21. 感動のフィナーレ(台無し)
夜空に咲く花火と、魔法の炎で照らされたステージ。
パフォーマンスを終え、汗だくになり肩で息をするヴァルガン。
「「「うおおおお! ヴァルガン! ヴァルガン!」」」
客席から野太い声援が飛んできた。観客たちは狭いステージに押し寄せ、ヴァルガンに向かって手を振り続ける。ヴァルガンはニヤリと笑い、ステージから飛び降りた。
「ククク……今の我は気分がいい。ファンサしてやろう!」
汗だくのまま端から端まで駆け回る。もみくちゃにされながら、観客たちとハイタッチ……という名の、骨がきしむほど力強い握手を交わしていく。
「むんっ!」
「ぎゃあああ! 手が、手が砕けそうだけど嬉しい!」
「はあっ!」
「ひぎいいい! これが教官の力かあああああああ!」
「ふぬっ!」
「ほひい~ん! ありがとうございますううううう!」
「ソフトにしろって言ったのに!?」
汗臭く、泥臭く、熱気と物理的接触が支配する濃厚な一体感。
タケルは思わずツッコんだが、観客たちはなぜか全員嬉しそうだ。……喜んでいるなら、まあいいか。そう考え、タケルはほっと胸を撫で下ろした。
(よかった……これがRE:Genesisの力だ!)
誰もいなかった雨の日の公園から始まって、ようやくここまで来た。
鳴り止まない拍手と『RE:Genesis』コールの中、ヴァルガンはステージ中央に戻り、荒い息を整えながらマイクを握った。
「ふぅ……酔狂な連中だ。こんな場末の宴に最後まで付き合うとはな」
「嬉しいくせにー!」
「そんな格好で歌うあんたも大概だぞー!」
観客からの遠慮のない声。ヴァルガンは苦笑し、ふっと表情を和らげた。
会場を見渡し、深々と頭を下げる。
「この後夜祭、見事な盛り上がりだった。貴様らのおかげだ。……礼を言う」
その真摯な姿に会場は一瞬静まり返り、やがて温かい拍手がヴァルガンを包み込んだ。タケルは感極まっていた。完璧だ、これ以上ない最高の締めくくりだ。このまま終われば、間違いなく伝説の一夜として語り継がれるだろう。
しかし。頭を上げた魔王は、凶悪な笑みを浮かべていた。
「だが、我はここで終わる器ではない」
ヴァルガンの視線が、客席へと向けられる。
人混みの奥──ニット帽を目深に被ってこちらを見つめているエトルの姿を、魔王の瞳は正確に捕捉していた。
「聴いているか、天上の歌姫よ!」
ビシッ! とヴァルガンが指を差す。その指先から放たれる覇気が、真っ直ぐにエトルを射抜く。
「昨日の貴様の舞台、しかと見届けたぞ。確かに見事だった。だが、震えて待つがいい」
(えっ? えっ? ちょっ、ヴァルガン? 何を言い始めてるんだ?)
「必ずや、貴様をその玉座から引きずり下ろしてやる! 覚悟しておけ!!」
シーン……。
風の音さえ止まったかのような空白。そして──
「「「「「えええええええええええ!?」」」」」
「天上の歌姫って……ステラへの宣戦布告か!?」
「マジかよ、身の程知らずすぎんだろ!」
「いや、今のライブ見たら本気かも……?」
会場は騒然となり、どよめきが波紋のように広がっていく。
ステージ袖のタケルは顔面蒼白だった。
「ちょおおおおおおお!?」
思わず絶叫しながらステージに飛び出した。感動も余韻もへったくれもない。
「何言ってるんですか、相手は国民的アイドルですよ!? 無茶苦茶ファン多いんですよおおおおおお!?」
「なぜ慌てる? 事実を述べたまでだ」
「空気読んでくださいよ! せっかく綺麗に終わったのに! 『ありがとうございました、みなさんまた会いましょう』でいいじゃないですかああああッ!」
タケルがヴァルガンの太い腕にしがみついて揺さぶる。だが、魔王は腕組みをしたまま、一切聞く耳を持たない。凸凹漫才コンビのようなやり取りを見て、緊迫していた観客からドッと笑いが起きた。
「ガッハッハ! 最後まであいつららしいな!」
「ステラ様を、引きずり下ろす……? え、敵ですか?」
「それくらいビッグになって、早くツケを払っておくれよ!」
一方、指を差されたエトルは目を丸くしていた。最初は驚きで固まっていたが、次第に肩が震え出し──
「……ぷっ、あははははっ! 面白い、最高ですヴァルガンさん!」
ついにはお腹を抱えて爆笑した。彼女の周りだけ空気が弾んでいる。
ステラを本気で倒そうとする者、その玉座に挑み牙を剥く者なんていなかった。それが今、目の前にいる。ふんどし姿で汗だくになりながら、真っ直ぐな目で睨みつけている。
「いいですね……期待していた以上ですよ。本気で超えるつもりなんですね」
エトルは眼鏡の奥で、狩人のように瞳を細めた。
そこにあるのは歓喜と闘争心。
「待っていますよ、RE:Genesis。ぜひ楽しませてくださいね」
彼女は踵を返し、嬉しそうな足取りで闇の中へと姿を消した。




