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寝巻き姿

 宴会翌日の朝。チェレーゼは二日酔いの兆しもまるでなく、いつもと同じ時間に起きて、「おはようございます」と言いながらお茶を淹れていた。ゆっくり飲んでいたつもりの私はすこし頭が重いのに、数倍は飲んでいたであろう彼女がなぜ平気なのだろう。やはり本当はザルで、あのほろ酔いはすべて演技なのだろうか。そう聞いたら彼女はくすくすと笑って、「良いサプリメントを教えてあげますよ」と言ってくれたけれど、サプリメントだけでは絶対に説明がつかない。


「日曜礼拝に行ってきますから、軽く体操でもして、着替えてくださいな。そのお茶は二日酔いに効きますよ」

「体操? 本気? 健康的すぎるって」

「ソメヤ様は地球でも少々乱れた生活をされてましたからね。タイピングもいいですが、夜更かしはほどほどにしないと。直近で自己ベ更新したときなんて、朝4時まで粘着して……」

「まって、私生活のどこまで見られてたの!?」

「……どこまででしょうね?」


 チェレーゼは意味深に微笑み、出ていった。直近の自己ベスト更新は、たしか、召喚される2日前のことだ。日曜の夜から月曜の朝4時まで粘着して、そのまま仕事に行って、すこし残業して2時ごろまでタイピングして、寝て、仕事して、タイピングして、限界まで眠くなったところで……あの広告をクリックして、私はここにいる。


 どのぐらい細かく観察されていたのだろう。自己ベストに1ポイント届かず、しかし壁が薄いので声を上げることもできず、頭を掻きむしりエナジードリンクを飲んでしまった(このせいで朝の4時まで眠りたくても眠れなかった)様子も見られていたのか。いや、それならまだいいが、タイピングに関係ないような部分まで見られていたとしたら……。あまりいい気分ではないな……。どうしよう、あんなことやそんなことまで……。


 変な方向に思考が飛びそうになった瞬間、チャイムの音が鳴った。頭痛が悪化しそうだったので助かる。とはいえ、下手に出るわけにもいかない。足音を忍ばせながらそうっとカメラを確認すると、ピグトニャがいかにも二日酔いという不機嫌そうな顔で写っていた。ピグトニャならいいか、とドアを開ける。


「どしたの?」

「あぁ、ソメヤ、ちょっと野暮用で……!? んんっ……あの、着替えず出てくるとは思わなかった。朝早く失礼」

「はい?」

「……姉さんに習ってないのか?」


 ピグトニャは慌てた様子で後手に玄関ドアを閉め、鍵をかけ、私からあからさまに目を逸らす。


「あのな……少なくともピグイタンでは、家族以外の男には寝巻き姿を見せない……それも……下着をつけていないと分かるような格好は、絶対にしない」

「え?」


 私は自分の服装を見つめた。寝巻き姿を見せない、はピグイタンの文化だろうけども……問題は後半部分だ。


 最近のピグイタンは暑いので、チェレーゼが貸してくれる寝巻きも、やわらかくて薄いシャツだ。チェレーゼの好みなのか、文化なのか、ほとんどが無地で、薄い色である。男性の前だと確かに、宅配便とか一瞬の応対ならまだしも……家に招き入れるとなると、それなりに不適切というか、性的な好奇心を悪戯に刺激しそうだ。というか、よく見ると普通に透けている気がしてきた。ピグトニャからどう見えたのかはわからないが、日差しが当たるとだいぶまずい可能性もある。そういえば毎朝毎朝、休みの日だとしても、「寝巻きのままはよくないですよ」と着替えさせられていたな。変なこと考えてないで、言われたとおり、体操して着替えておけばよかった。


 しばらくフリーズしながら色々考えた末、私はあまり気にせずに済ませることにした。過ぎたことは仕方がない。裸を見られたわけでもあるまいし。地球によくいる、シャツが透けていて見ているこっちは気まずいおじさんたちも、いちいち恥ずかしがりはしないのだから。彼らの精神に倣おうではないか。


「あー、ごめん、着替えてくる」

「こちらこそ突然訪ねてすまん。別に急いでないから……」


 私の反応が、一切の恥も驚きもなさそうだからなのか、ピグトニャが不思議そうにぼそりとつぶやいた。


「……文化の違いか?」


 私のずぼらな性格の問題だけど、口にはしなかった。実のところ、指摘されてから、一気に気まずくなったので。

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