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魔法世界のセデイター 4.フィリスのセデイト研修  作者: 七瀬 ノイド
第五章 覗き許すまじ
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5-1 次のノルマ

 フィリスの研修ノルマのうち、まず一名、「天才」魔法技術者をセデイトし終えたリンディは、休息と回復のため、二日間休みとなる。この点は、助手としてのフィリスではなく、健康管理責任者としての彼女からきっちり言い渡され、マスターがそれに従う形となった。

 本人もそんなにあくせくする気はないらしく、フィリスが抵抗を受けることはなかったが、むしろ、その助手自身のほうが、例のCランク対象者、言うなれば「イケメン加速痴漢」の早期確保に気がはやっていたため、本人にとって必要な冷却期間にするという面も少なからずあった。イケメンであり、かつ痴漢であるというのが、イケメンに弱い彼女にはどうにも許せない。まるで、自分が最有力の被害者予備軍のように感じられる……。

 今はマスターに合わせているその助手の休みが、たまたま週末に重なったため、休日のナユカは、その点を部屋でとくと聞かされた。イケメンと痴漢は別に関係がないと気のない反応をしたところ、フィリスから、それなら「マッチョ」で痴漢、すなわち「筋肉痴漢」ならどうなんだと迫られたが、それも反応に困る。スポーツウーマンとして確かに筋肉は好きだが、それと痴漢はどう考えたって関連性がない。痴漢がマッチョだからといって、自分がされたいとは思わない。そう答えると、してきた相手がマッチョだったらという話だと返された。趣旨がわからないので聞き返すと、フィリスは、痴漢をしてきた相手がイケメンでマッチョで紳士だったら、自分の心が折れてしまうかもしれない……とのこと。……なんだかもう、ナユカにはよくわからない。そもそも、痴漢行為に走った時点でもはや紳士ではないと思う……。さすがに面倒になってきたので、とにかく痴漢は許せないからそのセデイト対象者を捕まえて欲しいと、研修中の助手に伝えて、この不毛なやりとりを終わらせた。


 さて、週明けの出勤日に魔法省へ向かうという、いつもと同じような生活パターンになったフィリスだが、今日はいつもと違う点があり、朝からではなく、リンディに合わせて午後から出勤することになっている。本人は朝からでも構わないものの、マスターの要請ゆえに助手としては従う必要がある。セデイトは夕方以降になりがちなので、それに備えて休息は取れるときに取るという趣旨らしく、それも研修の一環だとセデイターから諭された。確かにそれはそうかもしれない……単にリンディが朝に弱いというだけではなく……たぶん。

 とはいっても、朝寝坊ではないフィリスは、いつものように起き、部屋で手持ち無沙汰にしていただけで、取り立てて休息するということにもならず。結果、暇を持て余して、昼休み前に魔法省へ出向き、九課に顔を出してから食堂でナユカと昼食を取った後、セデイターを待つ。

 すると、ほどなく、リンディが九課にやってきた。ほぼ約束の時間どおり。彼女は朝に弱くても、時間にルーズなわけではない。きっちり守れるように、約束の時間を設定しているのだから。


「それじゃ、あっち使っていいよ」

 軽い雑談後、サンドラは課内にある例の小部屋を指す。

「あ、そうなの?」

 リンディにとっては、もう完全に密談部屋だ。この課長に改称を進言したいほどに。

「やりやすいでしょ。感謝しなさいよ」

 少し間が空き、遠慮するセデイター。

「……別にあたしは、ここでいいんだけど」

 今回、特に密談の必要があるわけではない。指名を受けたセデイトのための打ち合わせである。ただ、九課課長にも事情がある。

「フィリスの研修中は、こっちからアドバイスしないことになってるからさ」

「しなきゃいいじゃん」

 食い気味に抗弁してきた。……そりゃそうだけど、その辺でやられると、口を挟みたくなるっての。サンドラはめんどくさくなる。

「……いいでしょ、使っていいっつってんだから」

 なぜ、抵抗するか、こいつは。……上司の雰囲気を察し、横からフィリスが取り成す。

「あの、マスター。ここは……やっぱり中でしませんか? プロジェクターもありますし」

「……だーって、感謝しろとか言うからー」

 駄々っ子に、サンドラはため息。

「……はいはい、感謝しないでいいですよー」

「そんじゃ、使う。どーも」

 逆に謝辞を述べたリンディを見て、最近覚えたセレンディー語の単語をナユカがつぶやく。

「『反抗期』ですね」

 フィリスは苦笑い。

「それじゃ、中、入りましょう……マスター」

「がんばってね、フィリス。リンディは……」課長は、ひねくれ者を斜に見る。「ま、どうでもいいや」

「あたしはがんばらなくても有能だから」

 そんなセデイターは無視して、サンドラは助手に視線を向ける。

「フィリス、リンディをお願い」

「……え?」戸惑いつつも、うなずくフィリス。「ああ、はい」

「逆でしょうが」

 一言言い返して、マスターは小部屋へ向かった。その後を助手が追う前に、課長が呼び止める。

「マスターのお守りも、助手の仕事だから」

 フィリスはまた苦笑して、会釈する。

「では」




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