声、炎に照らされる筋肉、激しいダンスと飛び散る汗。ステラのステージにあった華やかさは欠片もない。だからこそ、カッコいい。


(いける……! 今日のヴァルガンは誰よりも輝いてる!)


 タケルは袖で拳を握りしめた。

 この熱は間違いなく届いている。昨日、絶対王者に打ちのめされそうになった心を、この炎が再び燃え上がらせてくれている。

 そんな様子を人混みの向こうから楽しそうに眺める人影──エトルの姿があったことも知らず、二人のライブは最高潮に向かって加速していった。

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