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34. 必殺、デリート作戦!!(2)

 寒さでガクガクと身を震わせていると、へべが上の方を指さして「わあぁ」と感嘆の声を上げました。


「どうしましたの?」


「ヘラ様、あちらにアーモンドの花があんなに咲いておりますよ」


 へべが指した方を見れば、木には淡いピンク色の花が枝に沿うようにして咲いています。5枚の花びらの先は分かれていて、まるでハート形に見えるのがなんとも可愛らしく、競うようにして枝にはびっしりと花が付いています。


「丁度満開ですわね。この時期に水浴になど来なかったから、ここがお花見スポットだなんて知らなかったわ」


「これは儲けましたね!」


 うふふふ、と2人ではしゃぎながら水浴をすれば、身も心も綺麗さっぱり。これまであった嫌な事も悲しい事もどこかに流れて消えてしまったかのようで、さらに満開の花を見た事で心が華やぎました。



 水浴を終えて焚き火に当たりながら着替えを済ませると、温かいお茶を飲みながら暖を取ります。


「ヘラ様は元々お美しかったですが、より一層、美しさに磨きがかかって……! これはゼウス様もメロメロになること間違いなしです」


「そうかしら? そうよね! それでは早速ゼウス様に会いに行きましょう。今日は神殿にいらっしゃるかしら 」


「ゼウス様でしたら、昨日からお帰りになっていませんよ」


「帰っていない?」


「はい。最近はよく森へ行かれてニンフ達と遊んでいるみたいですけど」


 遊ぶ……?


 ニンフと遊ぶと言うのは、一般的には美しい容姿をしたニンフに歌や踊りで楽しませてもらう事ですが……。ゼウス様の遊ぶはそこで終わるとは思えません。


「一体どこの森へ行かれているのか知っている?」


「詳しい場所はまでは分かりませんが、ここからさほど遠くない森です」


 これは急がねば!!




 へべに案内してもらいながらしばらく森の中を歩いていると、陽気な音楽と共にきゃあきゃあと楽しげな話し声が聞こえてきました。


「そこに誰か居るのかしら?」


 話し声がピタりとやむと、木々の向こう側からニンフが一人出てきました。


「これはヘラ様ではありませんか! 私、エコーって言う者です。どうなさったのです、こんな所で。お散歩ですか?」


「ええ、カナトスの泉へ出掛けていたのよ。この辺りでゼウス様を見かけなかったかしら? 最近よくこの辺りの森のニンフ達と遊んでいるって聞いたのよ」


「ああっ!カナトスの泉はヘラ様のお気に入りですものね。今ならアーモンドの花が咲いて綺麗だったのでは無いですか?」


「そうね、綺麗でしたわ。そんな事よりもゼウ……」


 先程声がした方へと歩みを進めようとすると、エコーが行く手を遮るようにわたくしの前に立ちました。チラチラと後ろの様子を気にしている様です。


「そーだ! 向こうにアネモネが沢山咲いている野原があるんですが、もうご覧になりましたか?! 風が吹くと色とりどりのアネモネの花が揺れてそれはもう気持ちいいですよ」


「そうなの。それではまた今度見に行く事にしましょう。そうではなくゼウスさ……」


「そんなこと仰らずにっ!! 花の季節は短いですからね。うかうかしているとあっという間に見頃を終えてしまいます。まあその後に見頃を迎えるケシの花もなかなか良いですけどね。なんなら私ヒマですし、案内を……」


「いい加減になさいっ!! さっきから聞いてもいない事をベラベラと! わたくしはゼウス様がこの辺りにいらっしゃらないか聞いているのです! 簡単な質問にすら答えられないのなら喋れないのも同じ事!」


 もう怒りマックスです!

 この先には絶対にゼウス様がいらっしゃったに違いありません。友達のニンフ達を庇うためにこの子は時間稼ぎをしているのでしょう。

 それならこちらにだって考えがあります。


「声を奪ってやると言いたい所だけれど、それは少し可哀想ですからね。代わりに金輪際、あなたは自分からは喋れなくしてやりましょう。誰かが言った言葉だけを話しなさいな」


「そんなっ!! ヘラ様お許し下さい。無礼を働いた事ならお詫びしますからどうか……っ?!」


 エコーに向けて人差し指をピンッと振ると、エコーは喉元を押さえて目を白黒させています。


「さようならエコー」


「さようならエコー」


 わたくしの言った言葉をそっくりそのまま返したエコーは、その場に泣き崩れてしまいました。

 女神達のトップに立つわたくしを怒らせると怖いと言うことを、嫌という程思い知ったでしょう。

 エコーにぷいっと背を向けて帰ることにします。もうどうせ、ゼウス様はこの場から立ち去ってしまったでしょうからね。


 折角カナトスの泉で心身を清めて来たと言うのに、エコーのせいで気分は台無し。

 気分転換に森の中を歩いて帰っていると、日が傾いてきました。


「ヘラ様お疲れではないですか? 車を御用意して参りましょうか」


「そうね、少し疲れたわ」

 

「それではここで少しお待ち下さい」


 へべがわたくしの孔雀が引く車を取りに、森の中へと消えていきました。その後ろ姿を見送っていると、突然近くでどしっ、どしっと重たい音が聞こえてきました。


「な、何ですの、この音は。足音みたいですけれど」


 キョロキョロと当たりを見渡していると、大きな2つの人影がニュっと姿を現しました。

 背丈はわたくしを3人縦に並べたくらいでしょうか。巨大な身体の割に容姿は悪くなく、背中には槍を背負っています。


エコーは皆さんご存知「こだま」です。

相手の言葉しか言えなくなってしまったエコーのその後の悲恋を知りたい方は、ぜひ調べてみてください(*'ᴗ'*)

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