表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/112

レッスン1

 

 元執事ブライアンを拘束、引き渡してから約一か月後。

 私は今、お茶会に出席しております!!


 いやー、まさか私もお茶会とやらを目にすることが出来るとは思いもしなかった……。ここまで来るのにもう、それはそれは厳しいレッスンが……っう、目から汗が。


 おほほ、うふふと笑顔の仮面の下、一体どんな顔が隠されているのやら……。お茶会は女の戦場と聞くけど、本当に怖いところでござる。

 ……え? 何故お茶会か? それを語るにはしばらく前に遡る。



 *****



 私の行い、発言によっては私自身だけでなくミンスター卿の実家であるグリーンフィールド家にも泥を塗る事になる。そもそも『黒持ち』と婚姻した事は大々的に発表されているわけだ。ミンスター卿は何も言わないけれど、大なり小なり嫌がらせや誹謗中傷はあったはず。……申し訳ないことこの上ない。


 私は平民でそれも最下層の出身。学院を出て読み書き計算は出来ても平民の一般教養や作法も怪しく、貴族の作法なんてさっぱりだ。歩き方、しゃべり方一つで他家に付け入られる隙を作ることは貴族としてはあってはならない。だけど現状、私には全く何も身に付けていない。


 なのであのブライアンを引き渡した夜にオールバンス閣下に烏滸がましくもお願いしたのだ。



『貴族の教養を身に付ける為、作法を教えてほしい』と。



 これから先、殿下だけでなく私も国内外に知られることになる。ゼーレ様からは『黒持ち』に対する偏見の解消が求められている為、隠れることは出来ない。なら外に出しても恥ずかしくない様に作法を身に付けるのは急務でもあった。そのことに気づいた私は遅かったが……。

 閣下は内密に私の教育係を探していたそうだ。タイミングが重なり、翌日からミンスター卿が教鞭をとる間に私も作法の勉強時間となった。


 教育してくれたのはバーセル侯爵夫人。……ミンスター卿の御母堂だ。



「……あなたがリズね。話はオールバンス様からきいております」


「……何卒、よろしくお願いいたします」



 閣下よ……。まさかここで書類上の姑となる方にお会いすることになるとは思いませんでした……。せめて、せめて心の準備がしたかった……!



「背を丸めない。もっと胸を張りなさい。それと、視線はまっすぐ! 下を見ない!」


「!!」



 いきなり始まった! それに目つきが鋭い!!



「あなたはもう、我がバーセル侯爵家の人間です。あなたの一挙手一投足に侯爵家の名誉が掛かっていると思いなさい!」



 力強い目つき。吊り上がった目じりはきつそうな印象を与えるけれど、その目には私に対する嫌悪自体は少ないように思える。大事な跡取り息子が『黒持ち』なんぞと婚姻したことで嫌悪されると思っていたけど……。まぁ、その代わり品定め的な目では見られているが。


 それからその日はひたすら立ち姿とカーテシーの練習をした。あれって優雅にやってるようでめっちゃ筋肉使うんだね……。日頃の運動不足がたたってか、足がもうプルプル震えてる。初めて履いたハイヒールもつま先やらなにやらで痛い痛い。世の女性はこんな履きにくいもの履いてるの!? と思わず心の中で叫んだわ。

 それにしても侯爵夫人の立ち姿はさすが教師をして迎えられるほど見事なものだった。良し悪しのわからない私でも『わぁ~きれ~』て思ったくらいだ。礼をとった体勢でずっといても体の芯がブレない。よくできるなこんな体勢。


 そもそも私はやせ型体型で筋肉なんてほとんどついてない。体力もないのでつい身体強化をしてしまう。魔術の制限がある場でうっかり使ってしまった場合反逆の恐れありと解釈されかねないので、使わずとも体勢を保てるくらいの筋力と体力をつけるようにと課題を出された。

 体力……、走り込みとか? でもあんまり外出歩くのは良くないし。髪色変えてならいいかな……。


 授業も終わり、礼を言っていると勢いよく扉が開いた。



「リズ!! 無事か!? 母上! リズに無体な事はしていないでしょうね!!?」


「……フロイド。扉はもっと静かに空けなさい。それと私は教師としてここにいます。妙な言いがかりはおやめなさい!」


「ですが! リズは今日初めての授業です。なのに休憩も行わずっ! 嫁いびりですかっ!?」


「なっ!? そんな訳ありません! れっきとしたマナーレッスンです!!」


(わぁ……生親子喧嘩だぁ。初めて見た~)



 一人のんきな事だが、ここに割って入っていいものなのだろうか? 

 ミンスター卿が心配してくれているのは良いけど、このままでは先生(御母堂)の立場が悪くなる。……えぇい! どうにでもなれ!



「あの、レッスンを受けていただけですよ。時間が長くなってしまったのは私の不甲斐なさによるもの。御心配には及びません」


「だが、今日は初日だ。なのにいきなり……」


「あまり悠長に考えていたら時間が足りません。それほど私の出来が悪いということです。先生のご指導はとても的確でわかり易くどこにも悪意は感じませんでした」


「……本当か?」


「はい。勿論」



 心配そうな顔をするミンスター卿。本当に私の出来が悪いだけです。私が今までやってきたのは平伏。なのでカーテシーという淑女の礼なんてものは未知の領域。筋力も体力もないので体勢を維持できずすぐに崩れる。根気よく指導して下さった先生には感謝しかない。



「……言いがかりをつけて申し訳ありませんでした。ですが、今後はしっかり休憩をとってください。その方が結果的に効率がいいはずです」


「……いいでしょう。でしたら明日からはそのように」


「先生、本日はご指導いただきましてありがとございました」



 早速習ったカーテシーで礼をとる。一応形にはなったはず。



「……まだまだです。きちんと復習なさい」


「母上!!」


「それではまた明日。ご機嫌よう」



 スッと流れるようなカーテシーを披露された。う~ん……。あのレベルには一体いつになったら到達するのやら。


 それから本当に無理をしていないか、いじわるをされていないか、休憩はしっかりとれだとか何かあったら呼ぶようにとか色々言われたが、それより筋力と体力の付け方について考えていたので適度に相槌を返して食事をとった。最近はゼーレ様が殿下のお世話を買って出てくれるので護衛魔術師の仕事はほとんど開店休業中のようなもの。おかげでこうしてレッスンを受ける事が出来るんだけど。

 そうなると殿下との時間が減るわけで。



「リズ!! 今日はどうしたの!? なんでいなかったの! ちゃんと僕と一緒にいなきゃダメでしょ!」



 護衛に与えられている食堂に殿下が突撃してきた。プリプリ怒る姿もまた可愛らしい。



「フロイドとご飯? ねぇ、ずるい! 僕もリズと一緒にご飯食べる!!」


「殿下。護衛と共に食事をするなどいけません。ご理解ください」


「やだ! リズと食べる!! 今日は全然一緒にいられなかったもん! フロイドとばっかりずるい!!」


『これ、アデル。あまり二人を困らせるでない』


「うぅ……、でもぉ……」



 みるみるうちに殿下のくりくりお目目が潤みだす。

 ああああっそんな、何で泣くの? 泣くほどの事なの?



「殿下。何もリズは今日一日さぼっていたわけではありません。むしろ、殿下や私の為に別室で礼儀作法を身に付けていたのです」


「……僕と、フロイドのため?」


「はい。殿下のお披露目の際、リズも公の場に立つこととなります。そんなリズが教養も何もないと知れれば殿下のお立場に影が落ちます。その為、リズは今頑張ってくれているのですよ」


「……そうなの?」


「……お恥ずかしながら。私は市井の出で一般の礼儀作法もままなりません。貴族ともなれば尚更です。これからの事を考えれば、必須事項です」



 もう、足も腰もフラフラだけどね! いやー淑女はつらいよ。

 納得していただけたようだけど、それでも何かモヤモヤしてるって顔ですね。むむむぅ~っと眉間に皺を刻んだ殿下に少しばかり甘やかそう。



「殿下がお眠りになるまでの時間、お傍におりますのでお許しくださいませんか?」


「!! ホント!? いっしょにいてくれるの!?」


「リズ!?」


「ふふっはい。ただし、夜更かしはいけませんよ?」


「うん! ちゃんと寝るから、リズも一緒に寝よ!」


「お待ちください殿下!! リズは殿下が眠るまで傍にいると言ったんです。一緒に寝るとは言ってません!!」


「いいじゃん! ベッド、リズもいっしょに寝れるよ!」


「いけません!! リズと寝れるのは私だけです!」


「ちょっ! ミンスター卿!?」



 最近殿下とミンスター卿がよくケンカをする。原因は主に私だけど。言い合いが出来る程殿下はミンスター卿を信用しているという事なんだろうけど。ケンカの内容が子供っぽい。

 まだまだ言い合いが収まりそうにないので先に湯浴みに向かおう。汗かいたしさっぱりしたいし、筋肉をほぐしたい。明日は確実に筋肉痛だなぁ……。


 さっぱり湯上りで殿下の寝所に向かう。二人のケンカは終息したのだろうか。殿下もミンスター卿も見えない。もう私室に戻られたのかな? と思いながら殿下の寝所へ。



「……へ?」



 ノックをして入室の許可を得てから中に入ると目に入った光景は。



「フロイドったら酷いんだよ! 僕はリズと一緒に寝るっていってんのに『なら私も今夜は殿下の寝所で休みます!』って言ってきかないんだ! ゼーレ様のいう事も聞かないんだよ!?」


「殿下、何度も言いますがリズは私の妻です。妻がまだ幼くとも他の男と一緒に寝るなどありえません!! 第一、殿下が寝たら私たちはすぐに戻りますから。一緒に寝るとはリズも言ってません! 何度言ったらわかるんですか!」


『……フロイドよ。まだアデルは幼かろう。何も起こるまいて。そう心配せずとも……』


「起こってたまるか!! ですよ! 第一! 私だってまだリズと一緒に寝たことなどないのに……!」


『お主の本音はそれか!! というか、まだ共寝も経験ないと!? 本当に夫婦か?」


「夫婦です!! 紛れもなく、れっきとした! 夫婦! です!!」



 ああああ……。



「……喧嘩なさるなら私は自室で休みます。おやすみなさい」



 パタンっ



「「「……」」」



 こうしてレッスン一日目は過ぎていった。自室に戻り姿見の前で復習を兼ねてカーテシーを行う。

 課題は体力と筋力。

 平民に人気の小説で礼をしたものの顔を上げて良いと言われなかったのでお茶会の間ずっと礼をとらされ続けるっていうシーンがあった。それが架空の話であろうと、私からすればあり得る話だ。しっかりせねば。


 ひたすら練習を重ねるが明日もレッスンがある為、ほどほどに休む。もうすでに筋肉痛である。体も疲れたのか、あっさり眠りに落ちた。




(フロイドのせいだ!! リズ帰ったじゃん!!)

(仕方ないです。これが正しいのです)

(アデル、いい加減に諦めよ。リズに呆れられるぞ?)

(!! ……やだ)

(なら、今日は大人しく寝よ。また明日、きちっとリズに謝罪してまた甘えるがよかろう)

(……ぅん)

(いえ、甘えるのはちょっと……)

(~~~っフロイドのバーカ!!)

(このリズ馬鹿め! 折角良い感じで終わろうとしておったのに!!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ