第77話 きみはどんな魔法を使いたい?
地球
2031年10月29日水曜。
ポルガンの誕生日迄後2ヶ月と18日。
精神と時の空間。
72日目。
時の間に居られる時間、後408日
世界中へ向けて発表された「魔術要員募集」。
その反響は、日本政府の想像を遥かに超えていた。
精神と時の空間で訓練を受けられる。
本当に魔法が使えるようになる。
異世界を救う仲間になれる。
そのニュースは瞬く間に世界中へ広がり、Skype面接会場には応募が殺到していた。
「現在の応募数、二百三十万人を突破しました!」
スタッフの声に、橘が思わず目を丸くする。
「まだ募集開始から半日ですよ……。」
横には龍十二兄弟がずらりと並び、それぞれが担当ブースで面接を進めていた。
「では次の方、どうぞ。」
二番・龍が微笑みながら画面を切り替える。
画面いっぱいに映ったのは――。
大きな赤いリボンを頭に付けた少女。
黒い魔女服。
そして隣には、蜻蛉にそっくりな衣装の青年。
「私達、魔女の卓球瓶のキーキーと相棒の蜻蛉のコスプレをしています!」
「二人で箒に乗る練習も毎日やってます!」
少女が目を輝かせる。
「本当に空を飛べるようになるんですか?」
二番は優しく微笑んだ。
「サブスクで見ました。宮澤隼雄さんの名作ですね。僕も大好きです。」
二人の表情が一気に明るくなる。
「飛べますよ。あなた達なら。」
「一次審査、合格です。」
「やったぁーーー!」
二人は抱き合いながら大喜びしていた。
「次の方。」
画面が切り替わる。
今度は作業着姿の四人組。
背景には巨大な花火玉が並んでいた。
「隅田川花火コンテスト常連チームです!」
「魔法で今まで誰も見たことのない花火を作りたい!」
六番・龍が頷く。
「人を笑顔にする仕事ですね。」
「一次審査、合格です。」
「ありがとうございます!」
続いて――。
世界的に有名な舞台演出家。
「炎ではなく、光の魔法で演出してみたい。」
「合格です。」
AKV48のメンバー。
「ライブで本物の光の翼を出してみたいです!」
「合格。」
課焼坂48のメンバー。
「魔法で世界中のみんなを笑顔にしたいです!」
「合格。」
有名なダンサー。
「重力魔法で新しいダンスを創りたい。」
「合格。」
踊りの指導者。
「身体能力強化魔法を学びたい。」
「合格。」
有名華道家・仮屋崎翔子。
「枯れない花を世界中へ届けたい。」
「素敵ですね。」
「合格です。」
画面は次々と切り替わる。
有名な作詞家。
「心を癒やす歌を書きたい。」
合格。
作曲家。
「魔法と音楽を融合させたい。」
合格。
映画監督。
「魔法で映画の可能性を広げたい。」
合格。
有名俳優。
「異世界でも演技を届けたい。」
合格。
演出家。
「世界最高のショーを創ります。」
合格。
そして――。
世界的アーティスト達の応募まで始まった。
「ヨアソベです。」
「アトです。」
「米津っちです。」
「カクトです。」
「チャスティ・バービーです。」
「ケイディ・ベリーです。」
橘が思わず立ち上がる。
「えっ……。」
「世界的な歌い手の方々まで応募してるんですか!?」
十番・龍が苦笑した。
「世界中が注目していますからね。」
橘は思わず笑う。
「この方達にライブをやっていただけたら、とんでもない事になりますね……。」
さらに海外からも応募が続く。
世界的マジシャン。
「今度は本物の魔法を覚えたい。」
合格。
ハリウッドの特殊メイクアーティスト。
「ドラゴンや魔物をもっとリアルに表現したい。」
合格。
有名サーカス団。
「空中魔法を使ったショーを作りたい。」
合格。
プロフィギュアスケーター。
「氷魔法で世界一美しい演技を。」
合格。
ミュージカル俳優。
「歌いながら回復魔法を使えたら最高です。」
合格。
さらに――。
「次の方。」
画面に映ったのは、白いコックコートを着た壮年の男性だった。
「世界三ツ星レストラン“ル・エトワール”の総料理長です。」
橘が息を呑む。
「えっ……あの……?」
男は静かに頭を下げた。
「魔法で“味”そのものを進化させたい。」
「食べた瞬間、涙が出る料理を作りたいのです。」
一瞬、会場が静まり返る。
六番・龍がゆっくり頷いた。
「素晴らしいですね。」
「一次審査、合格です。」
「ありがとうございます。」
男は深く礼をして画面から消えた。
続いて――。
「次の方。」
今度は黒いドレスの女性。
「国際ピアノコンクール優勝者、エレナ・ミハイロヴナです。」
彼女は静かに鍵盤を弾く仕草をした。
「音に魔法を宿したい。」
「聴いた人の心を直接癒やす音楽を。」
三番・龍が目を細める。
「音魔法との相性は抜群ですね。」
「合格です。」
エレナは小さく微笑んだ。
「光栄です。」
そして――。
「次の方。」
画面に映ったのは、まだ幼い少女。
その隣には、心配そうに見守る母親。
「……えっと、あの……。」
少女は緊張しながらも、はっきりと言った。
「わたし、子役のオーディションで何回も落ちてて……。」
「でも、どうしてもお芝居がしたいんです。」
母親がそっと補足する。
「この子、どうしても諦められなくて……。」
少女は拳を握った。
「魔法で、どんな役でもできるようになりたいです!」
一瞬、空気が止まる。
橘が思わず息を呑む。
しかし――。
十一番・龍が優しく微笑んだ。
「いいですね。」
「一次審査、合格です。」
少女の目が大きく見開かれる。
「ほんとに……?」
「はい。」
「あなたの“なりたい”は、とても強い魔法です。」
少女は泣きながら笑った。
「やったぁ……!」
母親も涙を浮かべて頭を下げた。
「ありがとうございます……!」
画面が切り替わる。
しかし応募は止まらない。
「現在の応募者数、三百万人を突破しました!」
スタッフの声が会場に響く。
橘は思わず苦笑した。
「もう限界ですね……。」
一番・龍が静かに頷く。
「予定人数を大幅に超えました。」
「本日十八時をもちまして、第一次募集を締め切ります。」
世界中へ速報が流れる。
『魔術要員第一次募集は予定人数に達したため、受付を終了しました。』
その瞬間もなお、世界中から応募ボタンが押され続けていた。
「間に合わなかったー!」
「第二次募集はありますか!?」
「来年でもいいので受けさせてください!」
世界中から惜しむ声が溢れる。
龍十二兄弟は顔を見合わせ、小さく笑った。
「これほど魔法を夢見る人がいるとは。」
「未来が少し楽しみになってきましたね。」
橘です!
とんでもない事になりましたー!!




