第97話 花火演出班、始動
精神と時の空間――花火演出工房。
広い工房の中央では、隅田川花火大会で長年活躍してきた花火師たちが、大きなテーブルいっぱいに設計図を広げていた。
色鉛筆で描かれた花火の軌道。
打ち上げ順。
音楽とのタイミング。
CG映像を確認しながら、細かな修正が続く。
その時だった。
シュンッ――。
どこでもゲートが静かに開く。
「みんな連れて来たにゃ。」
パンダが笑顔で姿を現す。
その後ろから、数名の長岡花火師たちと土浦の花火師たちが工房へ入ってきた。
「長岡花火チームです。本日はよろしくお願いします。」
花火師たちが一礼する。
さらに、その後ろには横坂訓練基地で選抜された折り紙班二十名。
全員が敬礼した。
「折り紙班、到着しました!」
続いて、レーザー演出班。
「よろしくお願いします!」
さらにドローン演出班。
「最高のショーを作りましょう!」
工房の空気が一気に華やぐ。
「これで日本最高峰の演出スタッフが揃ったにゃ。」
パンダが満足そうに頷いた。
その時――。
工房の扉が勢いよく開く。
「お待たせー!」
「来たよー!」
ナルとリアだった。
パンダは二人を見るなり額に手を当てた。
「駄目にゃよ! 家族通信用ネックレスをあちこちに放置したら。ちゃんと着けてるにゃ!」
「あっ……。」
二人の顔が固まる。
「ご、ごめんなさーい!」
「通信できないから、ポルガンに頼んで二人を呼びに行ってもらったにゃ。忙しいのに手を止めさせちゃったにゃよ。」
「ごめんなさい……。」
パンダは取り寄せ手提げから、二人の家族通信用ネックレスを取り出した。
ナルとリアは慌てて首から家族通信用ネックレスを着け直した。
「今度から気を付けます!」
「よろしいにゃ。」
パンダが笑うと、工房の空気も和んだ。
リアは長岡の花火師たちを見つけると、目を輝かせる。
「わぁ! 長岡の花火師さんだ!」
長岡の花火師が微笑む。
「知ってくれているんだね。」
「もちろん!」
リアは元気よく頷いた。
「長岡もパパが毎年ホテルを借りて観に連れて行ってくれるの! すっごく綺麗で、大好き!」
「ナルも花火だーい好き!」
二人の言葉に、長岡の花火師たちは嬉しそうに顔を見合わせた。
一人が優しく笑う。
「ありがとう。」
そして、ナルとリアの前にしゃがみ込んだ。
「でもね――。」
二人は首を傾げる。
「今度は君たちは見る側じゃない。」
工房中が静まり返る。
「打ち上げる側だよ。」
「えぇーーっ!?」
「ナルたちが!?」
花火師たちは笑顔で頷いた。
「私たちが演出を考える。」
「折り紙班が魔法媒体を作る。」
「レーザー班が夜空を彩る。」
「ドローン班が立体演出を担当する。」
「そして君たち二人が、芸術魔法で世界最高の花火を咲かせる。」
ナルとリアは顔を見合わせた。
次の瞬間。
「やるーーっ!!」
「世界一きれいな花火を作るー!」
工房中に大きな拍手が響いた。
隅田川、長岡、土浦、そして全国の技術者たち。
日本最高峰の演出チームが、今、一つになろうとしていた。
精神と時の空間――踊りの訓練場。
深雪とレオン、そして四十八人の踊り子たちは、五十嵐と振付師の指導を受けながら振り付けの練習を続けていた。
音楽が止まる。
そこへ、ビデオカメラを抱えた高橋が駆け込んできた。
「三角ディレクター!」
「なんだよ、高橋。」
深雪が額の汗を拭いながら振り返る。
「今日の夜、花火演出班の本番を想定した演習があるそうです。」
「本番の演習?」
「はい。長岡と土浦の花火師さんたちも来て、ナル君とリアちゃん達が実際に花火を上げるそうです。」
その言葉に、踊り子たちが一斉にざわめいた。
「花火見られるの?」
「長岡と土浦の花火師さんまで来るの?」
「すごい!」
高橋は嬉しそうに頷く。
「せっかくなので、皆さん浴衣を着ませんか? 花火と一緒に撮影したいんです。」
「浴衣か!」
深雪は途端に乗り気になった。
「いいじゃん。踊り子全員で着ようぜ!」
「それに!撮影スタッフ、もっと増やそう!東京から呼べ!」
「今日は演習だけど、テレビ特番レベルで撮るぞ!異世界はやる事が派手だからな!」
レオンは少し困ったように笑う。
「僕も着るのか?」
「当たり前だろ。お前、最近ずっと地味な鍛錬と魔法の研究ばっかりじゃねぇか。」
深雪はレオンの肩を叩いた。
「たまには遊べ。」
「三角ディレクターの言う通りです。」
高橋も真剣な顔で頷く。
「花火を見上げるレオンさんと三角ディレクターと五十嵐さん達を、どうしても一緒に撮りたいんです。」
深雪は呆れながらも、どこか嬉しそうに笑う。
「しょうがねぇな。じゃあ今夜は全員浴衣だ!早速、キーキーちゃんと蜻蛉君に浴衣のデザイン頼もうぜ!」
「おー!」
四十八人の踊り子たちが歓声を上げた。
「せっかくなので、魔獣達も連れてきて良いですかね?花火見せてあげたいです!」
「今夜はココヌとガスタでパーティ用の食材の詰め合わせ頼んで、生ビールも用意しましょうか!」
高橋がテキパキと提案する。
「高橋君!魔獣と花火いいねー。それに俺美味しい刺身も食いたいです。」
深雪が大喜び。
「刺身なら、俺の知り合いに心当たりがあります!日本時間だと今は朝だから、一時間付き合って貰う位ならなんとかなると思いますよ。」
「確かレオンさんは東京にもマンション借りてますよね?そっちに配達させましょうか?それとも寿司職人呼びますか?」
五十嵐も提案する。
「五十嵐さん、最高です。」
深雪、踊り子達大喜び。
「本番では我々も演出側ですから、ゆっくり鑑賞はできませんからね。」
「演習でも、ド派手にあげて貰うように花火班に頼んでおきますかね。」
五十嵐が笑いながら言った。
その頃、花火演出工房では、長谷川が夜の演習に備えて花火撮影専用の機材を黙々と調整し呟いた。
「最高の夜になりそうだ。」
またもや、カメラを持つことになる音声の長谷川と照明の西田だった。
深雪が言うにはカメラマンが圧倒的に足りないから、仕方ないとのことだった。
娘娘です。
すっかり存在を忘れられてるみゃ。
ポルガン様達と、
打ち上げ花火楽しみにしてるみゃ。




