済 第76話 秘密の空間
夕方――。
人間界の見学を終えた娘娘は、精神と時の空間へ戻ってきた。
橘は明後日二日かけて、12兄弟と一緒に魔法の訓練を受ける者を横坂訓練基地でSkype選抜する。
合否はその場で判定され、受かった者から最低限の荷物を持ち、精神と時の空間で泊まり込みで訓練を受ける事になる。
訓練期間は外の時間で一ヶ月半。魔法空間では十四ヶ月だ。
娘娘は疲れているらしく、どこか元気がない。
その様子に気付いたのは、高橋だった。
「……娘娘ちゃん。」
高橋は身を屈めて、娘娘に声を掛けた。
「みゃ?」
「何かあった?」
娘娘は慌てて笑う。
「な、何でもありませんみゃ。」
「嘘。」
高橋は優しく微笑んだ。
「君、顔に出るタイプだから。」
娘娘は言葉に詰まる。
「……。」
「三角ディレクター。」
高橋は近くにいた深雪を呼ぶ。
「娘娘ちゃん、何か悩んでます。」
深雪は娘娘の顔を見る。
「本当か?」
娘娘は俯いたまま頷けない。
その様子を見た深雪は、小さく息を吐いた。
「レオン。」
「分かった。」
二人は顔を見合わせる。
「娘娘。」
レオンが静かに言う。
「秘密の空間で話そう。」
娘娘は小さく頷いた。
◇
三人は秘密の空間へ入る。
狭い。
相変わらず狭い。
娘娘は隅っこへ座る。
深雪は壁にもたれた。
レオンは向かいに腰を下ろす。
「さて。」
レオンが優しく微笑む。
「何があった?」
娘娘はしばらく黙っていた。
やがて小さく口を開く。
「……今日。」
「十番さんと十一番さんに呼ばれて。」
「うん。」
「プロメテーウス様に会ったみゃ。」
深雪とレオンの表情が変わる。
「何だって?」
娘娘は今日あった出来事を、一つも隠さず話し始めた。
暗い空間。
虫の息のプロメテーウス。
三千年間、呪いを背負い続けたこと。
世界を守っていたこと。
そして――。
「ポルガン様のお誕生日に。」
「パンダ様、魔王様、ポルガン様を連れて来てほしいと言われました。」
沈黙が流れる。
深雪は腕を組む。
「……レオン。」
「ああ。」
「これはパンダにも聞いてもらった方がいい。」
レオンは頷いた。
「呼ぶぞ。」
◇
数秒後。
パンダが秘密の空間へ飛び込んできた。
「狭いにゃ!」
「ひっつくな深雪!」
「しょうがないだろ!」
「お前こそ嫌らしく手を動かすな!」
「な!なんて事言うんだ!嫌らしいだなんて!」
「そんな事より暑苦しいにゃ!二人ともこんな所に隠れて、イチャイチャしてたのかにゃ?」
「仕方ないだろ、レオンが我慢できないって言うんだから。」
「深雪!それはないだろ?」
「まあにゃ。ミカエラから聞いてるにゃ。ここ何日間かレオンも深雪も魅力される回数が減ったってにゃ!」
レオンが苦笑する。
「二人とも静かに。」
娘娘は思わず吹き出した。
さっきまで張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
「娘娘。」
パンダが真面目な顔になる。
「全部聞かせるにゃ。」
娘娘はゆっくり頷き、プロメテーウスとの出来事を最初から最後まで話した。
話し終えると、部屋は静まり返る。
深雪が口を開く。
「どうする?」
レオンもパンダを見る。
パンダは少しだけ考え、静かに答えた。
「娘娘。」
「はい。」
「ポルガンの誕生日前日に、本当にパンダ達を連れて行くにゃ。」
三人は驚く。
「お前、いいのか?」
深雪が尋ねる。
パンダは頷いた。
「三千年も世界を守ってきた相手だにゃ。」
「話くらいは聞く価値があるにゃ。」
誰も反対しなかった。
ポルガンの誕生日まで――
あと2ヶ月と19日。
運命の日が、少しずつ近付いていた。
パンダにゃ
黒幕登場って感じにゃね!




