第99話 変態神具!?封印か!!
2031年11月22日 土曜日。
ポルガンの誕生日まで、あと1ヶ月と25日。
精神と時の空間
260日目。
時の間に居られる時間、あと226日。
――地球・日本。
「パパー! はやくー!」
「待てって桜子。そんな引っ張ったら転ぶぞ」
久しぶりの地球。
深雪は普段着姿で、まき、フェイ太郎、桜子と並んで歩いていた。
四人は横一列になり、仲良く手を繋いでいる。
桜子は嬉しくて仕方がないらしく、深雪の手を握ったまま何度もぴょんぴょん跳ねていた。
「久しぶりだな。家族と一緒の休みって。……六時間しかないんだけどな」
深雪が苦笑する。
「時の空間じゃ二日もあるんだから、十分でしょ?」
まきが笑った。
「オイラも家族ミャよ!」
「ああ。分かってるよ、フェイ太郎」
「桜子も家族ー!」
「お前は当たり前だろ」
「えへへー!」
深雪は笑いながら桜子の手を握り直した。
このところ、魔法の訓練、踊りの練習、撮影、花火大会の準備と、毎日のように予定が詰まっていた。
深雪は精神と時の空間にいるとはいえ、こうして何も考えず、外世界の家族と一緒に外を歩く時間はほとんどない。
今日は久しぶりに、パンダの計らいで深雪は六時間だけ地球で過ごせることになった。
目的は、まきの妊婦健診。
深雪にとっては、久しぶりの家族との休日でもあった。
「終わったら飯食って帰ろうぜ。せっかく地球に来たんだし」
「ダニーズ行きたいミャ!」
「フェイ太郎、お前それさっきも言ってなかったか?」
「さっきはさっき、今は今みゃ。」
四人は笑いながら産婦人科へ向かった。
◇ ◇ ◇
到着したのは、芸能人や著名人も利用することで知られる産婦人科だった。
プライバシーにも配慮されており、院内はホテルのラウンジのように落ち着いている。
受付を済ませ、四人で待合室へ向かう。
深雪が椅子へ座ろうとした時だった。
「あの……もしかして、深雪さんですか?」
「え?」
声をかけてきたのは、妊娠中らしい綺麗な女性だった。
深雪もその顔には見覚えがある。
「あれ? 柚子さん?」
「やっぱり!」
元アイドルの柚子は嬉しそうに笑った。
「旦那も私もファンなんです。いつもテレビ見てます」
「ありがとうございます」
深雪は慣れた様子で笑顔を返した。
「私、アイドル時代から深雪さんの番組好きだったんですよ。最近は異世界の番組も見てます」
「ああ、ありがとうございます」
「この間の衣装も……すごかったです」
「…………衣装?」
「はい。あの神様からもらった衣装。すっごく綺麗でした」
「あ……ああ」
「深雪さん、本当に綺麗ですよね。羨ましいです」
「いやいやいや! 何言ってるんですか!」
深雪は笑って否定した。
「柚子さんのほうが綺麗ですよ」
「そんなことないですって。旦那まで『深雪、綺麗だな』って言ってましたもん」
「……旦那さんも?」
「はい!」
「そ、そうですか……」
柚子は悪気などまったくない。
むしろ純粋に褒めている。
だから深雪も笑顔で対応した。
だが――。
なんとなく気になった。
待合室に戻って座る。
すると、先ほどまでは気にしていなかった周囲の視線が、妙に気になり始めた。
女性がこちらを見ている。
付き添いで来ている男性も、時々こちらを見ている。
目が合うと頬が赤くなって、パッと逸らされる。
しばらくすると、また見られる。
「…………」
なんだ?
俺、そんなに見られてるか?
芸能人だから?
いや、それなら今までだって何度もあった。
でも、なんか違う。
何人かがこちらを見ながら、微笑んでいるようにも見える。
深雪は自分の服を確認した。
今日は普通の服だ。
あの神衣ではない。
どこにも変なところはない。
「深雪?」
「ん?」
「呼ばれたわよ」
「あ、悪い」
まきに声をかけられ、深雪は立ち上がった。
診察室へ入ると、それまでの妙な違和感は吹き飛んだ。
「こちらが赤ちゃんですね」
「おおっ!」
画面に映し出された赤ちゃんを見て、深雪が身を乗り出す。
「すげえ! こんなにはっきり見えるの!?」
今回見せてもらったのは、3Dフルカラーエコーだった。
立体的に映し出された赤ちゃんの顔を見て、少しだけ大きくなったお腹にエコーを当てられた、まきも嬉しそうに笑う。
「ちゃんと顔が分かるわね」
「鼻、俺に似てねえ?」
「まだ分からないでしょ!妊娠三ヶ月だよ」
「いや、絶対俺だって!」
深雪は興奮気味に画面を覗き込んだ。
「順調ですよ」
医師が笑った。
「大きさも問題ありません」
「よかった……」
まきが安堵したようにお腹へ手を当てる。
深雪も隣からそっと手を重ねた。
「元気なら、それが一番だな」
診察が終わると、エコーのデータを深雪たちのスマートフォンへ転送してもらった。
「来た来た!」
「見せて!」
深雪は何枚も画像を開いては拡大した。
「これ、精神と時の空間に戻ったらみんなに見せようぜ」
「そうね」
四人で盛り上がりながら病院を後にした。
◇ ◇ ◇
健診を終えた深雪たちは、そのままダニーズへ向かった。
「オイラ、ハンバーグミャ!」
「桜子は季節の果物のパフェ!」
「先に飯食え!」
久しぶりの外食。
深雪もメニューを眺めながら、ようやく肩の力が抜けてきた。
――はずだった。
「…………」
まただ。
隣の席のカップルが、時々こちらを見ている。
目が合うと、もじもじして慌てて逸らす。
「…………なんなんだよ」
「どうしたの?」
「いや……なんでもない」
料理が運ばれてきても、深雪は落ち着かなかった。
病院でもそうだった。
ここでもそうだ。
気のせいだと思いたいのに、視線だけが妙に刺さる。
「なあ、まき」
「なに?」
深雪はフォークを置いた。
「やっぱりさ……神様から貰った、あの服……ちょっとアレだよな?」
まきの手が止まった。
「あの神衣?」
「うん」
「……まあ、ちょっと目立つわね」
「やっぱり!?」
深雪の声が大きくなる。
「しっ!」
「悪い……」
深雪は小さくなった。
「俺さ、最初は魔法強くなるならいいかと思ってたんだよ」
「うん」
「でもさ、テレビにも出たし……なんか男まで俺見てる気がするんだよ」
「考えすぎじゃない?」
「そうかな……」
「オイラは可愛いと思うミャよ」
フェイ太郎がハンバーグを頬張りながら言った。
「パパはいつもかっこいいよ!」
桜子も笑う。
「……ありがとな」
深雪は桜子の頭を撫でた。
だが、どうにも腑に落ちない。
隣のカップルを見る。
また目が合った。
男性が慌てて逸らす。
「…………」
深雪は頭を抱えた。
「やっぱ絶対なんか変だろ……」
◇ ◇ ◇
六時間後――。
深雪は一人で精神と時の空間へ戻ってきた。
「おかえり」
レオンが迎える。
「まきちゃんは?」
「地球で休んでる。桜子とフェイ太郎も一緒だ」
「……そうか」
レオンが軽く肩に手を置く。
その瞬間――。
パシッ!!
深雪が手を振り払った。
「触るなって!」
「え?」
レオンが固まる。
「俺、今日ちょっと色々あって機嫌悪いんだよ!」
「何があったんだよ!?」
そこへパンダが現れた。
「どうしたにゃ?」
「俺もうあの神衣着ないからな!」
「にゃ?」
「絶対だ!」
パンダはスマホを取り出した。
「門番の神様に聞くにゃ」
「お前ほんと何でも繋がってんな!」
パンダは慣れた手つきでDMを送る。
『深雪が神衣嫌がってるにゃ』
数秒後。
既読。
返信。
「……俺は可愛いと思うけどな、だってにゃ」
「そこじゃねえんだよ!!」
深雪の叫びが空間に響いた。
「可愛いかどうか聞いてねえんだよ! 俺、今日男にまで頬赤くして見られたんだぞ!」
「男に?」
レオンが目を丸くする。
「産婦人科でもダニーズでもだよ! 女だけじゃねえんだよ! 男まで俺のことチラチラ見て、目が合ったら顔赤くして逸らすんだよ!」
「…………」
パンダはスマホから顔を上げ、深雪を見た。
「深雪、それ嫌だったにゃ?」
「嫌に決まってんだろ!」
深雪は顔を真っ赤にした。
「俺、そんなつもりであの服着てたんじゃねえよ! 神様から貰った有難い神具で、魔法が強くなるっていうから着てただけだぞ!」
「そうだったにゃね……」
「しかもテレビで世界中に流れてんだぞ! 俺、ずっとあんな目で見られてたのかと思ったら……もう無理!」
深雪は頭を抱えた。
「恥ずかしくて外歩けねえよ!」
レオンが心配そうに近づこうとする。
「深雪……」
「だから今は触るなって!」
「分かったよ!」
レオンは慌てて両手を上げた。
パンダはしばらく深雪を見つめたあと、小さく頷いた。
「……まあ、パンダもやっぱり、あれはやりすぎだと思ったにゃ」
「だろ!?」
「似合ってはいたにゃよ」
「そこは否定してくれよ!」
「似合うのと、やりすぎなのは別問題にゃ」
「嬉しくねえ!」
その時、パンダのスマートフォンが鳴った。
「あ、また返事来たにゃ」
「なんて!?」
深雪がパンダの横から画面を覗き込む。
門番の神からの返信だった。
『あの神具、思っていた以上に深雪の潜在能力を引き出している。力は確かにある。魔力の上がり方もかなり早い』
「ほら! やっぱり効果はあるにゃ」
「だからって着ねえぞ!」
「まだ続きあるにゃ」
パンダが画面をスクロールする。
『ただ、毎日着るようなものじゃない。本当にここぞという時だけ使えばいい。普段から着ていると、周りも深雪本人も疲れるだろう』
「…………」
深雪が黙った。
レオンも画面を覗き込む。
「神様も分かってたんじゃないか」
「だったら最初から言えよ!!」
深雪が叫んだ。
「俺、毎日着るもんだと思ってたんだぞ!」
「説明不足だったにゃね」
「説明不足で世界中に恥さらしたんだよ!」
再びスマートフォンが鳴った。
「また来たにゃ」
『俺は可愛いと思うけどな』
「だからそれはもういいんだよ!!」
深雪は頭を抱えた。
「決めた! 封印する!」
「にゃ?」
「あの神衣、封印! もう着ない!」
「それは駄目にゃ」
「なんでだよ!?」
「ここぞという時には着ろって神様も言ってるにゃ」
「ここぞっていつだよ!」
パンダは少し考えた。
「世界が滅びそうな時とか?」
「世界が滅びる時限定かよ!!」
「そのくらいなら我慢するにゃ」
「俺の羞恥心と世界を天秤にかけるな!!」
レオンが吹き出した。
「笑うなレオン!」
「ご、ごめん……」
「お前もしばらく俺にベタベタ触るなよ!」
「なんで俺まで!?」
「なんか今日は男に触られると変に意識するんだよ!」
「僕のせいじゃないだろ!」
「分かってるよ!」
深雪は真っ赤な顔のまま叫んだ。
パンダはそんな二人を見ながら、スマートフォンをポケットへしまった。
「じゃあ神衣は、普段は封印で決まりにゃ」
「絶対だからな!」
「ただし――」
パンダはニヤリと笑った。
「世界の危機には封印解除にゃ」
「絶対、世界平和にしとけよ!!」
「ミカエラにも説明してくれよ!パンダ!」
深雪の切実な願いが、精神と時の空間に響き渡った。
深雪です。
やっぱり、そう言う目で見られてたってことだろ?
アイドルって大変なんだな。




