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14. おてんば娘のアルテミス(1)

 ――あぁ、頭が痛い。


 皆様ごきげんよう。

 今日も絶賛、頭痛に悩まされているヘラです。


 なんでそんな頭痛に襲われているのかですって?聞いてくださいませ。


 先程までゼウス様の神殿で宴を開いておりましたの。

 レトが産んだ双子の弟、光明の神アポロンはあの後予言の通りにピュトンを倒し、デルポイにある神託所の主となりました。

 アポロンは少々やんちゃなところもありますが、好青年ですわよ。



 問題は姉のアルテミス。


 ちゃっかりゼウス様の膝に乗って、ワガママを言い出しました。

 くぅぅぅっ! そこはわたくしの場所なのに!!


『ねえゼウスお父様、あたしのお願い聞いてくれる?』


『うん? 何かな』


『あたしね、ぜぇーーったい出産なんてしたくないの。だってレトお母様のあの姿を見たら誰だってそう思うでしょ? あたしとアポロンを産んだ後、拷問にでもあったかのように酷い有り様だったんだから。という訳で、あんな目に合うのは御免なの。一生処女でいることを許してくれる?』


 これにはわたくしは口を挟めません。コクコクとゼウス様に頷き返しました。


『それからねぇ、あたし狩りがしたいのよ。弓で獲物を狙うの! カッコイイでしょ? だから長い裾だと狩りの邪魔だから短いスカートの服がいいし、狩りをするための山も欲しいの。山と言う山ぜーんぶね。だって山ごとに居る生き物って違うじゃない? それからそれからニンフの召使いも必要だわ!ざっと60人くらいかしら。もちろん処女じゃなきゃ嫌よ。穢れを知らないあたしの傍に侍るんだもの。貞潔でなきゃ!』


『あ……アルテミス、そんなに召使いが居るのかしら?』


『ええ、だって大勢で歌い踊ってくれた方が華やかではないですか。あっ、そうだ! 侍女もいるわ!狩りを休む時に猟犬の世話をしたり道具の手入れをしてもらわないと。こっちは20人でいいかなぁ』


 空いた口が塞がりません。なんと言う強欲者。


『あとねぇ』


『まっ、まだあるんですの?』


『山から降りて気分転換する事もあるでしょうし、お父様オススメの都市もひとつ頂戴!』


『アルテミスは欲張りだねぇ。いいよ、君の欲しい物を全てあげよう』



 ――――!!


 もうっ!ゼウス様はこの女神に甘いのですから!


 いつかゼウス様がアルテミスに手を出すのでは無いかと思わなくもないですが、生涯処女で居たいと言う愛娘の願いを裏切るような事はしないでしょう。でなければ膝の上で抱っこなんて許しません。まだ3歳の子供とはいえあんなにベタベタして!!!



 美しい双子のアポロンとアルテミスに、皆がすっかり心を奪われている所で、ヘパイストスが集まった神々の盃に神酒を注いで回っておりました。


 びっこを引きながらヨタヨタと酒を注いで回る彼の姿に、クスクスと嘲笑が漏れだします。

 同じゼウス様の子だと言うのに、この双子とは余りにも掛け離れている息子の姿と待遇。


 ここでヘパイストスがゼウス様とわたくしの子だと告白したら、みんな態度を変えるかしら?



 いえ、ダメね。ますます比べられてしまいますわ。



『も、申し訳ありません』


『ちょっと、服が濡れてしまったじゃない!』


 ヘパイストスがバランスを崩して、注いでいる酒を零してしまったようです。服が濡れてしまったアフロディテがいらただしげに睨みつけています。


『アフロディテ、そう怒らないで下さいませ。取り敢えずわたくしの服を貸しましょう。足の悪いヘパイストスにお酌をさせるのは無理があるようね。へべ、貴女を今日から給仕係としましょう。永遠の若さを司る貴女にぴったりな仕事だわ』


 神酒(ネクタル)とアンブロシアは不老不死の霊薬。そしてへべはその給仕係りに相応しいと言えるでしょう。



 そんなこんなで宴が終わり、今わたくしはヘパイストスが居る鍛冶場に向かっているところですの。

 何故かと言えば、こう言う気分の優れない時に息子ヘパイストスが頑張っているところを見ると癒されるからですわ。こっそりと物陰から、仕事をする様を眺めるのがわたくしの楽しみです。


 そろりそろりとバレないように窓から中を覗くと、ヘパイストスの鍛冶場で働いている単眼巨人(キュクロプス)がせっせと何かを作っているようです。



 いい機会ですからここで皆様に、キュクロプスについてお話しておきましょう。キュクロプスはアルゲス、ステロペス、ブロンテスの3兄弟で、ウラノスおじい様とガイアおばあ様の子供です。


 その昔、彼らは父であるウラノス様に「1つ目の化け物など気持ち悪い!」と嫌われて、同じく「頭が50に腕が100とはなんて醜い!」と嫌われた兄弟族のヘカトンケイル族と一緒に、奈落タルタロスへ落とされたそうです。


 わたくしもヘパイストスを落としましたけど、いくら不気味だからって奈落は流石に酷いですわ。


 ゼウス様が父と王座をかけた戦い――ティタノマキアで苦戦している時に、ガイア様のアドバイスでキュクロプスとヘカトンケイルを救出し解放したのです。


 そのお礼にとヘカトンケイルはその無数にある手で父クロノス陣営に岩を投げまくり、キュクロプスはゼウス様やポセイドン、ハデスに強力な武器を作ってくれました。



 ゼウス様がいつも手にしている雷霆(ケラウノス)がその武器です。


 もともとゼウス様は天空神として雲や雨、雪などを自在に操れましたが、雷をも自在に使えるようになったのです。

 この雷の力は凄まじく、一撃で全世界を焼き尽くすほどの威力があるのですわ!


 戦いに決着がつくと、今度はクロノス陣営にいた者達はタルタロスに閉じ込められ、ヘカトンケイルがその番をしているんですの。そしてキュクロプスは優れた鍛治の腕がありますから、ヘパイストスの所で働いていると言う訳です。

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