表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/112

これが素なのだよ!!

 

『皆様。どうかご覧ください。彼らは我が国の王太子に対し魔族と罵り、更には交渉すら受け付けない態度を取り悪辣な魔術をもってして王太子アデルハイトの抹殺を企てた! こちらは丸腰の、それも12歳の少年がまずは交渉すべく立ち向かったというのに」



 舞台俳優も真っ青な名演技っぷりに最早呆れるしかない。

 ヒュウヒュウと吹き抜ける風を感じながら始まったリオネル劇場を眼下に、私は協力を仰いだ南方、東方各国代表に現在行われているクレプス教聖騎士団とシリル王国とのやり取りを包み隠さず映像として流している。


 各国代表の反応はというと、魔術に関心を持ちながらもクレプス教聖騎士団の一方的な侵攻に対し不快感を露わにしている。民族的に彼らの髪色は黒や濃い茶色の人間が多く、代表の中には黒髪の人間がほとんどだ。そんな自分達を髪色で魔族と判断するクレプス教聖騎士団やその考えを持つ国に対しての不快感と不信感を抱かずにはいられない。


 しかしながらシリル王国も黒髪=魔族という考えを持つ国である。

 外遊の際ネックだったのはそこだった。魔石や魔術道具の貿易は魅力的であったとしても、あまり強固な縁は繋ぎたくないというのが本音であったのだ。その本音も汲み取り、友好国としての繋がりはこれから先の王国を見てから決めてほしいと迫ったリオネル殿下に、国の代表者達は面白そうにする者やより不審に思う者が疑う様にリオネルの一挙手一投足に注視する。


 エルグストン大将と聖騎士団副団長マティアス・ジュイノーが対峙する少し前から密かに映像を流した。風・水・光の魔術を駆使して遥か遠方の国にもタイムラグなく映像が流れているのだが、今現在魔術で映像を送っているのは私である。魔術ではなく誰でも世界と繫がれる道具を作ることが出来れば、私がいなくなっても各国との連携も取りやすいだろう。でないと普通の魔術師がこれをやろうとしたら最低3人の魔術師を使っても映像をやり取りできるのは10分程度だろう。


 精霊と契約していればその力を借りて魔力消費も少なくて済むだろうけどね。ただ、光の精霊と契約出来る人間は希少であるから難しいかもしれない。リオネル殿下のリヒトが今回力を貸してくれたから私の魔力消費も少なくて済んだ。(アクアは水の精霊だけど今回はアデルハイト殿下の護衛に集中してもらっている)


 魔術に関して南方、東方は遅れている。

 この技術がどれほどのものか正確にはわからなかったとしても、これまでになかった技術であることは判断できただろう。



『協力をお願いしたいのです。ですが我が国を信用できない事も十分に理解しているつもりです。それでもいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()。ご協力いただけたのなら、技術提供も約束しましょう』



 文字通り、いつでも見ている。というか、監視できる。

 対処法もあるけど現在の各国の技術では難しいだろう。それに、今後は魔術師が行うのではなく魔道具が行うのだ。技術はその内世界に広がる。


 国の安全保障にも関わる事もあり、友好国として今後名乗りを上げてくれるというのであれば優先的に技術提供を行うという攻め方をしたリオネル殿下。その技術提供を行うのが私というのは訊いてないが、おかげで外遊で周った国の大半から協力を得ることが出来た。



「だからと言ってしばらく単身赴任ですか。……はぁ」



 黒髪の私は各国から受け入れやすいだろうというものだが、勝手に決めるとはこれ如何に。


 ここで文句を言っても仕方ない。おっと、回想している間に動きがあったようだ。





「魔族に肩入れする気か……! やはり、王国はすでに堕ちているようだなっ!」


『無礼だな。発言の許可など与えていない筈だが』



 眉間に深い皺を寄せ、憎々し気に睨むジュイノーを見下ろすようにするリオネル殿下。

 うん。ジュイノーは殿下の嫌いなタイプだ。放っておいてほしい時も空気を読まず土足で踏み込んで無理やり連れだして楽しいを強要するタイプの人間。はっきり言えば殿下が叩き潰したくなる相手だろう。



『君達の目的は我が国の王太子、アデルハイトを抹殺する事か』


「語るまでもない! 魔族はこの世界の秩序を乱す悪しき存在! それを抹殺することは人間世界の安寧と平穏を守る事と同義である!! 世界の為、大人しく魔族を差し出していただきたい!!」



 王族であろうと屈することなく真っ直ぐに殿下を見つめるジュイノー。一本気があるのは結構だが余計に殿下の神経を逆撫ですることになど彼は気づいていないんだろうなぁ。

 悲しげな表情を浮かべる殿下だけど内心青筋立ててるわ、これ。徹底的に叩き潰す気満々だわ。



『魔族というが、アデルハイトは間違いなく我が国の王と王妃との間に生まれたれっきとした人間であり我が国の王族で王太子だ。何を根拠に魔族と断定する』



 苛立ちを一切見せずに淡々と尋問するリオネル殿下。ジュイノーの口からあの言葉を引き出したいのだろう。その言葉を口にした後、嬉々として地獄に突き落とそうとするのだ。殿下はそういう人だ。



「決まっている! 黒髪こそ魔族の証! 王太子のその黒髪が何よりの……!?」



 にぃやぁ~っ


 さっきまでの悲し気で儚げな表情はどこへやら。



(魔族より邪悪っ)



 そんな笑みを浮かべてジュイノー以下クレプス聖騎士団とクラシオン共和国軍を見下す。

 軍勢も上空に映っていたリオネル殿下の先ほどまでの表情とこの魔族よりも邪悪な笑みを見て戦慄した。



『お聞きくださいましたか、皆様!! このクレプス教というのは、黒髪である事を理由になんの落ち度も過失もない国を悪と見做し侵略する事を公然とやってのける宗教だと!! たかだか! 髪色だけで判断をする! そんな幼稚な宗教だと!!』


「「「!!!?」」」



 上空に映し出されたのは南方、東方の各国代表。

 それまでは顔の下半分までしか映していなかったのだが映像を引き、顔全体が映るようになった。そこに映ったのは黒髪の代表達。褐色の肌に黒髪というのは南方地方に多い民族の特徴だ。ジュイノーも、今の発言がどれほど拙い物なのか瞬時に理解しただろう。


 黒髪は魔族である。

 そう公言してきたクレプス教と南方、東方はまさに天敵。地理的に距離が離れていた事からこれまで戦に発展した事はなかったが、常から魔族国家と蔑むクレプス教を南方、東方は苦々しく思っていた。実害もなく地理的にも遠い国。だからこそ、見逃してきたのだ。



『しかと聞いたよ。シリル王国第一王子リオネル殿』


『あぁ。同じく。この耳で確かに』


『聞きました。黒髪こそが魔族の証やと』


『無論、私も聞いたぞ』



 各国代表方が冷たい目でジュイノーを見下す。その眼には明らかに敵意と殺気が込められている。



「なっ……これは!?」



 まさかリオネル殿下だけだと思っていたジュイノーは明らかに動転した。殿下の映像が流れた時から同じように映していたんだけど、顔を出していなかったから王都の重役達くらいにしか思っていなかったのかもしれない。


 ジュイノーからすれば事実だが国家として今は南方、東方を敵に回す事はしない方が得策。属国や同盟国からの支援を受けたとしても、南方、東方は広く平定するまでには金も時間も掛かり過ぎる。


 大陸全体、全世界を見た時にクレプス教はそれほど大きいものではないのだ。


 いずれ世界全体にクレプス教を布教させようと考えているのだろうけど、何事にも順序はある。今はまだその時ではないのだ。



「ぐっ……! 卑怯なっ」


『卑怯なのはそちらだろう? 我が国に事前通告なしで侵攻してきたのはどこのどいつだ。こちらが兵を用意していなければそのまま国境を越えてきたのは明白。そんな相手に卑怯だのなんだの言われる筋合いはない』


「「「……っ」」」



 敵だけでなく自国からも息を飲むのが聞こえた。

 それもそのはずで今のリオネル殿下の表情はまるでゴミ虫を見る目つきだ。普段の猫を被った柔和な心優しい王子はどこにもなく、一切の慈悲もない冷酷な人間の目。


 ……これを機に、兵士の皆さんには殿下の素を心に刻んでいただきたい。これまでの殿下が作り物だったのだと!



「クレプス教聖騎士団副団長、マティアス・ジュイノー。私を抹殺するのは私が黒髪であるからか。私が黒髪であるから魔族であるというのか。教会の教えは知らないが、黒髪であるなら他国であろうと進軍し対象を抹殺。その後は国の浄化と称してやりたい放題するのが貴様の信仰する神の教えなのか。髪が黒いのは私だけではなく南方、東方ではごく一般的な髪色だ。貴殿らはその国々をも魔族国家として討伐を行うのか。……敵に回す覚悟は出来ているのか」


「「「……っ!!」」」



 突如放たれた威圧。

 まだ12歳の少年とは思えないほどの圧に、歴戦の騎士達ですら硬直している。

 聖獣二柱からの祝福を受けた殿下。それに見合うだけの魔力と胆力を持ち合わせている。天性の才能。王となるべくして生まれた男。


 悔しそうに顔を歪めるジュイノー。

 副騎士団長の立場でしかない彼は教皇の命に従うだけだ。そんな彼が下手に応えれば国と教会を公式に南方、東方を敵と見做す事になる。心情としては各国の代表も魔族であるが今はまだ肯定する訳にもいかないのだ。



「……っふざけやがって! さすがは魔族だ、人の心に付けこむのが上手い」


『あ゛ぁん!? 誰が魔族だコラ、やんのか脳筋クソ野郎!!』


「「「!!??」」」



 素だよ。これが素なのだよ皆さん!!

 エルグストン大将もビックリして固まっちゃってる。兵士の皆さんも「えっ、今殿下の声で聞こえたけど……」「まさか! 殿下があんなヤンキーみたいな口調な訳ないだろ!?」「だよな!? 俺の聞き間違いだよな!?」 とかめっちゃ動揺してるよ。


 ブリジット中将は「あぁ、やっぱり……」ってちょっと残念な物を見るような表情だ。何となくわかってたのかな?


 殿下もやべって顔してるけどもう遅いよ。ちゃんとみんな聞いたからね。幻聴なんかじゃないよ!



『あー、おほんっ! で? 我が国の王太子を抹殺する為にやって来た崇高な考えをお持ちの頭の足りない愚かな三下使いっ走り脳筋騎士君! 引くなら後は追わないが、向かってくるならこちらも応戦するしかないんだけど……どうする?』



 おぉーい!! 猫がまだ何匹か脱走中ですよ!!

 各国の代表方も引いてるじゃん。あれ絶対「え? リオネルってあんなに優しげだったのに中身ヤンキー?」って思ってる事間違いなしだよ。中には「あれ……騙された?」って顔してる人いっぱいだからね? 騙されたけど、その後の協力に関しては誠実だから今はまだ信じて下さいませ。



「黙れっ!! 薄汚い魔族に洗脳された哀れな王子よ。これではっきりした。貴様のようにすでに洗脳され魔族の言いなりになるしかない人間が、国を治める事など出来るはずがない! これ以上の犠牲を出さない為にも、我らの手で王国の民を救い出そう!!」



 ジュイノーは教会の教えを取った。信者として、間違いではないのだろう。



『……ふーん。そう……』



 然程驚きもしないリオネル殿下。はぁ~っと大きくため息を吐き手で合図を送る。

 受け取ったのは私だよ! 



『君の考えはわかった。南方、東方諸国の代表方も、よろしいですね?』


『無論だ。我が国はクレプス教及びクラシオン共和国との一切の関係を断つ』


『我が国も同様に』


『こちらも。まぁ民間レベルでさえ交流などありませんでしたがね』


『うちも。全面的にシリル王国につきますわ』


『異論なし!!』



 これで今まで黒に限りなく近いグレーが完全に黒になった。

 公式に南方、東方諸国はクラシオン共和国を敵国と認定。クレプス教を排除することが決定した。

 ただ、性格の悪いリオネル殿下。まだこれだけではないのだ。



『お聞きになった通り、南方東方諸国はそちらと一切の関係を断つと宣言された。勿論我が国もだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。我が国に刃を向けた事、どう責任を取るおつもりか説明願おう』


「「「!!???」」」



 今日一番の驚き、いただきましたー!!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ