済 第53話 踊り子のぱふぱふ
地球。
西暦2031年10月13日月曜。
「なんでソファで寝てるはずのポルガンが、俺と一緒に寝てんだよ……?」
目を覚ました深雪は、隣で眠る逞しい腕を「よいしょ」と押し除けた。広い王族のベッドとはいえ、さすがに密着しすぎだ。
「ん……深雪。」
ポルガンがゆっくり目を覚ます。まだ夢見心地のまま、優しく微笑んで深雪の頬にそっとキスを落とした。
「深雪、可愛い……。」
その甘い声と仕草に、深雪の心臓がどきんと跳ねる。
「どうしたんだよ、お前! レオンみたいになってるぞ! 変だぞ!」
その言葉でポルガンはハッと我に返り、慌てて体を離した。
「……あ。」
すぐに白い魔法陣を展開する。
「魔力無効化。」
体が淡く輝き、数秒後、ポルガンは額を押さえてため息をついた。
「やっぱり……神様のくれた踊り子の衣装の効果ですね。魔物だけじゃなく、魔力を持つ者まで魅了してしまうようです。本当に申し訳ない……。」
申し訳なさそうに深雪の首元を見つめる。
「それより……首のあたりがいくつか赤くなっています。多分、俺の仕業です。」
「えぇええ!?」
深雪は慌てて近くの鏡に駆け寄り、自分の首や鎖骨の辺りを確認して半べそになった。
「今日、まきの産婦人科に付き添う約束したのに……! こんなの見られたら恥ずかしいじゃないかー!」
「すみません……。」
ポルガンは優しく笑いながら近づき、温かな治癒の光が深雪を包んだ。赤みはみるみる消えていく。
「治癒魔法くらい、俺にも使えます。すぐに直せますよ。それと……この衣装の性能もちゃんと調べておきましょう。」
ポルガンは金色のモノクルを掛けて、深雪の隣に腰を下ろした。少し距離を取るように座る。
「変に意識しないでくださいね……。」
魔力を測定すると、モノクルが淡く輝いた。
「予想以上です。勇者一家ほどではありませんが、深雪もかなり高い魔力を持っています。この衣装と組み合わせれば、相当な力になるはずです。」
深雪はタンバリンを軽く振ってみた。シャラン……という可愛らしい音が部屋に響く。
「二度打ち鳴らせば、勇者一行全員の生命力と魔力を高められます。」
「さらに三ターン踊り続ければ、攻撃力を最大三十倍まで引き上げることもできるようです。」
「三十倍!? マジかよ……!」
「ええ。そしてこの衣装には、もう一つの奥義が……。」
「奥義?」
「ぱふぱふ、です。」
「……もしかしてドラゴヌポールの、あのぱふぱふか!?」
「ドラゴヌポール?」
「日本のアニメだよ。今度サブスクで見てみろ、面白いから!」
「胸元を使って、対象の魔物を悩殺するポーズを取る、ということですね。」
「やだ! 絶対やらない! そんな恥ずかしいこと、俺がやるわけないだろ!」
深雪が両手をぶんぶん振ると、ポルガンは思わず吹き出して笑った。甘い空気が少し和らぐ。
「安心してください。無理に使う必要はありません。」
「ただ……タンバリンの加護と舞が重なれば、ダークキングスライム二体くらいなら浄化できる可能性があります。メタルキングスライム系も同様です。」
「二体!? あの化け物を……?」
深雪は目を丸くした。
「あの群れ、ヤバかったもんな……。でも一人で全部やるんじゃなくて、みんなで戦うためのサポートってことか。よかった……。」
ポルガンは優しく頷いた。
「そのための神様の贈り物ですよ。深雪が一人で背負い込まなくていいように。」
「踊った後、ぱふぱふすると。」
「嫌!聞かないからな!ぱふぱふは絶対やらない!」
ポルガンは、少し照れたように深雪を見つめ、続けた。
「ぱふぱふはやらないんですね。わかりました。」
「……普段はこの衣装は脱いでおいてください。俺は魅了解除の魔法を掛けていますが、近くにいると……みんな、少し落ち着かなくなるので。」
「お前までかよ!」
二人は顔を見合わせて、思わずくすくすと笑い合った。
「さて……着替えを手伝わせますよ。」
ポルガンは軽く手を叩いて控えの者を呼び、ポケットから小さな皮のポーチを取り出した。
「おい、深雪の着替えを手伝え。魅了解除の魔法も掛けてこい。」
従者が部屋に入ってきた瞬間、深雪の姿を見て頰を真っ赤にし、目を逸らした。
「やっぱり従者じゃ厳しいか……。ほら、これを着けろ。」
ポルガンは皮のポーチから魔法の指輪を取り出して従者に渡した。
深雪がそのポーチを見て目を輝かせた。
「そのポーチ? 前から気になってたんだけど、なんでも出てくるな!」
「気が付いてたか? 兵士がダンジョンで手に入れた特殊な魔道具だ。四次元ポシェットと同じ機能がある。入れられる数に制限があるけどね。」
指輪を嵌めた従者は少し落ち着き、ポルガンと二人で深雪の衣装を丁寧に脱がせ始めた。ビキニのパンツ以外をすべて脱がせると、深雪はベッドから降りて体を少し隠した。
「深雪、後は自分で着られるよな?」
「あー、大丈夫。……お前ら、赤くなってんぞ。」
「す、すみません。深雪様があまりにも美しいのでつい……。」
従者が借りた指輪を外し、ベッドの縁に置いて逃げるように部屋を出ていくと、ポルガンが苦笑した。
「早く服を着ろよ。俺も……もうちょっと距離を取るから。」
「へいへい。」
深雪はポルガンのウニクロの服を着ながら、小さく笑った。
神様から授かった衣装は強力だが、普段は脱いでおいた方が良さそうだ。
甘い朝の出来事は、二人の間に少しだけ特別な余韻を残したのだった。
後書き
ポルガンです。
ぱふぱふ凄いのになぁ。
ポルガンです。
ぱふぱふ凄いのになぁ。




