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初試合

 ピグトニャの言うことは本当だった。テスの敗北後、ピグトニャは副将まで一瞬で討ち取った。実況さえ追いつかないほどに。しかも、物理キーボードで突っ立ったまま動かないという煽り付きで。


「さすが我らがピクトニャ・イグノジィィッ! 大神官ファーザー・エイリムの息子、勇者パーティの一員、今やこの国最高峰の男ォーッ!」


 キーボードをしまう彼に、対戦相手が尋ねる。


「なぜ……なぜ、お前が大将じゃない? 毎年、大将だっただろ」


 その質問に興味を示した実況者は、大画面にピグトニャの顔と、今までの戦歴を映し出す。


「確かに! 我らがピグトニャ選手、初出場から大将の座を他に譲ったことはありませんでした……今回を除いて! これだけ強い男が大将でないのは何故なのか……策略か、まさかの引退とか……!? ピグトニャ選手、理由をお聞かせください!」


 質問の答えを聞こうと、観客は皆押し黙る。わずかな衣擦れの音さえなくなり、静寂が訪れた瞬間……彼は言葉少なに答えた。


「簡単なこと……今、ここに」


 長い腕、細い人差し指が、私を指し示す。今大会が初出場の……バラーズ・ジム・プロチーム大将、ソメヤ・イストゥールを──


「──俺より強い奴がいる」


 会場は湧き立ち、カメラは私をズームした。チェレーゼがコソコソと、がんばれ! と応援してくる。


「あー、はは。どうも」

「これがっ! ピグトニャが認めた選手! 名前はソメヤ……イストゥール、なんと、プロ登録から1ヶ月も経っていません! 完全無名の選手です!」


 大将戦が始まるとのことで、私は指示されるがままリングへ降りていく。緊張で心臓を口から吐きそうだ。


[音声はオフにしますね、ソメヤ様。反則になっちゃうので]

「ああわかった、ども、がんばるよ……」

[ソメヤ様、ひとつだけ]


 私は不自然に思われないよう、あえて声の元を見ず、まっすぐ歩く。


[あなたなら絶対、大丈夫]


 チェレーゼ本体がいるらしい来賓席を見ると、遠くて表情は読めないがこちらに手を振っているのがわかった。私も少し緊張が解けて、軽く手を振る。チェレーゼに大丈夫と言われると、なんだか大丈夫な気がしてくる。


「それでは、ルースジム大将、平均速度S5! 安定度は随一、ルース・イグール選手と……無名の新人、データ一切なし! バラーズ・ジムの秘蔵っ子、ソメヤ・イストゥール選手……いま、両者握手して……」


 実況の声が響く中、私たちはほとんど会話さえせず相手の手を握る。


「試合、開始!」

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