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武闘大会 後日談2

 ラディウスの告白に狼狽えていると、話を傍で聞いていたルシアが、2人の繋がれた手を勢いよく引き離し間に割って入ってきた。


「待て待て待て‼ いきなり人ん家に押しかけて来たかと思えば、今度は何寝ぼけたこと言いだしてんだよ‼」

 

 ルシアの割り込んできた勢いにリーシャは目を丸くした。

 驚きはしたけれど、ラディウスの言動に困っていたため、助かったという安堵感もあった。

 ラディウスはいきなり視界に入ってきたルシアの姿に驚いていた。というよりも、ルシアが近くにいたことに驚いたようだ。

 ルシアの顔を見ながら首をかしげていた。


「君、いつからそこにいたの?」

「はあぁぁ⁉ 始めっからいただろ‼ そこに‼」

「あ、もしかしてリーシャちゃんのお兄さん?」


 ラディウスのルシアへの興味の無さが浮き彫りになった瞬間だった。

 そのラディウスの態度と、おそらく“兄”という言葉が気に入らなかったのだろう。ルシアは声を張り上げた。


「違う‼ 俺はなあ! 俺は、俺はぁ……」


 ルシアはラディウスの認識に青筋を立てている。ここまで怒りの感情を見せるルシアは初めてだった。

 けれども、リーシャはそんな事よりもルシアが余計なことを口走りそうな状態に焦っていた。


 いったいなんて言うつもり⁉ 番だとか言い始める前に黙らせないと!


 1人慌てていると、ルシアがリーシャの方を向いた。


「……今の俺らの関係ってなんだ?」


 どうやらリーシャの考えはただの懸念に終わったようだ。

 変なことをラディウスに言われなかったのはよかったと、リーシャは苦笑いを浮かべた。


 さすが残念なイケメン……


 このままルシアに説明を任せると何を言われるかわからないため、リーシャは代わりに自分の認識で答えることにした。


「血は繋がってない。でも、関係的には兄だと思ってくれていいよ」

「いや、ちょっと待て! 俺はリーシャの兄になったつもりはないぞ‼」


 どうしてもラディウスにリーシャの兄と認識されたくないルシアは、騒いでいた。

 そんなルシアを挑発するようにラディウスは尋ねた。


「それじゃあ、君はいったいリーシャちゃんの何? 君はどう思っているの?」

「俺たちは。俺は、リーシャと生涯を共にする――」


 リーシャは話をややこしくされないように、ルシアの口を勢いよく手で押さえて黙らせた。


「ちょっと黙って!」

「ふぇほ」

「いいから黙って!」

「……ふぁはっふぁ」


 わかったと言ったのだろう。

 眉間にしわを寄せてはいるけれど、ルシアは手を放しても言われた通りに口を閉じていた。

 ルシアが大人しくなると、リーシャはラディウスと話を続けた。

 

「あの、私あなたに守られるほど弱い女の子じゃないと思うよ?」

「知ってる。俺よりも強いよね。本気を出してた俺の腕を切り落とすくらいには」


 ラディウスは負けたことなど一切気にしていないように、見惚れてしまうような笑顔で言った。

 けれど、ラディウスが口にし出した事はリーシャがこの1週間気にし続けていた事。リーシャは眉間に皺を寄せた。


「だったら!」

「物理的な事だけじゃないんだよ。俺はね、君がどうしても乗り越えられない事があったとき、君の心が折れないように守ってあげたいんだ。今みたいな状態のときとかさ」


 リーシャはぞわっとし、身震いした。

 ただ自分が言われ慣れないようなセリフだからこんな寒気がするのだろうか。“ヤバい人”だと感じさせる何かが理由のような気もした。


「えっと……あの、ごめん。ちょっとそれは……ほとんど話したことない人に言われると……鳥肌が立った。そこまで言われるとさすがに怖い」


 リーシャはいたたまれなくなって、正直に言ってしまった。顔もあからさまな顔になっていたに違いない。


「ははっ。ちょっと元気が出てきたみたいだね」


 リーシャは呆気にとられた。

 ラディウスはリーシャの言葉や態度を全く気にしていないようだった。それどころか声を出して笑っている。


 あっ! もしかしてラディウスは元気づけるためにあんなくさいセリフを言っただけ? そうだよね。私なんかにそんなこという人なんて。というかそうであってくれないと困る。


 リーシャはその答えを知りたくて問いかけた。


「今の冗談、だよね?」

「いや、冗談ではないよ」


 残念ながらあれがラディウスの本心だったらしい。

 リーシャは渋い顔をした。

 リーシャのそんな表情を目の当たりにしているにもかかわらず、ラディウスは取り巻きの女性たちが卒倒しそうなさわやかスマイルを向けた。


「リーシャちゃん、変な顔になってる。ただ俺は、自分は何もしないけど守ってほしいって感じの女性が好きじゃないってだけだよ。よく俺の周りに群がってるような女性たちがいい例さ。かといって邪険にしたらそれはそれで後が面倒だから相手はしてあげてるけど。俺は、俺の隣に立って、本当に俺の手が必要になったときに助けを求めてくる、くらいの女性がいいんだ」


 発言内容は取り巻きの彼女たちが聞いたら、別の意味で卒倒しそうなものだった。


 そっか、ラディウスの理想が私みたいな相手なのか。意外だな。とは言え私の理想も……


 リーシャは最低でも自分と同じくらい強い男性、ラディウスみたいな強い男性が理想だと思っていたはずだった。

 けれど、この人ではない。

 そんな気がした。

 発言内容はどうであれ、こんなことを言われたのが初めてだったリーシャは、ラディウスにどう返事をすべきなのか真剣に考えた。


「お前、よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるな」


 自身の日頃の言動を棚に上げたルシアが言った。

 ルシアは本気でラディウスを嫌ってしまったのか、敵意丸出しで睨みつけていた。リーシャは無視していたけれど、ずっと威嚇し続けている。おそらくラディウスも気が付いていただろう。


「ちょっと、ルシア! いい加減その態度やめてよ!」

「だってさ……」


 ルシアは反論しようとしたけれど、口論でリーシャに勝てるわけはない。

 そのまま、リーシャによるルシアへのお説教タイムが始まった。

 蚊帳の外になっていたラディウスは、そんな2人を楽しそうに眺め、ぼそりと呟いた。


「いいな、楽しそうで。俺、ここに越してこようかな」


 お説教されながらも、ルシアはその言葉を聞き逃しはしていなかった。


「もしそれを本気で言ってんなら……ぶっ殺すからな!」

「あっ、もう! ルシア!」


 ルシアは珍しく、ものすごい殺気を放っていた。これまでにルシアから感じたことのないほどだ。

 人の姿はしているけれど、竜の血が流れている。自分の縄張りであるこの家に、身内ではないラディウスを入れたくはない。そう思っているのだろう。

 そんなルシアの必死の殺気など気にもしていないようにラディウスは笑っている。


「はははっ。冗談だよ、冗談」

「絶対冗談じゃなかっただろーが!」

「あれ、バレちゃった?」

「コノヤロー……」

 

 ルシアの拳は怒りで震えていた。心なしか殺気も増したような気がする。

 ただ、本気で襲う気は無いようなので、リーシャは態度を改めさせるのを諦め、放っておく事にした。

 ラディウスの方もルシアが手を出してこないことをわかっているのか、もしくは格下だと思い高をくくっているのか、笑いながら火に油を注ぎ続けている。

 2人のやりとりにあきれ果てた顔をしていると、リーシャへ視線を向けたラディウスの頬が緩んだ。


「うん。もっと元気出たみたいだね。よかった」

「え?」

「さっきから表情がコロコロ変わってるし、今はちょっと楽しそうだ」


 リーシャはラディウスにそう言われるまで気づいていなかった。

 ずっとモヤモヤして何もする気が起きなかったのに、今ではその暗い気持ちが晴れてしまっていた。

 ラディウスを見ると、彼の笑みは先ほどまでのさわやかスマイルではない、どちらかというと安心したと思っているような微笑みを浮かべていた。

 ラディウスは再び口を開いた。


「話は少し戻るけど、大会の選手も試合を見に来てた観客たちも、稀にああいうことがあるって理解したうえであの場に行ってるはずだよ。それにあの魔法が暴走してただなんて、みんな気づいてないと思う。俺もさっきまで知らなかったわけだしさ。だからあの戦いを見てた人たちは、強すぎる相手に加減を間違えた、ってくらいにしか思ってないよ、きっと」

「なんでここまで言ってくれるの……?」

「ただ、君の心が折れないように手助けしてあげたい。それだけだよ。そう言ってるでしょ?」


 励まそうと多くの言葉をかけてくるラディウスに、リーシャの胸が熱くなってきた。

 変な人ではあるけれど、ヤバい人という認識は考え直す必要があるかもしれない。


 ただなぁ……自分のことを“強すぎる相手”って。思ってても口に出して言う人はちょっと……


 ラディウスの自己評価の高さに、リーシャは恋愛対象としてはなしかなとぼんやりと思ったのだった。





 その後、リーシャとラディウスはしばらくの間、椅子に座って会話を楽しんでいた。

 ルシアはその間、苛だった様子でラディウスを睨んでいたけれど、これと言って問題を起そうとはしていなかったので放置した。

 ラディウスは、大会でシアリーとノアが戦った手練れの2人は自分のパーティメンバーだとか、妹がいてその子は魔道具技師を目指しているだとかいろいろなことを話題に挙げた。これまで戦った魔物の話も興味深いものだった。

 中でも、リーシャにとって一番楽しかったのは魔法について話をした時だ。

 少し魔法の話題が上がった時、リーシャが自分の考える合成魔法について語ったところラディウスが興味を示したのだ。それからは一方的ともいえるほどひたすらに話をしてしまった。

 そんな感じだったため、あっという間に時間は過ぎていった。

 ラディウスが窓の外をちらりと見た。

 まだ日は上っているけれど、少し陰りが出てきた明るさだ。


「ああ、そろそろお暇した方がいいかな。ここからクレドニアムまでそれなりに時間かかるし」

「あっ、そうだね。結構話し込んじゃったね。ラディウスの話、面白いからあっという間だった」

「それならよかった。ここまで来たかいがあったよ」


 ラディウスは椅子から立ち上がると、ずっと座りっぱなしで固まってしまった体をほぐすように体を動かした。

 その動きを見ながら、リーシャは1つの失態に気づいた。


「あ、ごめんなさい。お茶出してなかった。ちょっと待ってて。すぐに入れてくる!」


 慌ててキッチンに向かおうとしたところ、ラディウスに行く手を遮られてしまった。


「いいよ、気をつかわなくて。ただ俺が、君と話をしたくて押し掛けただけなんだから。それにクレドニアムで待ってる仲間もいるしさ」

「けど……」


 ここからストレゼウムに帰るにはかなりの距離がある。それじゃなくても魔物と戦った後の疲れた体なのだ。

 途中どこかの街に寄って休息を挟むとは思うけれど、出発前に一息ついてもらった方がいいに決まっている。

 けれどラディウスはやんわりと断るように、首を横に振った。


「気持ちだけ貰って行くよ。それじゃ、お邪魔しました」

「うん……」


 気をつかわせないように素早く立ち去ろうとしているようだ。


「あっ、そうだ」


 部屋の出入り口を潜ろうとしたところで何かを思い出したらしく、足を止めた。そして再びリーシャの方へ顔を向けた。


「どうしたの?」

「ギルドの人、というかシルバーからの伝言があったの忘れてたよ。“2日後に武闘大会の優勝祝いの祭りを王都全体でするから来い!”だって。リーシャちゃんが主役みたいなところあるらしいから、ちゃんとお祭りには行ってあげなよ。それだけ」

「わかった……」


 ラディウスはリーシャにシルバーからの言葉を伝えると、家の出入り口へと向かって行った。

 お茶も出さなかったうえに、見送りまでしないのはさすがに失礼だと思ったリーシャはラディウスを呼び止めた。


「あ、待って。そこまで送る」

「いいよ。一応病み上がりなんだし、ここまでで。それじゃあ、今度こそ。バイバイ」

「えっ、あっ、うん。またね」


 手を振ってきたので、リーシャも咄嗟に振り返した。

 見送りにはルシアが行ってくれたようだけれど、耳を澄まして様子をうかがっていると、ルシアが何か牽制しているような言葉を言っているのが聞こえてきた。

 けれどラディウスは全く相手にしていないようだ。

 リーシャはその後、自室からラディウスがクレドニアムへと向かって行く姿を窓から眺めた。彼の後姿が見えなくなるとドスッと音を立ててベッドへ座り、考えた。


「ほんとに私が思ってるより、みんな気にしてないのかな……」


 リーシャはラディウスと話をして、もしかしたら本当に自分の思い込みが強いだけなのではないかと思えるようになっていた。

 ラディウスが変な人だとはいえ、腕を切り落とされた張本人が何事もなかったような態度だったのだ。


 お祭りに行ったら、このモヤモヤする気持ちに何か変化があるかな。


 リーシャは一歩踏み出す決心を彼に貰っていた。

 武闘大会編終わりです‼ ありがとうございました‼

 反応いただいたり、読んでもらえていることが嬉しくて長い話書き上げることができました‼ 終わりみたいな言い方してますがまだまだ続きますよ(笑)

 次回から短めの話を数話挟んで、また長めのお話に入りたいと思います。

 でわ、また次のお話で。

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