表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/112

夜明け

 

 聖獣ゼーレ。

 王国始祖、シリルが契約した上位精霊である。シリルはゼーレと共に人々をまとめ上げ魔族からの侵略を防ぎ、安寧の地を手に入れた。元は不毛な大地が広がるだけの枯れた土地にゼーレは様々な精霊を呼び寄せ、定住してもらうことで緑豊かな大地へと生まれ変わらせたのだ。人々はこれを奇跡と呼び、それ以降精霊とシリル王国民は密接な関係を築いていく。


 シリルの死後もゼーレはこの地に留まり続け国の守護を務めた。

 だが、その為にはゼーレが認めた自らに相応しく、上位精霊と契約出来うる人間が必要だった。その条件を満たすのは最初に契約したシリルの血を引く者で魔力量が多く、清廉な魂を持つ者。条件を満たした者がゼーレの主となり王国に大地の恵みをもたらし災厄から民を守る力を手に入れる。


 つまり、守護聖獣ゼーレの主に選ばれることは次代の王であることを意味した。


 時代が進むにつれてゼーレが十分に活動できる量の魔力を持つ人間は少なくなり、徐々にその姿を見る事も出来なくなっていった。それは文明の発展の代償に精霊への信仰心が薄らいだことにも関係する。人々の記憶から徐々に消えていくゼーレ。それでもシリルとの盟約を果たすため、シリルの愛する国を細々とした繋がりを頼りに守護し続けた。


 だが、ある時代になるとゼーレは眠りにつく。存在そのものがなくなってしまうほどの危機がゼーレを襲ったのだ。辛うじて消滅だけは避けたものの以降、五百年間全く外界と接触することもなく眠り続けた。


 五百年後、目覚めたゼーレを認識できるものは誰もいなかった。眠りにつく前は司祭や神官といった人間や信仰心の高い者には姿が見えていた。見えずとも声を聴くことのできる人間は割といたのだ。しかし、眠りから覚めたゼーレの姿を認識出来る者は誰もおらず、声すら届かなかった。


 シリルの子孫によって既にゼーレは神話の中の存在となっており、形だけ王国守護聖獣として祀られていた。ゼーレにとって幸いだったのは形だけでも王即位の際に聖獣との契約の儀式が残っていたこと。血を捧げ、シリルとの血縁を証明することで即位が正当なものであると証明するために行われる儀式と後に解釈されるようになったが、本来は精霊との契約を意味する。力は弱くとも血によっての強制的な契約であるがこれで繋がりができ、存在を維持することが出来たのだ。


 そうして数百年。

 長き時間を孤独に過ごしたゼーレは再びその姿を現した。


 それは次代の王が、守護聖獣ゼーレが選んだ真の王が誕生する事を意味する。




 *****




『うむ! まぁ、これで一先ずは良しとするぞ。アデルハイトよ! 起きたら我と遊ぶのだ!』



 眠りにつく殿下の頭を優しい手つきで撫でるのは人化した聖獣ゼーレ様。人懐っこいニカッ! とした笑顔からは想像できないほど苛烈な重圧をかけてくる上位精霊様だ。陛下達に威圧を掛けた時私隣にいたのよ。めっちゃヤバかったね、アレは。出来ればもう二度と体験したくないわー……


 思わず遠い目をしてしまった。でもこれくらい許してほしい。切実に。


 ちらっと視線を向ければ腰が抜けたまま立ち上がれない一行が。陛下、オールバンス閣下、ミンスター卿の三名は呼吸は落ち着きを取り戻したようだが、それでもやはり顔色は悪いままだ。


 聖獣様の方はと言えば、もう先ほどの威圧のことなど忘れたような飄々ぶりで部屋の中を見て回っている。美形の青年姿であるが、まるで子供のような好奇心を持ち合わせる方のようだ。



『さぁ! リズよ。昼間の魔術について我と語ろうではないか!』



 ああ! そうだ、忘れてた。

 いや、それが目的でここまで来たんだっけ? 殿下への加護で綺麗さっぱり忘れてた!



「……私の下手な説明でよろしければ。ただ、先に殿下をベッドに寝かせていただいても?」


『勿論だ! アデルが起きたらきっと驚くぞ! それまでは我の話し相手となれ!』


「御意。光栄の至りにございます」



 口ではこういうけどホントは遠慮したいよー。陛下とオールバンス閣下の顔が怖いよー! ミンスター卿の眼がヤバすぎるよー!! そんなに睨まないで下さいよー--!!


 うわぁ、これめんどくさいヤツやん……

 けど私に非はある? え、ないよね? 私悪くないよね? むしろ陛下達頑張ってよ!!


 心で訴えても陛下には届かなかった……、無念。



 殿下をベッドに運び、ミンスター卿の様子を見る。うん、今日はもう無理そうだね。

 護衛なんてできる状態じゃない。今襲われでもしたらミンスター卿諸共殺される(やられる)のは目に見える。

 陛下、オールバンス閣下も同様だ。王宮の自室に戻ることも、何もなかったという風に装うことも難しいことだろう。なら、



「恐れながら申し上げます。陛下、オールバンス閣下。これからお戻りになられてもその状態では〝北の塔〟で何かあったのかと邪推する者が出るのは必至。あらぬ疑いをかけられれば殿下のお立場がより一層お悪くなるかと思われます。ですので、よろしければこのままここに滞在されてはいかがでしょうか? もし、どうしてもダメだと仰るのなら、僭越ながら私が人目を避け王宮内へと転移させることも可能ですが。如何いたしましょう?」



 転移? 出来るよ? けど、出来たらそれはここの警備上問題あるじゃん? だから今までしなかっただけだよ? やんちゃな王族を幽閉するための塔から簡単に転移しちゃったら閉じ込める意味ないもんね。


 敢えて言わなかったけど、三人の様子を見るに私が言いたいことは伝わったようだ。

 おずおずと、「……今夜はここに滞在する」と陛下からのお言葉いただきました!



 その後は震える足に気合を入れて立ち上がってもらったけど、まだまだヨロヨロで生まれたての小鹿のごとく腰が引けていた三人を失礼ながら魔術で軽く浮遊させて使われていない部屋に陛下とオールバンス閣下を放り込んで、ミンスター卿は護衛に与えられた部屋に入れておいた。

 騒ぎ立てる気力もないのか、三人はとても静かだった。本当は放り込むなんて無礼極まりない行為だし、陛下とオールバンス閣下を同じ部屋なんてありえないだろうけどね! 許してくださいね!


 三人を部屋に送り届けている間は、殿下を聖獣様に預けた。聖獣様の護衛なら下手な護衛よりも優秀だ。正直に言えば私いらんくない?



『おお、戻ったかリズ! アデルは健やかに休んでおる。さぁ! 我と語らおうぞ!!』



 殿下の寝所に戻れば人化を解いて本来の姿である獅子の状態で殿下の傍らに寝そべっていた。

 ……こういっちゃなんだが、でっかい猫だ。めっちゃモフモフされておられる。



『ふふふん! どうした? 我の毛並みに恐れをなしたか? 無理もないがな!! わっはっはっはっは!!』



 獣姿で豪快に笑う聖獣様。うわぁ……! めっちゃ触りたい……!!



 そうして夜が更けていく。

 聖獣様は普段陛下の執務室でお休みになられているそうで、今日の昼もいつものようにまどろんでいたらしい。そしたらだ、かすかに魔力の波動を感じたと思ったら驚くことに本人にも気づかれないうちに乗っ取られているではないか!

 弱っているとはいえ、上位精霊である自分が乗っ取られた! 誰だ! と、なったそうだ。


 そして犯人を見つけてやる!! と意気込んだものの、手掛かりが見つからない。魔力を追跡しようにも気づいた時点でその痕跡は消えている。成す術なしかと、思って陛下の元に戻ってきたら居たのだ。乗っ取りの犯人が。


 私ですね。


 こいつか! と思って近づけば、何ということでしょう。数百年誰にも認識されなかったのに、バッチリ目が合うじゃありませんか! と感激。しかも見えるだけでなく会話も成立する!

 昼間のムカつきもどこかへやら。何といっても数百年振りの話し相手! これを逃すわけにはいかぬ! と、昼間の術の解説を終えてからも色々おしゃべりして今ここ!! って感じ。


 要は寂しかったんですね。いるのにいない者と扱われ、体もすり抜けられるから頭を踏まれることも多々あったらしい。供給される魔力量が極少であったことから一日のほとんどを陛下の傍に侍ることで存在を維持してきたらしい。

 王国の守護神としての働きも、ここ数百年は真面にできなかったそうだ。そもそも、魔力供給量が少ないので一日でも王の傍を離れれば希薄になりつつある存在を維持できなくなり、消滅するそうだ。

 それを避けるべく何とか持ちこたえていたのが今日。



『という訳だ。アデルは見たところここ最近の王の中では飛びぬけて魔力が多い。これなら我も、心配することなく自由に動けるというものよ!』


「はぁ、そうでございましたか」


『だが、それには体力も必要だ。今のアデルにはちと厳しいだろう。徐々に慣らしていく方が良い。そこでだ!』



 聖獣様ずっとしゃべり続けてるよ。よっぽど誰かと話したかったのだろうか?

 大きな猫、もとい獅子の姿の聖獣様はニッコリ笑う。



『アデルが成熟し、我に魔力を供給し続ける事が出来るまではリズ! 其方がアデルに代わり魔力を供給してくれ!』


「……、は?」



 はい? わたしが? 聖獣様に? 魔力を?



「ご冗談が過ぎます。私ではそのような大役、とても務めることなど出来るはずがございません」



 聖獣様への魔力供給。それを務めるとなればとんでもない栄誉なのは間違いない。だが、頼む相手を間違えている。



「聖獣様。私は『黒持ち』です。本来であるなら、こうして聖獣様は勿論王族である殿下のお傍にいることも叶わぬ身。下賤な身分である私のような者が、聖獣様に魔力を供給など出来ようはずございません」



 そんな心臓に悪いこと言わないでよぉぉぉ!!! 何かあったらどうすんのさ!! 責任なんか取れないからね!!? って、既に魔力吸われてたんだった!?

 心の中は大嵐よ!なんか最近乱されてばっかり……しょぼん。



『む、何をいう? 我を認識し剰え会話も可能なのは実質そなたのみであるぞ? 他の者たちが我を認識できたのは我が其方からの魔力を吸収し、顕現したからにすぎん。今の状態の我を認識できるのは其方のみ。なら、我に供給することが出来る資格を十分に有しているだろう』


「魔力に関しては、そうかもしれません。ですが、」


『其方のいう『黒持ち』? とはなんのことだ? 其方は〝イェルサの民〟であろう?』


「〝イェルサの民〟?」



『黒持ち』は『黒持ち』じゃい!なんかどっかの民族であっても長年の差別と偏見なんかそう簡単には変わるかよっ

 とは言うものの、〝イェルサの民〟とは何ざんしょ? 聞いたこともございません。



『……そうか、我は長き時を眠っていたのだな』



 そう言って答えてくれない聖獣様。見るからに落ち込んでいらっしゃる。キノコでも生えてきそうだ。


 で、〝イェルサの民〟とは?



『まぁ、今は良かろう。それよりも我に協力せよ。でなければ我もそう遠くない未来には輪廻の輪に戻ることになろう。アデルの今後を心配するなら、我に取り入ることは得策だぞ?』



 ……殿下の今後を考えれば、確かに聖獣の存在は大きい。伝統や仕来りとやらを重んずるのであればアデルハイト殿下は今最も王位に近い人物となった。それでも『黒持ち』という事は大きな壁ではあるが。


 実際のところ、聖獣様が主に選んだのがアデルハイト殿下。いくら周りが咎めようと、反発したところで聖獣様の意思は変わらない。人如きが聖獣様の意思を変えることなど出来るはずもない。そもそも、魔力供給ができるのが現在の王族の中ではアデルハイト殿下のみなのだ。いくら訴えてもそこが変わらなければ殿下が主であることは覆らないだろう。


 なら、どうするのか。


 仕来り、伝承、歴史の継承。そんなもの丸っと殴り捨ててこれまでの通り、国王陛下の指名とするか。

 それとも、聖獣様の顕現を国の大事として主に選ばれた『黒持ち』のアデルハイト殿下を次代の国王とするのか。




 ……正直どっちでもいいわな!

 そもそもこんな国の大事な事、私なんかが勝手に心配したところで何にもなんないしぃ~?

 何か言おうものならどうせ〝『黒持ち』如きが口を挟むな!!〟 とか言われんだろうしぃ~?


 お偉いさん方が頭悩ませて考えればいいことだな! よし!



「……明日、陛下に訴えてみて下さい。陛下からの命が無ければ、私が聖獣様に魔力供給を勝手に行うことは出来かねます」



『あぁ!! そうしよう! まぁ、大丈夫だろう。その時はリズよ。我の名を呼ぶことを許すぞ!』


「……許可が出ればのお話でございます」


『わっはっはっはっ!! うむ! まぁ、断られてもどうにか『うん』と言わせてみせるさ!』



 脅迫するんかぃ!!




 長い一日だった。

 〝教えてくれた人〟の捜索から始まり、オールバンス閣下と対峙、陛下への状況報告、聖獣様の顕現。〝北の塔〟への移動、アデルハイト殿下と聖獣様の契約、魔力供給の話。


 色んな事が一度に起こり過ぎて頭パーンっ! ってなりそう……

 だけど、これから大きく状況は変わるのは間違いない。悪い方にも、良い方にもどっちにも転がる崖っぷちではあるけど。


 だけど、私が思う殿下にとって重要な事については良い方に転がりそうだ。もし悪い方に行ったって、軌道修正してやる!


 そうだ、殿下は()()()()()()んだから。


 ふと窓を見れば薄っすらと明るくなってきていた。




 長い夜が明けようとしていた……


お読みくださりありがとうございました。

ブックマーク登録、いいね、評価ありがとうございます! 励みになっております。

次回もよろしくお願いします! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ