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恋姫天衝 ~対極の御遣い~  作者: 雀護
第一部 西涼~
10/44

日々は流れ





++矢の雨と、渇望の渦++






 馬騰さんとの鍛錬の後、一息を入れる間もなく馬超達に囲まれる。

 まだ馬騰さんには底を見せてもらえてはいない立会いだったとはいえ、本格的な鍛錬をしていないこの子達には少々鮮烈過ぎたのかもしれない。

 「兄様、すごい!!母様とたたかえるおとこのひとなんていないとおもったのに」

 「龍兄さん、どうしたらそんなにつよくなれるんですか?」

 「龍にぃ蒼も~にぃみたいにかっこよくなりたい」

 などなど。

 まいったと頭を掻く。

 簡単な槍の使い方だけで満足してくれればいいが馬騰さんの言い方からするとこの事も任されたと言う事だろうか。

 丁寧な物腰だと言うのに昨日今日と体験した感じからして意外と放任主義なところがあるようだ。

 それとも本当に信頼と言うものをされてしまっているのか。

 本当にまいったと思いもしたが約束は約束、せめて護衛術程度を教える事にした。

 ふと自身が武術と言うものを始めた時に師匠は俺に対して同じような思いをしていたのかもしれないなと自嘲気味みに笑う。

 「しょうがない、朝飯までは体を起こす程度にしておこう」

 三人の元気な返事が返ってくると簡単な動きから始める。



 俺を正面にして三人が並ぶと軽く体の筋を痛めないようにと準備運動。

 その後に槍を持たせずに間隔をとってまずは俺の動きの真似をするようにと言う。

 「龍兄さん、やりはつかわないんですか?」

 「ん?あぁ、まずは基本からが大切だからな。突きの型だけは約束をしたからご飯を食べてからやりたいなら教えるけど、基本が出来てないと難しいものもあるから」

 俺達の立会いをみて頭は起きてしまっただろうが体は起きていないだろうと槍は使わないようにした。

 「じゃまずは『起勢』の型だ」

 そう言って手本のように『起勢』、『金剛搗碓こんごうとうたい』、『頼扎衣らんざつい』と昨日自身で行った鍛錬の動きだけを教える。

 この動き自体は覚えてしまえば簡単なものだ。

 2回3回と繰り返すと馬超達は動きを覚え始めたのか。「ほかには」と次の型を待ちきれずに声にした。

 「動きは覚えられたみたいだな。じゃあもう一度・・・」

 「兄様っ、ほかのもおしえてよ」

 「くくくっ、甘いな馬超。まだ動きだけ・・・・教えただけだぞ。本気でやるからよく見てるといい」

 そういって本気で簡単な説明をいれながら『起勢』を行う。

 「まずは自身の呼吸と力の流れを整える。自分の内側に流れる血の流れでもいいそれを感じ取りながら自分で制御できるようにするんだ」

 次いでと『金剛搗碓』、これを見れば同じことを言う事はない。

 「全身で空気を混ぜるように体を動かしながら自分の力をへその少し下辺りに集める。そこから・・・体全身にその力を一気に広げる」

 そう説明しながら緩やかに動き右手と右膝を振り上げて・・・・集めた力で一気に踏みしめる。

 ズンッ!!と大きな音を立てて地面を振るわせる。

 踏み込まれた地面は昨日よりも大きくひびが入り陥没する。

 「「「っ?!!」」」

 馬超達はその光景を見てかなりびっくりした様子だった。

 これは狙っていたので必然。

 同じ動きで全く違う結果なのだから驚きもする。

 しかし、それこそを最初にそれを教える必要がある、型だけを知っても意味はない。

 今後鍛錬をする時でもその意味を知らずやるのと知って行うのでは効果が格段に違ってくる。

 「まぁこれでも半人前だが、力の流れを意識するとしないではまったく別もだと分かったか?この力を自在に扱える力を勁力けいりょくと言う。これから教えるものも勁力を鍛えるためのものだと思ってくれ」

 まだ驚きが抜けておらずこくこくっと三人は揃って頭を振るだけだった。

 改めてと手を叩き三人の意識を戻し鍛錬を再開する。

 「とりあえずは教えた三つを朝飯までに意味も含めて覚えようか」




 その後、馬超達が汗をかき地面に座り込むまで続けてしまった。



 ・・・・・・


 ・・・・・・



 「自身を自在に扱う力ですか。勁力とは面白い考えの武術ですね」

 「まぁ理屈めいた事で説明するのであればそうなります。しかし自身だけではなく他者をも自在に扱う力と言うのが正確かもしれません」

 しばらくの鍛錬の後朝食を取りながら馬騰さんに説明をした。

 「他者も、ですか」

 不思議そうに聞き返してくる馬騰さんに自身の分かる犯意での説明をする。

 それは自身で意識しながら行う鍛錬の中でもしている事。

 「力と言うのは自身以外にも存在しますから、それを利用することで小さな力に相手の力を乗せることが出来れば自身より強い敵を倒すことが出来る、と思いませんか」

 「確かにそうですね、自身の渾身の一撃がそのまま返ってきたとしたらそれに相手の力も加わっているとしたら防ぐことは容易なことではないでしょうね」

 「ただ俺の知る武術とはそれ以上の力をも利用するのだと教えられたことがあります」

 説明する中で過去に教えられた事をそのまま教える。

 「それ以上とは・・・?」

 「俺の師匠は自然の力も利用できるようになって一人前と言っていました」

 「自然の力とは、風や火、水などですか」

 「五行と呼ばれる木、火、土、金、水、の力もありますがそれよりももっと大きいそうです」

 「それよりも、大きい力?ですか・・・」

 ここから先は俺も理解しているわけではない。

 教えの中でよく言われる常套句のようなものだと考えていた。

 「師匠は世界や宇宙を表現するのだといっていましたが、俺ではそこまで感じることは出来ません」

 「世界は漠然とですが理解できますが・・・宇宙とは」

 「空にある太陽や月、夜の空に広がる星の先々と言えば良いでしょうか。その力と一体となるのが最終目標だと言われます。俺も漠然としすぎていて目先の力だけしか理解できません。もしかしたらもっと先まで師匠は見えていたのかもしれませんが・・・・・・」

 馬騰さんと会話する中で一つの可能性が生まれた。

 師匠の教えの中にあった、それを師匠は俺に教えたかったのだろうかと言葉を呟く。

「その先・・・ですか。想像もできませんが一体なんなのでしょうか」

 「そうですね・・・活力や死力と言葉にすることがありますから。もしかしたら生や死も勁力として利用しているのかもしれません」

 「途方もないほどに奥深いものなのですよね」

 「ははははっ、奥が深すぎて一生がどれだけあっても辿り着けないでしょうね」

 しかし、例えこの可能性が解消したところでその先に何があると言うわけではない。

 それにあくまで可能性、答えがでない・・・可能性だ。

 「しかし活力というのは気の使い方に似ているかもしれません」

 「気に、ですか?」

 「えぇ、気の力とはすなわち生命と同義です。生きるもの全てに存在する力ですから貴方が気を使えるようになれば師匠様と同じものが見えるかもしれませんよ」

 「師匠と同じもの・・・」


  何故、今になって師匠のいた道筋が見えると言うのだろうか・・・

  

 本当にどんな因果があるんだ俺は・・・    

 生きる意味さえ見失っていた今、何故・・・



 何故と疑問ばかりが先に立つ。

 それでも、と思う気持ちもある。

 せめて、と思う気持ちもある。

 諦めていた生の中に理由があるのかと。


  ”生きて”


 そう願われて生きる、ならば


  ”過ごせなかった日々を笑顔で教えてあげなくてはいけないのです”


 そうあるべきなのだろうかと。

 その中に師匠が見ていた風景を見ることも理由になるのだろうか。

 そうすれば君のもとにいった時に笑顔を向けることができるだろうか。


  どうすればいいんだ、俺は・・・




  

 ・・・




 ・・・

 



 ・・・



 

 ・・・






  ”やってみたらいいんじゃないかな?むしろやるべき!”





 はっと顔を上げ辺りを見渡す。

 どれだけ見てもそこは馬騰さんの屋敷。

 そこにいるのは馬騰さんと馬超達と俺だけ。

 急に塞ぎ込んだと思ったら突然辺りを見渡した俺とそれを見て心配そうに声をかけてくれる馬騰さん。

 朝の鍛錬で腹が減ったのか一心不乱に飯を食べている馬超達。

 もう思い出すこともできなかった君の声。

 聴こえるはずはないというのに今すぐそばにいるかのように鮮明に聴こえてきた。

 幻聴だとは思えずに見渡した後にも気配を探っていた。

 「なにか師匠様の見ていたものに何か思い当たるものがあったのでしょうか」

「いえ、それは・・・」

 そういえばその会話の途中だった。

 答えなど見えていない。

 だが・・・。


  そうだな


 自然と口角が上がる。

 君だったらそう言うかもしれない。

 

  無鉄砲に直感ばかりで先に進んでいくんだろ、君は・・・


 そういった行動に俺がどれだけ振り回された事か。

 だから今回も君がそう言うなら例え幻聴だったとしても君が俺にそう言うなら俺が答えられるのは唯一つ。

 

  しょうがないな


 一度眼を深く瞑り、大きな溜め息を一つ。

 「やってみるか・・・と思います」

 「やってみるとは気の鍛錬をですか?」

 とつい意識が戻りすぎて馬騰さんに対していたの忘れて口調が崩れてしまった。

 だが、俯いていた気持ちが嘘のように晴れた気がする。

 生きる理由が出来た、そんな気がする。

 「えぇ、それもありますが」

 君がそんな風に言う時はもっと先を望むんだろ、満足できないと頬を膨らませて俺に八つ当たりするんだろ。

 死んだ後まで怒らせては堪らないと君の代わりに馬騰さんに答える。

 俺に幻聴が聴こえたなら今くらいは俺の声も届くと願って。

 「もっと面白いことを、です」

 そう答えると不思議そうな顔をされたが俺の顔を見ると馬騰さんは嬉しそうに微笑んでくれた。

 

  あぁ、君がそう言うなら・・・


  聞いてくれるなら・・・

  

  見ていてくれるならやってやるさ!!




 ・・・・・・


 ・・・・・・



 朝食を終えた後は再び馬騰さんに馬超達を任された。

 というよりも思いのほか長い事会話していたためほとんど食べていなかった俺を食べ終えるまで三人が横で待っていた。

 そして馬騰さんが退室する前に昨日の市場での出来事を話し、昼食は任せてもらえるように頼んだ。

 最初は「客人なのですから」と言われたが「しょうがないですね」と何とか了承を取り付けることが出来た。

 市場の親父が言うように”細けぇことは気にしてたら何も返せやしねぇ”という事か。

 時にはそうした押しの強さも必要なのだろう。

 


 中庭に出て鍛錬を再開する。

 「これからの鍛錬は辛いものもある。辞めたくなったらいつでも辞めて構わない」その一言から始め。

 「だが教えるからにはきっちり教える。力を手にする者には大切なことも沢山ある」と続けた後に「半端にしては俺が馬騰さんと師匠に怒られてしまうしな」と宣言して馬超達の答えを待つ。

 「やる!兄様や母様みたいにつよくなるんだ」「龍兄さんわたしも」「蒼も~」と元気な返事と共に眼を輝かせて返してくる三人。

 意気込みは十分なのだが・・・。

 「わかった。だけど鍛錬をやめても教えたことは無駄にはならないからな」ともう一度注意程度に言っておく。

 約束どおりに武具店で馬超に教えた突きを二人に教えた後、幾つかの型を見せ動きを覚えた後は朝と同じ動作の理由を説明してそれを昼食まで繰り返し続けさせた。



 昼食のため少し早めに中庭を後にして支度を終えて戻って見ればへとへとになっている三人を見て少し焦った。

 随分と集中して型をやっていたのだなと感心すると共に俺がいなくても鍛錬をサボらなかったことに歓心した。

 手拭で三人の顔を拭いてから手を拭いてくるように告げたところで馬騰さんが様子を見に来たので丁度いいと外で昼食にした。

 食べやすいようにとおにぎりに鶏肉をそぼろにした具や葉の柔らかい野菜の刻んだものに味付けしたものを具にした。

 他にも魚のつくね入りの椀物や温泉卵の天つゆづけ、生姜焼きにした豚肉やきゅうりや山菜を下ごしらえし細めに切りし葉物野菜で包んだどれもレンゲや片手でたべれられるを用意した。

 みんなどれも美味しそうな顔で食べてくれた。

 馬騰さんも一口食べると驚いた顔で俺を見たのは忘れない。

 いかがですか、と笑顔で聞くと微笑んで返してくれた。

 この調子ならと夕食も任せてもらった。

 ほのぼのとそんな光景を見ていたら多めに用意したはずの昼食は馬超達に俺の分まで食べられていた。

 思わず、あっ、と声に出してしまったが美味そうに食べる三人に言うわけにはいかず昼食を片付ける時にこっそりとおにぎりを作って食べた。



 昼食後また馬騰さんは仕事に戻っていってしまった。

 馬超達は午後は鍛錬なしで自由と言ったが少々不満な顔をされた。

 初日とはいえきつめに教えていたのだが自由より鍛錬をしたがったそれを見て少し嬉しかった。

 だが鍛錬漬けにするにはまだ気持ちはあっても体がついていかないだろうとなんとか説得した。 ここに来てから随分自身の持つ既成概念が崩されることが多い気がする。

 教える側が教わる側に頼み込んで鍛錬をしないって一体どういう師弟関係なのだろうかと少々項垂れたが。

 それでもきっちり休むべきは休む、遊ぶ時は遊ぶ、学ぶ時は学ぶ、そう体で覚えてもらうのも教える側の責任だと無理やりに自身も説得する。



 「ん~じゃあ、兄様。とおのりにいこう」

 「とおのり?」

 とおのりって何だと頭の中で変換してみるが良く分からない。

 いこう、と言うからどこかの店か場所の名前だろうかと思っていると馬休が声を上げる。

 「翠ねぇさん、母様といっしょじゃないとだめっていわれてます」

 「そうなのか?それなら他にしないと馬騰さんに怒られてしまうな」

 「ううぅ、ルオはこまかいなぁ」

 「翠ねぇさんがかんがえないからです」

 なんだか喧嘩でも始めてしまいそうなので仲裁を入れる。

 「馬超、とりあえず”とおのり”にいくのは危なくないのか?」

 「そんなにとおくにいかないからだいじょうぶ」

 ふむっと顎に手を当てて考えて馬休にも尋ねる。

 「馬休は”とおのり”に行きたくないのか?」

 「わたしは、えっと、その、龍兄さんといきたいですけど母様が・・・」

 「蒼も~いきたいぃ」

 表決を取る前に意思は決まっているようだった。

 「とりあえず馬騰さんに許可を貰おうか、それで駄目なら他の事にしよう」



 「了承いたしました。夕食には戻ってきてくださいね。お昼のように美味しいものを楽しみにしていますので」

 笑顔と共に即座に了承された。

 俺の後ろで喜ぶ三人。

 だが一言物申させていただこう。

 「馬騰さん、もう少し自分の娘達を心配したらどうでしょうか」

 だが居候の身、強くは言えない。

 今ここで上半身裸になって長い黒のスパッツを履く勇気もない。

 「龍さんが一緒でしたら多少賊がいるようなところでも何とかしてしまう気がするのですよ」

 「な、何故そのような確信のないことを」

 「貴方は私の信頼を裏切る事はしないのですから、信頼できるだけ遠慮なく信頼したほうが良いと言うものではないでしょうか」

 「ぐはっ」

 突き刺さる。

 俺自身の言葉が突き刺さる。

 あまりに重いその一撃?・・・一言で膝が折れて血が口から吹き出るような感覚が襲い掛かってくる。

 「あっ、勿論その好意を利用すると言うことではなくあくまで私が思う信頼ということですから。私は貴方に全幅の信頼を置いていると言うことです」

 「・・・・・・」

 フォローだろうか、本気で言っているのだろうか。

 どちらにせよ今更ながらこの人を信頼すると言ったがかなりの曲者に信頼を委ねてしまった気がするし醜態を晒してしまった。

 前言撤回とか・・・もう無理です、色々と覚悟決めてしまいました。

 さもあれ”とおのり”とは何なのかもわからないのはまずいと確認してみる。

 「?遠乗りにいかれるのですよね。龍さんは馬に乗った事はありませんか?」

  

  ”とおのり”って遠乗り?、馬で遠乗りか?!

 

 とよく分からなかったピースがはまる。

 さすが『馬』の名前を持つ家庭、子供が遊びと称して遠乗りをするのか、などと考えながら答える。

 「馬に乗ったのは数度ある程度です」

 「そうですか、では丁度良かったですね。翠、龍さんを厩舎へ案内してもらえますか」

 それでは頼りない、とか、またの機会に、といった返事を予想していたのが丁度いいとまで言われる。

 「よろしければ私の馬をお使いください。他に厩舎で気に入った子がいれば好きにしていただいて構いませんので」

 その言葉に馬超達は俺の手を引いて走り出す。

 まだ言いたい事があったのだが、引きずられながら見た馬騰さんは笑顔で俺を見送っていた。



 引かれるまま押されるまま屋敷のすぐ裏手にあった厩舎へ案内というか押し込まれた。

 外観すらまともに確認する間もない。

 「兄様、ここだよ」

 言われるままに眼を向ける。

 一つの家で扱っている厩舎としては広いと言うべきだろう。

 中には十頭近い馬がいて、奥の方ではその世話をしている男性がいる。

 このような空間に来るのは初めてに近いので新鮮なものだ。

 想像ではもっと臭いというか汚れていると思ったが清潔感がある、これなら馬の隣に藁を引いて寝るのも余り苦にならない程だろう。

 「これはこれは馬超様に馬休様、馬鉄様に御客人の馬龍様ではないですか。本日はどのようなご用向きでしょう」

 ほぅっと感心して中を確認していると奥にいた男性がこちらに歩み寄ってきて声を掛けてきた。

 庖徳の時もそうだが様付けされるのは随分むず痒いものだった。

 「うん、きょうは兄様ととおのりにいくんだ」

 「そうでしたか、ではご自身の馬に乗られるのですね。馬龍様はいかがされるのでしょうか?」

 ふと聞かれたその質問に俺はどうしたものかと考えた。

 馬騰さんからは自分の馬を使って良いと言われたが、さすがに太守の馬に乗ると言うのは・・・。

 「少し中にいる馬を見せてもらいたいが構わないだろうか」

 そうですかと男性は俺を案内するように招き入れた。

 これだけ身近に馬を見る機会も余りなかったのもあって少々感動だ。

 と手前にいた馬には見覚えがある。

 馬超を背負ってここに来た時、馬騰さんが乗っていた馬だ。

 「そちらは馬騰様の馬です。名は『鳳凰』」

 近くで見ると立派な体躯をしていて綺麗な毛並みだと思う。

 一歩近づくと鳳凰は俺に瞳を向ける。

 飼い主とペットは似ると言われる事があるが、鳳凰から感じる雰囲気は馬騰さんに似ている気がした。

 瞳には優しさと力強さを感じ、一目で賢い馬なのだろうと思える程に凛々しい佇まいだった。

 それは名馬なのだとその姿一つで理解してしまえる程。

 ふと、厩舎に響き渡る馬の嘶く声が聴こえてそちらに眼を向けると驚かされた。

 遠近法と言うものがあるはずなのだが一番奥の柵の中にいる一頭がすぐ傍にいると思える程に大きく見えた。

 「あの馬は?」

 「あちらの馬は『昇竜』。比較的おとなしい馬なのですが昇竜に乗られるのでしたら辞めていただいたほうがよろしいかと」

 なにやらその言葉に含みを感じたが、昇竜のあまりに大きな体躯に惹かれる様に奥の方へと足を向けた。

 目の前に立つとやはり大きい。

 鳳凰も他の馬に比べて大きいほうだと思うのだがその鳳凰よりも一回り大きいだろうか。

 鳳凰は競馬なんかで走るサラブレットだとすれば昇竜はばんえい競馬でそりを引くばん馬だと比較すればわかりやすいだろうか。

 けれどどちらも軍馬のような力強さがあり、その足は地を駆けるのも速そうだと思えた。

 そしてもう一つ比較するなら瞳。

 昇竜の瞳は鳳凰のものと正反対と思えた。

 何か哀しげで儚げで何か諦めたような瞳。

 それでも瞳の奥には鳳凰よりも濃く力強さ持っていると感じた。

 自然と右手が上に伸びて昇竜の右頬を触っていた。

 「馬龍様っ?!」

 世話人の男性が俺の行動に驚いたように声を上げる。

 昇竜の頬を撫でながら男性の方に顔を向ける。

 何かまずい事をしてしまっただろうかおとなしい馬と言っていたが気軽に触れたのはまずいか、と撫でていた手を離す。

 気づけば俺を除いた全員が俺をぽかんと眺めている。

 本格的にまずい事をしてしまったのだろうかと聞いてみる。

 「えっと、まずかっ・・・」

 「兄様っ!!」「龍兄さん!!」「龍にぃ!」「馬龍様っ!!」

 「すみませんでしたぁ!!」

 各々の呼び方で同時に呼れる迫力に反射的に謝ってしまった。

 しかも敬語だ。

 「いえ、昇竜はおとなしいのですが人に触れられることをひどく嫌うのです・・・ですが、しかしこれは・・・」

 これが乗るのを勧めないと言う事だろうか。

 けれど俺が触れたところで特に何かあったわけではなかった。

 離してしまった手でもう一度頬に触れる。

 もう一度昇竜の瞳を覗く。

 そうするとこいつの気持ちが伝わってくる気がした。

 何がそんなに哀しいのか、何を諦めているのかと優しく頬を撫でながらしばらく無言で瞳を見つめた。

 深く飲み込まれてしまいそうな黒い瞳。

 その奥に僅かに見える新緑。

 「・・・お前は、何を見ている」

 答えは返ってこない。

 昇竜は俺と同じ様に俺の瞳を見ている。

 「お前は俺に何を見ている」

 俺が感じている何かをこいつも俺に感じているのか。

 身震いもせず鳴く事もせず俺を見つめている。

 先程鳴き声を上げたのはこいつだ。

 こいつは俺を呼んだんだと感じる。

 もしかしたらと昇竜に問いかける。

 「・・・お前も大切な者を亡くしたのか」

 昇竜の瞳孔が大きくなる。

 小さく沈むような鳴き声が漏れる。

 項垂れてたことからそうなのだと確信する。

 頭を下げ俺を見ていた瞳が閉じる。

 「・・・そうか」

 首が下がる事で丁度俺の頭と同じ位の高さになる。

 両手で昇竜の頬を押さえるように触れる。

 

  こいつは俺と同じなのか


 そう思うと昇竜の額に自身の額を合わせて目を閉じる。

 「なぁ昇竜。俺と少し遊びに行かないか?」

 「ば、馬龍様?!」

 世話人の声が聞こえたが気にせず続ける。

 自身に言うように昇竜に語りかける。

 「一人でいるのは辛いだろ、寂しいだろ。こんな隅っこでいるなら、俺と外に出ないか?お前の相棒の代わりにはなれないかもしれないけど」

 ゆっくりと額を離してもう一度昇竜を見つめる。

 昇竜も閉じていた瞳を俺に向ける。

 「生きているなら面白い事をしないか?・・・なぁ、お前はどうしたい?」



 ・・・・・・



 ・・・・・・



 自室で朝廷に提出する書類に眼を通す。

 おんせん、卵と龍さんは言っていた、あれば絶品だった。

 卵の硬すぎず柔らか過ぎないトロトロとした食感も良かったが、やや甘めな汁が黄身と交じり合った時の味は今でも残っている。

 娘達の前だと言うのにはしたなく「おかわりっ!」と声に出してお願いしてしまうところだった。

 そんなふうに昼食の余韻に浸ってしまっていたところに遠くから廊下を駆けて来る音が聞こえて意識を戻しコホンっと咳をひとつ。

 慌しく廊下を駆けて来る音が部屋の前までやって外から声を掛けられる。

 「馬騰様っ!!」

 厩舎の管理を任せている李台だろう、なにやら慌てて私を呼んでいる。

 入室の許可をして部屋に入れると全速力で走ってきたのか汗をだらだらと流している。

 「どうしたのですか李台」

 「ばっばばば、馬騰様。あああ、あの馬龍様が!」

 「李台落ち着いてください。龍さんがどうかされましたか?

 「馬龍様が馬を!」

 そういえば私の馬に乗ることを事前に伝えていなかったそれで慌てて私の所に来たのだと思う。

 李台には悪い事をしてしまったと謝罪を入れながら事後ではあるが説明をした。

 「えぇ、申し訳ありません、急な事でしたので伝え損ねてしまいました。娘達と遠乗りに行くと言うので私の馬を使っていただくように言いましたが・・・」

 「いえっ!違うのです!!」

 だが李台はそれを否定する。

 私の馬を乗らなかったという事だろうか。

 けれどそれでは李台の慌てように説明がつかない。

 一先ず、李台の言葉を待つしかないと続きを聞く。

 「馬龍様が・・・『昇竜』をお乗りになったのですっ!」

 「あの人の馬に?!」

 驚いた。

 確かに厩舎の馬を好きにしていいとは言ったがよりにもよって昇竜が人を乗せるとは思いもしなかった。

 いや、今まで乗せる事はあったが私がいる時でそれで私が頼んだ時だけ。

 それを龍さんは私の言葉を必要とせず乗る事が出来たと言う事。



 それから政務の手を止めて屋敷の中にある物見櫓へ上った。

 李台の言葉を信じないわけではないがその姿を確認したかった。

 櫓の上からなら町の外側まで見渡せると辺りを窺う。

 町から少し離れた東側の大地を駆ける4つの影。

 眼を凝らしてみれば先頭を走るのは翠だと分かった。

 「あれは・・・」

 そしてその一番後ろでは大きな体躯の馬に乗る龍さんの姿。

 遠めで見たとしてもそれを見間違うはずがない龍さんを乗せて大地を駆けるのは間違いなく昇竜。

 力強く雄雄しいその姿。

 あの人が亡くなってから人を乗せようともしなかった。

 あの時から駆ける事をやめた昇竜がまた駆ける姿が見れるとは思いもしなかった。

 それでも納得してしまった。

 龍さんと昇竜が出会えばこうなれるのは必然だったのかもしれないと。

 それが堪らなく嬉しくて声が漏れる。

 「ふふふふっ、本当に不思議な方ですね。晴れやかな顔をしたと思っていたらあれほどまで大胆な事までしてしまうなんて」

 

  ”もっと面白いことを、です”


 などと言われはしたがきっと龍さんにとってはまだ足がかりに過ぎないのでしょうか。

 なんだかあの人がこれからどんな”面白い”事をするのかとつい期待してしまう。



 ・・・・・・



 ・・・・・・




 むしろ風の中を駆けるようで心地よかった。

 だが・・・


  尻が痛い・・・


 昇竜の乗り心地に文句があるわけではない。

 だが馬など普段乗る機会などない、乗ってもせいぜい1時間程度しか乗った事のない。

 それを途中休憩を入れていたとはいえ、昼過ぎから日が沈む少し前まで走らせたせいだ。

 それから馬超達の乗馬の上手さに驚かされた。 本当に生まれた時から乗っているのでは、と思える程馬の意思を汲み取り、馬が意思を汲み取るように走る事が出来るとは感心するばかり。

 厩舎で昇竜に「またな」と別れを告げ夕食の準備に行こうと背を向けると服を噛まれて引き止められる。

 「しょうがない奴だな」

 昇竜に向き直って会った時と同じように頬を撫でる。

 「また明日来るから離してくれないか?」

 そう言うと寂しそうに鳴き声を上げたが服を離してくれた。

 「兄様っ、あたしもいっしょ」

 「はははっ、そうだな。また遠乗りに行こうか」

 今度は馬超に服を掴まれる。

 馬超の頭を撫でていると馬休と馬鉄にまで掴まれる。

 俺の腕は二本しかないので代わる代わる頭や頬を撫でて宥める。

 「そろそろ夕飯を用意させてくれないとおかずが一品少なくなってしまうぞ?」

 そう言うと馬超達がはっとした表情をして「後は任せて」と来た時とは逆に厩舎から追い出される。

 それは、ようやくと食事の支度が出来ると思う反面、なんだか少し寂しさも感じた。



 ・・・・・・


 ・・・・・・



 昼食では少々手抜き感があったので少し気合を入れて夕食を準備した。

 これも馬騰さん達に好評だった。

 この時代だと調味料や素材に縛りがあるがいくつかは代用できそうなものを使ったり素材を利用して調味料代わりに作ったりした。

 馬超達が眠りにつく頃には朝に馬騰さんに言われたように気の鍛錬を開始する。

 気の鍛錬といっても感覚は簡単に掴めない。

 俺がしている事を正確に言うのであれば精神統一と言った方が良いかもしれない。

 まずはその在り方を探るところから始める。

 その中で朝には出来なかった型の鍛錬ではなく、今まで使っていた歩法やナイフなどを使った暗器の鍛錬をした。

 夜に行うのは馬超達には見せたくはないし知って欲しくはないため。

 武術と呼べる代物ではない殺人術や陰行術をこちらでも使えるようにと鍛錬する。



 朝食前に簡単な自身の鍛錬をし、その後は馬超達に型を教える。

 午後は町に出ては庖徳に捕まったり市場の連中に捕まったり、昇竜の世話といって体を洗ったり時折川や草原の方まで馬超達と遠乗りに行った。

 夕食を終えると馬超達に適当な話や勉強と思わせないように簡単な問題を出してみた。

 庖徳の影響のせいであまり勉強をしていないのか最初は苦労した。

 そして夜が深くなると再び自身の気の在り方を探る鍛錬を開始する。

 一日をそうのように過ごして毎日気絶するように眠りにつく。

 勿論と言ってはおかしいかもしれないが朝昼夜の食事を作るようになった。

 時折、馬休が手伝ってくれたり馬騰さんが用意してくれもしたがほぼ俺の日課になってきていた。



 そんな日々が二週間程経ったある日の事。



 朝食を終えると馬騰さんの部屋に呼ばれた。

 「以前に話していたお話なのですが、一先ず安定郡で太守をしている皇甫嵩という昔なじみから返事が来ました」

 「皇甫嵩さん、ですか」

 聞き覚えがある名前なのだが中々詳しい内容が出てこない。

 恐らくは師匠達の会話だと思うので三国志の武将なのだろうがと頭の隅をつつくように記憶を探る。

 「ここから知り合いの学者のいるところまではこちらから連絡をとっても返信は二月近く掛かってしまいます。失礼ではありますが私の書状があれば力になってくれるはずです。一旦そちらを経由して直接出向いていただいた方が速いと思いますので」

 確かに車や飛行機がないと時間は掛かってしまうと思いはしたが二ヶ月も掛かるとは思いもしなかった。

 どれくらいの距離があるのだろうかと少々考える。

 暇な時間を見つけては庖徳のところで地理や文字を学んではいたがどこまで行く事になるのだろうか。

 「それでその道の途中にある安定郡へ、と言うわけですか」

 「えぇ、昔は少し小競り合いのような事をしていましたがあの方でしたらそれなりに朝廷や周辺の諸侯にも伝手もあります。もしかしたらそこでも龍さんの力になってもらえるかもしれません」

 「了解しました。馬騰さんには何もかもお世話になりっぱなしですみません」

 「そのような事はありませんよ。貴方が来てから娘達もよく笑うようになりましたし、私は貴方の作る不思議な料理を日々楽しみにしているのですから」

 「目新しいだけの俺の料理なんて馬騰さんの料理に及びませんよ。それに馬超達は俺が好きで始まったことですから」

 「そう言っていただける貴方だから私は龍さんの力になりたいのです。それで皇甫嵩についてですね」

 お互いにお礼合戦のようになってしまったところを馬騰さんの一言で修正される。

 「彼女からの返信では”歓迎する”との事です」

 「えっ?」

 歓迎される事をした覚えはないが馬騰さんの人徳なのか。

 だが馬騰さんではなくその客人を歓迎するのだろうか。

 「馬騰さん、なんと俺の事を伝えたのですか?」

 「ふふふふっそれは行ってからのお楽しみです」

 「っ?」

 何故だろう馬騰さんは笑顔で誤魔化す。

 楽しみにといってはいるが嫌な予感がするというか良い予感はしない。

 ここしばらく一緒に生活している中で馬騰さんの笑顔で冗談を言う時ほど怖いものはないと理解している。

 「え~っと、あの送った書状の頭だけでも教えて・・・」

 「お楽しみです。ただ向こうからは早く会いたいとも書いてありますので数日中に出立されるのが良いかもしれません」

 少しでもと情報を探りたかったのだが言い切る前に遮断された。

 何故だろう嫌な予感がより濃くなるだけだった。

 「一度安定まで行かれたら後そのままたくまで行かずこちらに戻ってきていただくのも良いと思います」

 「琢ですか。随分距離はありますね」

 琢とは幽州でもやや北方にあるところか確かにここからだと距離がある。

 「とりあえず二、三日中に準備をしてからにしようと思います」

 「そうですか、ではそのように皆には伝えておきましょう」

 旅路の予定が一段落した頃、ダンダンダンッと部屋の扉が荒々しく叩かれる。

 余りに慌しい突然の来訪に馬騰さんは眉をひそめる。

 「どなたでしょうか?」

 扉を開けると鎧に身を包んだ男が立っていた。

 時折町でも見かけた警備兵だ。

 「馬騰様っ!!失礼いたします。急ぎ耳にお入れいただきたい議がございます」

 警備兵はその場で片膝を立て右手の拳を左手で包むように構え頭を下げる。

 その姿を見ると先程まで俺に微笑んでいた顔を警備兵に向け、真剣な眼差しで続きを促した。

 「わかりました。それで何がありました」

 「はっ、およそ半刻ほど前、西都から南西付近の国境警備より五胡の軍勢がこちらに向かっているとの連絡がありました」

 半刻といえばこちらで学んだ時間で言うと一時間程度。

 馬騰さんの顔がより険しいものになる。

 「規模は?」

 「報告によりますと二万を超えるとの事です」

 ぐっと息を飲むのが分かる。

 こちらでの戦力状況までは理解できないがその表情からしてかなり大規模の部隊が動いていると言うことが分かる。

 「二万ですか、偵察にしては随分多いですね。侵略部隊と考えるべきですか」

 「馬騰様、いかがいたしましょう」

 「私も出ます。町には最低限の兵を残して残りを『西都』に一刻以内に集結させます。それから金城の韓遂の部隊にも助成を、それだけの規模になると追い返すには『手下八部』の力が必要になります」

 「はっ」

 よく現状が理解できないうちに決定が下されていく。

 馬騰さんの指示の元に次の行動へ移る。

 だが、戦いの渦が迫っているのは分かる。

 俺は何をするべきか、何が出来ることはないかと考えると馬騰さんが立ち上がり俺に向き直る。

 「龍さん、申し訳ありませんが緊急を要する事態になってしまいました」

 「話を聞く限りそれは理解できます」

 「えぇですから出立は私が戻るまで待っていただけますか」

 「はい、俺に何か出来る事はありますか」

 「娘達をお願いできますか。万が一と言う事もあります、警備の基本的な指揮は庖徳が行います、龍さんにはその補佐を」

 出来る事ならば戦場で馬騰さんの力になりたかったがここでの合戦や部隊の動きを知らない俺では足手まといなってしまう。

 馬騰さんの言うように俺の出来る事はここを守る事だけだろう。

先程の警備兵がしていたように膝をついて馬騰さんに頭を下げる。

 「命に代えても貴方の帰る家を家族を守り通して見せます」

 「有り難うございます。後をお願いいたします」

 そういうと一瞬の笑顔を見せた後、表情を引き締めて部屋を後にした。



 馬騰さんが五胡に対して出撃するのを見送ってから丸一日が経った。

 「兄様。母様大丈夫かな?」

 一緒に過ごしていた中でここまで不安そうな顔をした馬超を見たのは森で会った時以来か。

 兄と慕ってくれる馬超がこんな顔をするのは見たくない。

 「大丈夫だ。俺が出会った女性の中で馬騰さんより強い人を俺は知らない」

 そう言って不安が少しでも薄れるようにと優しく頭を撫でる。

 「龍兄さん」「龍にぃ~」

 と馬休と馬鉄も俺に抱きついてくる。

 「大丈夫だよ、それよりもちゃんと馬超達が飯を食べてるか向こうで心配してるんじゃないか?」

 三人をまとめて抱きしめて努めて笑顔で何度も頭を撫でるとそこに招かざる客がやってくる。

 「馬龍様。そろそろ勉学の時間ですぅ」

 はっきり言うなら見えない五胡より目の前の勉学魔人の方が俺は怖い。

 「庖徳、そんな事している場合じゃないだろう。警備の方は大丈夫なのか?」

 「はい、それに今だからこそ警備状況に穴がないか勉学を元に見直すべきかと思います」

 物は言い様だなというのが素直な感想。

 しかし、一理あるのは確かと一度町まで出向く事にした。

 「馬超、少し町まで出てくるから馬休と馬鉄を頼む」

 「うぅぅ」

 恨めしそうに庖徳を睨みつける馬超。

 「馬超、俺も馬騰さんもいない時に家を守るのはお前だ。頼む」

 「兄様がいうならわかった」

 「くれぐれも俺が戻るまで家から出ないように、この約束守れたら夜は馬超の好物を作ろうか」

 「ころっけがいい」

 「わかった。ついでに材料も買ってこよう。じゃあ行ってくる」

 馬超達に屋敷の門まで見送られてから一度庖徳の武具店までやってきた。

 臨時的な警備本部として機能している。

 立地的に町の中央に近い事もあり、数人の警備の人間が入れ替わりでやってくる。

 「で、何を見直すんだ」

 「いえ指揮をする人間がこちらにいていただけた方が良いかと」

 「俺は軍の指揮などした事はないぞ」

 「いえいえ、馬龍様ほど勉学の徒ならその場に立てばすぐに出来てしまいます」

 本当にこいつと話すと溜め息ばかりがでる。

 ここにいる理由もない。

 「臨戦態勢というわけでないのなら俺はあくまで補佐でしかない。馬超達の傍にいてやりたいから帰るぞ」

 「そ、そんな馬龍様。こんな機会でもないと勉学について語り・・・」

 「あわん!!」

 不要な事で町に出てきてしまったので、しょうがないと市場で買い物をして帰る事にする。

 だが、そこで買い物をする事は出来なかった。

 大通りに出ると正面の入り口の先を見た時に最悪の直感が働いた。

 ゾクリっとにじり寄る殺気と多くの気配がした。

 野犬や熊なんてものではない、明らかに敵意をもつ人の気配。

 すると体が正面の入り口にある櫓へ走り出していた。

 服のポケットから修復したスコープを取り出して地平の向こうを眺める。

 ひび割れた視界からは砂塵が巻き上がっているのが見えた。

 馬騰さんが返ってくるには早すぎるし敵意を感じるはずがない。

 だが、それでもここにいる警備の規模よりは断然多いだろう。


  ・・・敵だ


 想像ができるならこれが馬騰さんが言っていた万が一。

 五胡の別働部隊が展開してきたと考えるべきだ。

 傍にいた警備兵に事態を伝えて櫓を飛び降りる。

 敵は確実にこちらに向けて進行してくる。

 あと一時間もすればこの町にも気づかれてしまう距離だ。

 先にこちらから打って出ても視界の広いこの土地では気づかれるだろう。

 先程出たばかりの庖徳の店へとんぼ返りする事になった。


 「庖徳!!」

 「馬龍様戻ってきていただけたのですね」

し ょんぼりとした様子のまま店の隅で座っていた庖徳が俺を見ると飛び上がるように近づいてきた。

 「では勉学に・・・」

 「ついては後回しだ!!」

 またしょんぼりとその場に座り込む。

 馬騰さん、こいつに警備を任せてよかったのかと思う。

 「敵襲だ!いざと言う時のために町民をまとめる。警備兵に伝令を、一刻以内に門を閉じる。外にいる連中を呼び戻せ!!」








NextScene

++戦いの渦、怒りと不安++


例によって解説と言うか弁解です

作者は加速装置を押しました。m(__)m

とりあえずこれで久々に戦闘に入る

これ以上たらたらすると黄巾までどれだけ掛かるか(-_-).。oO

色々と書きたいですが、とりあえず解説は後日活動報告にて

補足と言うか蛇足です

三国志の人名、地名って大変です。

馬騰さん辞書登録無しで何度打った事か

馬沸騰 ← 沸、削除 →

ソニック〇ームが出せそうです。




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