済 第44話 実戦前のひととき
魔王城、屋外魔法訓練場。
レオンはミカエラと、法王庁から派遣された三人のA級白魔法使いに囲まれ、白魔法の鍛錬を続けていた。
白い光が空へ伸び、的が眩しく輝く。
「今日はここまで。」
ミカエラが満足そうに頷いた。
「黒魔法はもう実戦レベル。白魔法もB級上位まで来たわ。」
レオンが額の汗を拭う。
「ありがとうございます。」
その時、腰に付けた魔道具から法王の声が響いた。
『レオン殿。』
「法王様。」
『黒魔法はかなり慣れてきたようじゃな。白魔法もB級上位とは、伸び代が恐ろしい。』
『ところで鍛錬の成果を試してみたくはないか?』
ミカエラが苦笑する。
「白魔法の師匠が集まらなくてね。今は法王様が派遣してくださった三人で何とか教えているけど、まだ実戦には出していないの。」
「ミカエラが基本を覚えろって厳しくて。」
レオンも笑った。
「……でも、そろそろいい頃ね。」
法王は満足そうに笑う。
『ならば丁度よい。』
『法王庁で飼育しておる清掃用スライムが、ダークキングスライムへ変異してしまった。』
『大規模な討伐隊を編成する。レオン殿、ミカエラ殿、参加してみぬか?実戦じゃ』
「参加します。ぜひお願いします。」
その返事と同時だった。
「うおおおぉぉぉー!」
聞き覚えのある叫び声が空から響く。
レオン達が見上げると、深雪が必死の形相で空を飛んでくる。
「はぁぁぁぁっ!」
風に煽られながら、どうにか姿勢を保っている。
その後ろでは、ポルガンが余裕の表情で飛行していた。
左腕にはパンダを優しく抱きかかえている。
二人は静かに着地し、ポルガンはパンダをそっと地面へ降ろした。
数秒遅れて深雪も着地する。
勢い余って数歩よろけ、膝に手をついて肩で息をした。
「はぁ……はぁ……。」
「俺は……自分で飛んだぜ。」
息を整えながら笑う。
「魔王城のコンビニ前のドコデモゲートから飛んできたけど、空飛ぶのはやっぱりキツいな。」
法王が笑う。
『無理はするでない。』
深雪は姿勢を正した。
「法王様。討伐隊の撮影をしたいんです。俺とテレビクルーも同行していいですか?」
『三人ほどなら騎士団の結界で護れる。』
「ありがとうございます!」
その時だった。
レオンの視線が、パンダの髪で止まる。
銀色の髪留めが二本。
「……パンダ。」
「にゃ?」
「髪留め、増えたな。」
パンダが笑顔で頷く。
「そうにゃ。」
深雪が笑いながら答えた。
「パンダのヘアピンは俺とポルガン用。」
「ペンダントにも会話機能は付いてるけど、髪留めは家族じゃなくても使えるからな。」
レオンはパンダの神に刺さる二本の髪留めを見つめる。
ほんの少しだけ気になるような表情を浮かべたが、
「……分かった。」
そう短く答えた。
深雪はポケットから一本の銀色のヘアピンを取り出す。
「レオン。」
「これ。俺とお前のだ。」
レオンが黙って受け取る。
「ポルガンから預かってた。」
ポルガンが頷く。
「そのヘアピンは深雪の物と対になっている。」
「互いに了承していれば、離れていても会話ができる。」
「必要なら互いの場所へ飛ぶことも可能だ。」
レオンは髪へ挿し、小さく微笑んだ。
「ありがとう、ポルガン。」
今度はパンダが首から提げていた四つのペンダントのうち、一つを外す。
「レオン!」
パンダはつま先立ちになり、両手でペンダントをレオンの首にかける。
レオンは静かに身を屈めた。
パンダの指先が首筋に触れると、レオンが小さく息を飲むのがわかった。
「ふふ。使い方、分かるにゃ?」
「ああ。念じるだけだろ?」
「うん。本当に危なくなったら、無理しちゃ駄目にゃ。」
パンダはレオンのペンダントをそっと握る。
「千葉にいるパンダの所へ飛んで逃げてくるにゃ。」
「リアとナルも待ってるにゃ。」
パンダの声が少し震えた。
不安を隠しきれずに、レオンの胸に額を軽く押しつける。
「約束する。」
レオンは優しくパンダの背中に腕を回し、ぎゅっと抱き寄せた。
大きな手で後頭部を撫でながら、耳元で囁く。
「心配をかけるな。俺は大丈夫だ。」
「パンダのくれた魔道具があるから、絶対に無茶はしない。」
パンダは顔を上げ、レオンの瞳をじっと見つめた。
青くて優しいその瞳に、胸がきゅんとする。
「……約束、だにゃ?」
「ああ、約束だ。」
パンダはそっと目を閉じ、レオンの頰に柔らかい口づけを落とした。
一度だけじゃ足りなくて、もう一度、ゆっくりと唇を押し当てる。
レオンもパンダの腰を引き寄せ、額に、頰に、そして軽く唇にキスを返した。
甘く、温かい時間が少しだけ流れる。
「必ず帰るよ。」
「待ってるにゃ……レオン。」
パンダはレオンの胸に顔を埋め、もう一度ぎゅっと抱きついた。
レオンもその小さな体を包み込むように強く抱きしめ、髪を優しく撫で続ける。
周囲の視線を少し感じながらも、二人はしばらく離れようとしなかった。
ポルガンは気を遣ってそっと視線を逸らし、
深雪は苦笑しながら頭をかいた。
「……さて。」
「俺達も準備するか。」
法王の声が訓練場に響く。
『では、法王庁で待っておるぞ。』
初めての実戦。
レオンは新たな魔道具を身につけ、仲間達と共に法王庁へ向かうのだった。
レオンです。
やっとパンダにあえた。
前回、意地悪してごめんねパンダ。
チュ!
許してやるにゃ♡
パンダ




