済 第56話 修行だ!①
地球。
2031年10月14日火曜。
「えー!? なんで俺、またこの服着なきゃ駄目なんだよ! しかもレオンの居る所で!」
踊り子たちに囲まれ、あっという間に聖具の衣装へと着替えさせられる深雪。
文句は言っているものの、表情はどこか明るい。
昨日、産婦人科でまきの妊娠二か月が分かったばかりだったからだ。
「神様がくれた聖具だか何だか知らないけどさ。昨日、僕はパンダと半月ぶりに、たっぷりラブラブしたからな」
レオンが腕を組み、勝ち誇ったように笑う。
「それに深雪。この前は気づかなかったけど、お腹出てるぞ。案外、中年体型だな」
「うっ……!」
深雪は慌てて自分のお腹を見る。
「確かに少し下腹が出とるのぅ」
白魔法の師・ユリウスが腕を組む。
「ぱふぱふをするなら、もう少し胸筋も鍛えんとな。ほれ、わしのように」
ピクピクッ。
見事な胸筋が左右別々に動く。
「どうじゃ?」
「そこ鍛える必要あるのかよ!」
深雪が思わず突っ込むと、一同が笑った。
「それなら心配ないにゃ!」
パンダが元気よく前へ出る。
「ポルガンと天才パンダ様にも使った、スライムダイエットがあるにゃ!」
そう言って、自分のお腹のTシャツを捲り上げる。
「妊娠と出産で少しだけ緩んだけど、このくらいまで戻せるにゃ。」
「パンダ、説明だけで十分だ!」
レオンが慌てて止める。
「スポーツブラ着けてるから平気にゃ。」
「そういう問題じゃない!」
再び笑いが起こった。
「それより、これから入る精神と時の空間だけど……」
パンダは説明を始める。
「法王様が作った特別な修行場にゃ。外では二か月だけど、中では十六か月くらい過ごせるにゃ。広さは千代田区くらいあるから、みんな同時に修行できるにゃよ。」
「ドラゴヌポールの精神と時の空間みたいなもんか!」
深雪が目を輝かせる。
「なぁレオン、俺カッコいいだろ?」
くるりと回り、レオンにウィンクする。
レオンはひょいと身をかわす。
「……。」
しかし頭の中では別のことを思い出していた。
(昨日のパンダ……本当に綺麗だったな。僕の知らない間にパンダもスライムダイエットしてたのか、だからあんな、あんな)
自然と喉が鳴る。
その様子を見たミカエラが、小さく肩をすくめた。
「まだ昨日の余韻が残ってるみたいね。」
「そうにゃ!」
パンダは続ける。
「スライムには命令してあるにゃ。余分なお肉を必要な場所へ整えて、体を健康的に引き締めるようにって。」
「そんなことまで出来るの!?」
ミカエラが驚く。
「ポルガンとパンダと地球の芸能人、マチコDXで実証済みにゃ。」
「凄いわね……。」
「コンビニから出る生ごみを食べさせてたら、賢く育ったにゃ。」
「高橋!」
「はい!」
「深雪のビフォーアフター、ちゃんと撮るにゃよ!」
「任せてください! 密着取材ですね!」
高橋はカメラを構えた。
「ところで、空間に入ったら外へ出られないんですか?」
「出入りは簡単にゃ。パンダが外へ行く時、一緒に出ればいいにゃ。法王様がスマホも使えるようにしてくれたにゃ。」
「それは助かるな。」
その時だった。
「深雪、綺麗みゃ。良い匂いがするみゃ。」
フェイ太郎が鼻をひくひくさせる。
「本当に良い匂い。」
ナルも頷く。
「お姫様みたい。」
リアも目を輝かせた。
「子どもたちまで修行させる気なのか?」
レオンが聞く。
「もちろんにゃ。幼稚園にもしばらくお休みするって伝えてあるにゃ。」
「深雪、まきちゃんにちゃんとメールするにゃ。」
「ああ。」
深雪は少しだけ真面目な顔になる。
「俺の、まきと桜子と……お腹の子が心配だからな。」
「ならオイラが見ててやるみゃ。」
フェイ太郎が胸を張る。
「使えるのか、このイタチ?」
「凄いよ。」
ナルが即答した。
「幼稚園児なら四人くらい一緒に飛べるよ。」
「動物ともお話しできるし。護衛にもなる。」
リアも得意そうに言う。
「頼りになりそうじゃねぇか!」
深雪はフェイ太郎の頭を優しく撫でた。
「じゃあ、まきにLINEして場所を聞いてから飛んでいくみゃ。」
「……お前、自分専用のスマホ持ってるのか?まきといつの間にLINE交換した?」
深雪が思わず聞いた。
「勿論だみゃ。便利だミャ。」
「法王様の所でペガサスと遊んだ時みゃ。」
「おまえ、俺とはLINE交換してないな!」
「まきが交換したいって言ったみゃから。深雪も交換したいかみゃ?」
「良いのか?ありがとな、フェイ太郎!」
⸻
それから五分後。
アルメリア領、泉近くのスライム群生地。
ぷるぷると光るスライムたちが深雪の周りを囲み、体の調整を始める。
「うわっ……くすぐった! あっ、そこ……んっ!」
スライムは柔らかく、ぬるぬるとした感触で深雪の肌に密着していく。下腹部から腰、太もも、そして胸板へと這い上がるように動き、余分な脂肪を溶かしながら必要な場所へ肉を整えていく。
「ん! そこ、そこはやめ……あ、身体が熱い……!」
深雪は思わず腰をくねらせ、息を乱した。くすぐったさと、じんわりとした感覚が混じり合って、声が抑えきれなくなる。
「はぁ……っ、なんか変な感じだぞ、これ……」
高橋は真剣な表情で撮影を続けつつ、顔を少し赤らめていた。音声担当も照明担当も、互いに顔を見合わせて小さく咳払いをする。
「子どもたち、先にコンビニでおやつ食べさせて正解だったにゃ……」
パンダが苦笑しながら言う。
「スライム施術は、初めて見る人はびっくりするにゃ。特に深雪みたいに敏感な人は……反応がエロいんだにゃ。」
⸻
一時間後。
「じゃーん!」
深雪が胸を張る。
「見ろ、レオン!」
お腹はすっきりと引き締まり、胸板にはほどよく筋肉がつき、腹筋もうっすらと割れている。
「昨日な、産婦人科で休養中の元アイドルに会ったんだよ。俺の大ファンだって言われてさ!」
「お前の大ファン?」
レオンは鼻で笑う。
「立場が逆なんじゃないのか。」
「ふふん!」
深雪は得意げに胸を張る。
「その子にアイドルの決めポーズも教わった!」
「高橋、撮れよ!」
「いくぞー!」
深雪は聖具をひらりと翻し、片足で軽やかに立つ。
両手でハートを作り、レオンへ向かってウインク。
「萌え萌え、すごキューン♡」
……
……
その場の空気が一瞬止まった。
「……どうだ?」
深雪は首をかしげる。
「産婦人科じゃ妊婦さんも付き添いの人も、子どもたちにも大ウケだったんだけど?」
高橋はカメラを構えたまま固まっている。
レオンも無言。
ミカエラがゆっくりレオンの隣へ歩み寄った。
そして、レオンの顔を覗き込む。
「……やっぱり。」
「どうした?」
「この男、魅了されてるわ。今の状態じゃ魔法も剣も使えないわよ」
「なっ!?」
レオンは慌てて顔を背ける。
「されてない!」
しかし耳まで真っ赤だった。
その様子を見た一同は、思わず吹き出した。
「レオン、わかりやすいにゃー。」
パンダの一言で、修行開始前の広場は大きな笑いに包まれた。
ざまぁ見ろ、レオン!
俺って、かっこいいだろ?
えっへん!
深雪




