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17. 作戦会議は踊る~五人寄れば文殊の知恵~

 営業時間を終え、『準備中』の札が掲げられた酒場『赤竜のあくび亭』。

 普段は冒険者たちの喧騒に包まれている店内だが、今夜は貸し切り状態で静かな熱気が漂っていた。中央のテーブルを囲むのはタケル、ヴァルガン、ガルド、セレイナ、リザの五人。

 テーブルの隣には、リザが店の倉庫から持ってきた移動式黒板が鎮座している。


「みなさん、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。これより、後夜祭ライブに向けた作戦会議を始めます!」

「おいおい、堅ぇ始め方すんなよ! もう閉店後だろ? 飲みながらやろうぜ!」

「まずは真面目にやんなさい、お酒は後回しだよ」


 リザがたしなめつつも、おつまみの燻製ナッツと干し肉をテーブルに並べてくれた。女将の気遣いに感謝しつつ、タケルは会議を進める。


「では、現状の確認から。セレイナさん、お願いします」

「はい。今回のライブにおける前提条件を整理しました」


 セレイナが立ち上がり、眼鏡がキラリと光る。チョークを手に取った彼女がテキパキと黒板に書き出していく文字は、達筆すぎて逆に威圧感がある。


【後夜祭ライブの条件】

 ・会場:広場の端、小さな特設ステージ(メインステージの五分の一サイズ)

 ・時間:本祭終了翌日、夕方から夜の二時間枠

 ・予算:厳しい(セレイナが捻出したギルド予算+有志のカンパ頼み)

 ・機材:最低限の音響のみ、最新鋭の魔導照明などはレンタル不可


「……改めて文字で見ると、厳しいですね」

「ええ。しっかり考えなければ、今ひとつなステージで終わるでしょう」


 メインステージの豪華絢爛な設備に比べれば、環境は雲泥の差だ。華やかさで勝負するのは最初から無理がある。


「戦場としては申し分ない。逆境でこそ真価が問われるというものだからな」

「前向きだなぁ、お前」

「まあ、本人がやる気なら問題ないね」


 ヴァルガンがナッツをポリポリと齧りながら、得意げな笑みを浮かべた。ガルドとリザは苦笑いしつつ、頼もしそうに見ている。


「では、具体的な戦略に入りましょうか。まずは曲をどうするかです」

「私から提案があります。こちら、夏祭りで予定されている出場者と曲目のリストです。独自ルートで入手しました」

「独自って……流石ギルドの情報網……」


 セレイナが分厚い資料を取り出し、中を開きながら説明を続ける。


「傾向を見ると、キラキラしたアイドルソングや流行の恋愛楽曲が大半です。観客の耳は、そういった『王道』に慣れている状態でしょう」

「同じ路線だと比較されて不利ってことかい?」

「その通りです。機材も演出も劣る我々が、同じ土俵で正攻法を挑んでも勝ち目はありません。差別化が必須です」


 タケルは考え込んだ。

 ヴァルガンの強みとは何か、真似できない『RE:Genesis』だけの武器。自分の視点だけでなく、他の人にも聞いてみるべきことだろう。


「みなさん、客観的に見てヴァルガンの強みってどこだと思います?」

「んー……声量? ワイバーンを倒したあとのライブ、迫力がとんでもなかったよ。鼓膜じゃなくて腹に響くんだ」

「圧だな。存在感っつーか、そこに立ってるだけで空気がピリッとするオーラっつーか。あと筋肉」

「恐怖に近い感情を喚起する力、でしょうか。ステラ様の癒し・キラキラとは真逆のベクトルにあるカリスマ性かと」

「フン。褒め言葉と受け取っておいてやろう」


 各々のコメントを聞いていく。以前からタケルが感じていたように、圧やパワフルさといった部分が強みというのは共通認識のようだ。ならば──


「よし!」


 タケルが勢いよく立ち上がった。椅子がガタッと音を立てる。


「ステラが『天上の歌姫』なら、ヴァルガンは『地上の覇王』……いえ、『雄々しさ』で行きましょう!」


 タケルの目が、オタク特有の熱量で輝き出す。


「癒しじゃなく、魂を揺さぶる。心地よさじゃなく、鳥肌が立つような興奮! 『激しく感情を揺さぶる曲』でいきましょう。かつて祭りで使用された古い民謡といったジャンルから探せば、ハマるはずです!」

「血湧き肉躍る音楽ということか。それを我が歌い上げる……悪くない」

「でもさ、いくら歌が良くても見栄えがちょっとねぇ。照明もないんだろう? 薄暗いステージじゃ迫力が出ないよ」


 リザの痛い指摘に、全員が沈黙する。予算に余裕がない以上、魔導照明のレンタルは不可能。薄暗い中でただ歌うだけでは、通りすがりの客を足止めするのは難しい。かといって、手作り照明でなんとかするにはステージが広すぎる。


「なあ、いっそ照明なしでやったらどうだ?」


 ガルドが顎髭をさすりながら提案した。


「照明なし?」

「おう。ほら、焚き火とか松明とか。原始的だけど、逆にインパクトあるんじゃねぇか? ギルドの倉庫に余ってる松明ならいくらでもあるぜ」

「一理あります。『雄々しさ』というコンセプトなら、人工的な光よりも炎の揺らめきの方が合うかもしれませんね、古くなった松明を使用すれば一石二鳥です」

「炎の演出……アリですね。ヴァルガン、火は出せますか?」

「愚問だな」


 パチン。

 ヴァルガンが指を鳴らすと、指先にライターのような小さな炎が灯った。さらに魔力を込めると、ボッ! とテニスボール大に膨れ上がる。


「自前の特殊効果ですね、採用! これなら予算ゼロでド派手な演出ができます」


 タケルは興奮気味にメモを取る。

 曲と演出の方針は決まった、次は衣装だ。


「衣装はいつものパーカーもいいですけど、せっかくの祭りだし……」


 タケルはヴァルガンをじっと見た。

 雄々しさ。鍛え抜かれた筋肉。野性味あふれる風貌。炎の演出。一つずつキーワードを並べた彼の脳内で、あるイメージがカチリとハマった。


「……これだ、これしかない。ヴァルガンの新衣装は法被とふんどしです!」

「はっぴ? ふんどし?」

「そうです、肌を見せていくスタイルです! 上半身裸に法被を羽織り、下はふんどしで引き締める。これぞ男の祭り衣装!」


 タケルは黒板に描きながら説明をしていく。現代日本でよくある丈の短い祭り用の法被、そして前垂れのついてない水着のようなシンプルな形状の六尺ふんどし。


「ヴァルガン最大の武器である肉体美を活かすチャンスです。炎に照らされた筋肉、汗、そしてふんどし……これ以上の『雄々しさ』はありません!」

「……タケル。貴様、我に裸で踊れと言うのか?」


 ヴァルガンのこめかみに青筋が浮かぶ。


「いやいやいや裸じゃなく正装です! とある遠い異国の伝統衣装なんですよ。これを着こなせるのは、選ばれし漢だけ! みなさんはどう思います?」

「アタシは賛成だよ、盛り上がりそうでいいじゃないか」

「ガハハ! 筋肉は最高の衣装って言うしな、見せつけてなんぼだぜ」

「……露出が多いのはどうかと思いますが、インパクトという点ではアリかと」

「……チッ。そこまで言うなら着てやらんこともない」


 ヴァルガンは満更でもなさそうに腕を組んだ。どうやら「選ばれし漢」というワードが効いたらしい。


「布ならうちの店に余ってるのがあるからね。会議が終わったら用意するよ」

「ありがとうございます、衣装は俺が責任を持って作ります! では、役割分担をまとめると~……」


【役割分担】

 ・タケル:全体指揮、MC補助、トラブル対応、衣装製作

 ・ヴァルガン:パフォーマンス、炎演出

 ・ガルド:会場警備、ギルドメンバー動員(サクラ兼盛り上げ役)

 ・セレイナ:タイムキーパー、機材管理、現地サポート

 ・リザ:ケータリング(軽食・ドリンク提供)、雰囲気づくり


「よーし、決まったな! それじゃ、待ちに待った打ち上げだ!」

「まだ本番前じゃないか……まあいいや。今日は特別にサービスしてあげるよ」

「じゃあ、後夜祭の成功を祈って──」


 五人のグラスが高々と掲げられた。


「「「「「乾杯!」」」」」


 カチン、と心地よい音が店内に響く。

 タケルはエールを一口飲み、仲間たちの笑顔を見回した。一人で抱え込み、孤独に戦っていた時とは違う。今はこんなに頼もしい協力者たちがいる。


(俺一人じゃ、ここまで来れなかった)


 ヴァルガンの方に視線を向けると、目が合った。


(ありがとう、ヴァルガン)

「ん? どうした」

「いえ。ライブ、絶対成功させましょうね!」

「当然だ。後夜祭は我らの新たなページを刻む夜になる」


 五人の笑い声が、夜の酒場に響く。

 最強のチームが、伝説のステージへと向かって動き出した瞬間だった。

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