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化け物

 私は物理キーボードを顕現させ、ひとまず<発散>の呪文書を選ぶ。選び方はなんとなくでわかった。UIがいいのか、エデンの言語のおかげかはわからない。ただ、入力画面を前にすると、天啓を授かった時と同じように意識が研ぎ澄まされていく。


 ワードはどんどんと出てくるが、まるで、地球のタイピングゲームのような日本語の単語だったので、困惑した。呪文を覚えるのではなかったか? 呪文というにはらしくない。まあ、いいか、あとで聞こう。これならむしろ、打ちやすい。


くつした(kutusita)カマキリ(camakiri)真ん中(maxnnaca)……」


 ひとつ打ち切るごとに、純粋な魔力がアマリの方へ向かっていく。アマリは防御魔法でそれを阻止するが、私はどんどんと畳み掛ける。ごくごくシンプルなゲームだが、体全体にビリビリと響き渡る臨場感のおかげで、物凄く面白い! 楽しくなってきた私は、さらに打つスピードを上げた。打つたびに火球のような、純粋なエネルギー体とでも呼ぶべき塊が飛んでいき、私の体から放出されていく感覚があった。多分やりすぎると疲れるんだろう……しかし、まだまだいけそうだ。よく画面を見ると、「短文」「中文」「長文」というジャンルがあるのがわかった。今は「短文」になっている。えい、と長文にしてみると、今までとは比べ物にならないほど長い文章が出た。打ち切ってみると、今までの攻撃が火の玉だとしたら、火柱ぐらいの攻撃が出る。なるほど、打つ量にも攻撃力は依存するのね。


<ターン終了。正確性97%。速度S3。累計ダメージ:計測不能>


 突然文字列が現れ、私のターンは終わった。集中が途切れた瞬間、砂埃のようなものがドームに蔓延していて視界が塞がれていることに気がついた。それが落ち着くまでの間に用意すればいいのか、次は防御か……、と手を構えると、やっとアマリの姿が見えた……私はひっ、と声を上げた。


 彼は血まみれで、膝をついていた。


「試合中止! 中止です!」


 バルが割って入り込み、ドームが解除される。すると審判以外の声も聞こえるようになり、周りのざわめきが耳を刺した。いきなり音がしたからか、きいん、と、耳が痛くなる。


「アマリさん!」


 チェレーゼが観客席を飛び越えて、一瞬浮遊し、アマリの方へ着地する。魔法だろうか。


「ヨーソリー・ピグイタン、天にまします私たちの父よ、彼の傷を癒やしたもうて、あなたは慈悲深き、ああ、唯一の……」


 チェレーゼはなにやらかちゃかちゃと必死に打ちながら、口でも呪文を唱えている。困惑して立ち尽くす私に、バルがもっと困惑した顔で歩いてきた。


「……想像以上でした。あなたの才能は速度じゃなくて……その体内に渦巻く魔力を、効率よく使う力……魔力を使うための体、そのものにあったのですね。床を見てください」


 指さされ、私は初めて床を見た。私の周囲1m……つまり、私の防御魔法がおそらく自動でかかっていた範囲以外の地面、硬い岩でできたリングが、全て砕け散り、地面まで晒していた。私に地面を攻撃した記憶はない……バルは、あなたの魔力が溢れかえり、地を荒らしていたのだと教えてくれた。それから周囲を見渡すと、皆一様に怯えた顔をしていた。私が一歩踏み出すと、ひっ、と声が聞こえてくる。助けを乞うようにさらに別の方向へ振り向くと、観客席の誰かがこう呟いたのが聞こえた──


──「化け物」、と。

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