テス・バル
「先行はそっちか。ルースジムの……イシューさん」
「キミはまだ若いね。10代かな? 相当な実力者とお見受けした」
「子供だからって舐めないでね……まあまあ、それなりに強いから」
テスは防御魔法の準備をする。試合はターン制だが、どんな魔法を使っても良いのが、ソメヤの初試合と異なるところである。つまり、防御魔法として吸収魔法を組み合わせてもいいし、攻撃魔法に攻撃魔法を加えることで相殺して防御してもいいのである。禁止事項は、防御側が明確な意思を持って相手へ攻撃をかけること……これだけだ。
テスの防御魔法は少し変わっている。それはテスの天啓が大きく影響している。テスの天啓──<固有魔法:イクオリティ>は、すべての力を均等に均してしまう。攻撃魔法へ固有魔法を加えたら、同じだけの吸収魔法として自動的に働き、魔力は無へ還る。反動として、自身のステータスもほとんど差がなく、一定に成長する……そのため彼女は、どこかで力が止まってしまうと、他の力も伸ばせない。速度を上げなければ、魔力量も増えず、魔力量が増えなければ、速度も上がらない……正確に言えば、上がっても、ステータスとして現れてこないのだ。
テスは大いに嘆いた。神様との秘め事だから、誰にも相談できず、祈ることしかできなかった。神様、どうしてこんな力をお与えになったのですか。神様、私にたったひとつでも、特別な賜物をくださいませんか……幼い少女のその願いは、聖霊の囁きにより覆された。
──そうだ。全てを平等にできるなら……。
そうして彼女の固有魔法が、完成へと導かれてゆくのを感じた。ある一点の高みへと。
どれだけ強い攻撃魔法を加えられても、全てを彼女の防御魔法と同程度にする天啓……勝てもしないが負けもしない、そんなユニークな魔法。初見の相手は必ず動揺する。自身の力いっぱいをぶつけたのに、向こうから手応えを感じないからだ。防御でも、相殺でも、何かしら自身の魔力とぶつかり合い、反応する感覚が普通はある……なのに、何もない。虚空に吸い込まれたように。
「……ふふ、じゃあ、こっちの番ね」
その困惑を叩き潰す。相手に実力を誤認させる。自分と同等か、自分には読めないほどの強者だと思わせる。つまりははったりで、相手に隙を作る。
「均せ……身体からの解放」
口承とタイピングを組み合わせることで、空気中の魔力素子に、より強く意思が伝わる。自分のやりたいことを、より強く強くやろうとしてくれる。しかし聞かれることで、自分の行動を読み取られやすくなるリスクもある。
──でも、私の固有魔法は、一度や二度じゃ見破れない。
「うっ、なんだこれ」
防御をすり抜けて体力を均等に慣らす……体力の高そうな相手にはよく効く魔法だ。テスの身体能力は高くはない。それを相手の魔力を吸収し、自分と相手が平等になるまで奪うことで補う。その魔法は天啓の特性により、一般防御魔法如きは相殺して貫通する……これがテスの、<固有応用魔法:身体からの解放>。
ピグトニャは、相手は吸収に弱いと言っていた。しかし、テスはあまり吸収魔法が得意ではない。だが身体からの解放だけは違う……どんな吸収魔法の名人よりも、容易く、瞬時に、体力を吸い取る。
「さっきの試合、見てたよ、やるじゃん。でも戸惑ってる暇ないかんね〜!」
「どこに隙があった……いや、今は防ぐしかない、焦るものか」
体力を得たテスは大きく飛び上がり、ギョッとする相手へ次々と攻撃魔法を打ち込んだ……単純な基礎魔法ばかりだが、そのひとつひとつが、彼女の中で最強の魔法と同等に強い。見た目だけで判断すると、防御魔法に失敗し、打ち破られる。神様はデバフなど与えはしない……これは私が……私が与えられた、賜物! 私はガラスの天井を与えられたのではない……私の中の最も高みまで、苦手さえ引き上げる力を与えられたのだ!
これに成功しているのは、基礎魔法だけの話である。いくら魔力を強めても、速度を強めても、全体の強さとしては、まだステータスに現れていない。しかし彼女は確信している。このまま研鑽を積んでいたら……下の方ではなく、上の方が、私の力として神に認められ、全てが引き上げられる瞬間が来ると!




