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アデルハイトとコールドリッジ

 

 いつの間にか城内に侵入してきたコールドリッジ司祭率いる王弟と元王子がそれぞれ国王アーサーと第一王子リオネルが対峙している。そして王太子、アデルハイトの相手はと言うと勿論。



「初めまして。アデルハイト王太子殿下。お会いできて光栄です」


「エヴァン・コールドリッジ。何の目的で我が国に牙を向けた」



 不敵な笑みを浮かべるコールドリッジ司祭に対し、王族としての威厳を身に付けたアデルハイト王太子が怯むことなく問う。その姿から王太子として国を統べる責任を背負うアデルハイトの成長が見て取れた。リズやフロイドの後ろに隠れていた小さな男の子の姿はもういないのだ。



「答えろ。我が国に何の目的であの魔族達を召喚した」



 アデルハイトからゆらゆらと立ち上る魔力。『イェルサの民』と呼ばれるだけあってその魔力量は国王を軽く凌ぐ。更に王太子としての威厳を持ち合わせたアデルハイトのオーラは常人では耐えられない威圧を放つ。騎士や魔術師達は王太子の怒りに触れた事を肌で感じ、衝動的に膝をつきたくなったほどだ。


 だがしかし、恐ろしいのはそれほどの威圧を放っているというのにコールドリッジは今もなお笑みを浮かべているという事だ。



「哀れなる子羊に救いを差し伸べる為。我が神によって浄化されるべきなのですよ」


「宗教の信仰自体は我が国に規制はない。しかし、無いからこそ特定の宗教の道理を押し付ける真似は許されない。国民を今現在も危険な目に合わせているクレプス教の神になど、従う気など一切ない!!」



 更に溢れる魔力。普段の王太子からは想像できないほどの魔力量。強すぎる魔力はそれだけで相手を恐怖に陥れる。それでもなお余裕を浮かべるコールドリッジ。



「本音を語れよ、()()。何がしたいんだ?」


「「「!!?」」」



 その場で二人の会話を聞いていた者達は一瞬何のことかと思考が止まった。

 同胞? どういうことだ。殿下の同胞? 広い意味で人族の同胞という事か? いや、まさか……。



「……へぇ、気づいてたか」


「最初に気づいたのは三年前。と言っても、気づいたのは僕ではなく護衛魔術師だったけど」


「あぁ。あの女魔術師。それなら納得。あいつはオレと唯一張れるだろうからな」



 ハァと溜息を吐いた後、スゥーっと表情が無くなり王太子を見下ろすコールドリッジの雰囲気がガラリと変わった。口調もそれまでとは全く違う。取り繕う事を止めたこのしゃべり方が素なのだろう。何の感慨もなく目の前の王太子アデルハイトを見据える男の目には、光など全くなくただ物を映すだけ。



「ここにいないという事はもう動けないのか? 死んだら遺体は引き取ろう。いい魔石になる」


「ふざけるなよ、外道!! お前なんぞに、リズを渡すものかっ!」



 アデルハイトの藍の瞳が光り輝き魔力によって地響きが引き起こされた。慌てる騎士や魔術師だがそんなことに構っていられない。アデルハイトにとっての恩人であり親であり姉であり友人である魔術師リズへの暴言とも受け取れる言葉は、いとも簡単にアデルハイトの逆鱗に触れた。



「フッ、ガキが。拍子抜けだな、これなら死に損ないでもあの女魔術師の方がまだ厄介だ」


「貴様っ!! リズへの侮辱は許さない!!」



 怒りが頂点に達したアデルハイトの一撃。黒い稲妻がコールドリッジを襲う!!

 ドゴォォォン!!


 雷の爆音に驚かされたのは大広間にいた人間だけでなく、城内の人間が驚き軽くパニック状態に陥った。城中に轟いた爆音は威力も凄まじく、床だけでなくアレクシスが展開していた風の壁もいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。あまりの威力にアーサー、リオネル、ヴァージル、アレクシスも咄嗟に防御態勢を取ったがたったの一撃、たった一撃を、その余波を防ぐだけで精一杯。体は吹き飛ばされ、破壊され瓦礫となった壁や床に叩きつけられた。意識が遠のくのを気合で乗り切るが、既に満身創痍。残り魔力もあと僅かだ。



「ハァハァっ」



 初めて本気で放った攻撃。肩で息をしているのを見る限り、かなりの負担がかかった事が窺い知れる。

 衝撃で舞い上がった煙のせいでコールドリッジの姿が見えないが、無事ではないだろう。せめて行動不能になってくれていれば……。



「ふーん。この程度か」


「「「なっ!?」」」



 かすり傷どころか衣服に汚れすらないコールドリッジ。これにはアデルハイトだけでなくアーサーやリオネルも目を見開いて驚きを隠せなかった。ヴァージル、アレクシスの二人は驚き一瞬呆けてしまったがこちらの優勢を確信しニヤリと笑う。



「王太子アデルハイト。()()()()()()はオレの半分にも満たない。そんなお前が俺に敵うはずがない。さっさと降伏し、魂を寄越せ」


「……」



 高圧的な態度を見せるコールドリッジ。面倒だと言わんばかりの態度に騎士や魔術師は怒りを感じるがあの雷撃を受けて傷一つない相手に、自分達が太刀打ちできるはずがない。守るべき相手よりも遥かに弱い己に不甲斐なさと情けなさを感じ、何もできない事にただただ打ちひしがれる。


 一方、本気の攻撃が全く歯が立たない事を分析するアデルハイト。そしてその結論は簡単に出た。



「本体は外か。フンッ、大層な物言いだが実のところただの小心者か。安全な外から人形を使ってあたかも自分がここにいると見せかけているだけ。その人形も今の一撃で行動不能になるのも時間の問題。こちらに手を回している間に結界を破壊するつもりだったのかもしれないが、そちらにはゼーレ様がいらっしゃる。……お前の負けだよ」


「……」


「な、そんな……まさか!?」


「嘘だ!! ありえない!!」



 信じられないと声を上げるのはヴァージルとアレクシス。信用して手を組んだというのに実際のところここに来たのは人形で本体は結界の外だという。自分達には何も知らされていなかったというのに。

 茫然とする二人だがすぐに立ち直り改めてアーサー、リオネルに対峙する。



「どうであれ、きっかけは作って貰えた。ここで引くつもりはない」


「同感です! 必ずここで、どちらが正しいのか、どちらが王族に相応しいのか、ハッキリさせてやる!」



 互いに戦闘不能状態にまで追いやられているが、一歩も引かない王弟と元王子。そんな二人を冷ややかな目で睨み付けるのは国王と第一王子。アデルハイトは外にいるであろうコールリッジの行方を同じく外に出て避難誘導や結界強化に徹している三人娘に念話で捜索するよう指示。聖獣ゼーレは三人が現れてすぐにアデルハイトに場を任せ、王都上空に飛び立っている。

 身内同士の争いをしている場合ではないが、この二人が魔族召喚に大きく関わっている事もあり放置する訳にもいかない。迅速に捕縛するか、この場で処刑とするかは任せるとしてアデルハイトは陣頭指揮を執る為騎士を率いて街に出る。



「街には私が。そちらはお任せいたします」


「あぁ。すぐに終わらせる」


「こちらも。すぐに後を追うよ」



 王太子、国王、第一王子の三人は目配せをして一つ頷いた後それぞれの敵に視線を戻す。そこには兄弟の情など一切なく、反逆者を処分する王族の眼だけ。情に流されない、非情といえる冷たい目。


 睨み合い、どちらが先に動くかを慎重に見極める。

 魔力は先ほどアデルハイトの雷撃を防いだだけで空に近い。それはどちらにも言える事だ。


 何とも言えない緊張感。息がつまりそうになりながらも、王族同士の本気のぶつかり合いを間近で見守り邪魔をしない事が最大の援護になると信じ、必死に虚勢を張る騎士と魔術師達。自分達は足手まといでしかない事は先ほどの一撃でよく解かった。国王と第一王子の防御結界が無ければ、自分達は今頃炭となっている。恐ろしいまでの威力の前に、自分達が如何に無力なのかを思い知ったのだ。


 恐ろしい、されどなんと頼りになる事か。『黒持ち』と知った時は悍ましいと、汚らわしいとしか思わなかった。だが、それを承知で王太子は進んで矢面に立った。逃げも隠れもせず、泣き言も、厳しい言葉にも耳を塞ぐことなく真っ直ぐに受けた。決して感情的になることなく、王族として気高い姿でいつも真っ直ぐに立っていた。



「フローラ、アクア、ステラ! ゼーレ様の指示の元、結界の強化に回れ! 騎士団、魔術師団は国民の避難誘導と保護を! 警官隊! この機乗じて盗みに走る愚か者共がないよう自警団と連携して見回りを! 救護班! 貴族だからと言って擦り傷程度で平民を押しのける馬鹿など放っておけ!! 怪我の具合から優先度を決めろ! 残りの者は私と共にコールリッジの捜索に当たれ!!」


「「「はっ!!」」」



 初めは王太子の言葉に誰も耳を貸さなかった。王族であるにも関わらず誰も敬意を払う事などなかった。とても王太子殿下に対する対応ではなかったというのに、アデルハイトはめげずに話しかけ、やっかみられながらも自分を知ってもらおうと努力を重ね続けた。


 そうして三年。ようやくアデルハイトは認められつつあった。一人真っ直ぐ前を向き諦めないその姿を見てきた騎士、魔術師達はそれまでの己の行いを恥じ入った。一体何を見てきたのか、何を信じてきたのかと自問自答する。まだ小さかった背中が、今は広く大きくなりとても頼もしい。



「コールリッジ、お前を許すことはないぞ……っ。国も、リズも、お前の好きにさせるものか……!」



 怒りを隠す気のないアデルハイトは上空の魔族を睨みながら呟く。彼の怒りの矛先はコールドリッジで間違いないが、現在の所在は不明。やり場のない怒りを結界をこじ開けようとする魔族に向ける事で静めようとするが、この怒りが治まる気配は未だない。


 されども魔力を放射状に放ちコールドリッジの居場所を探るアデルハイト。本当はリズに対してのあの発言をした後殺すつもりだった。そのつもりでの一撃だったが叶わなかった事が口惜しい。次は必ず仕留める。そう決意を新たに今は捜索の傍ら魔族の撃退を試みる。



「ゼーレ様!」


『アデルか』



 上空を飛ぶゼーレに念話で呼びかけるとゼーレは固い口調ではあるものの応えてくれた。結界を張っているのはゼーレとそれを補助する形で魔術師達が全身全霊をかけて補助にあたっている。本物の魔族と対峙した恐怖は未だに体の芯を冷やし、震えが止まらない。目が合っただけで発狂してしまう次元の違う恐怖に、逃げ出したいという気持ちが消える筈がない。


 だが王太子が、聖獣ゼーレが前線に立ち魔族と正面からぶつかろうとしているというのに自分達が逃げられるか?

 魔族と罵って来た王太子が、本物の魔族を前に逃げ出さず、命乞いもせず、国民を守るために最も危険な場所に立っているのだ。


 そんな王太子を前に、自分達だけ逃げ出すなど出来るはずがない。



「騎士、魔術師の皆、ご苦労。ゼーレ様の結界のおかげで現在は奴らの侵攻は防げている。気を抜けない状況である事に変わりはないが、引き続き力を貸してほしい!」



 声を張り上げ労うアデルハイトに騎士や魔術師達は気持ちを一層引き締めた。王太子の身でありながら最前線に護衛も少数で出るなど、中々出来る事ではない。それが良いか悪いかは別として現場に立つ人間からすれば安全な場所で命令を下す人間よりも信頼できるものはない。



(この方の為に、この国の為に、自分が出来る事をやり遂げよう……!)



 上空の魔族を睨み付ける王太子の背中を黙って見守る騎士や魔術師達は国の命運がかかったこの事態に、本当の意味で忠義を誓ったのだった。


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