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だいふく

 魔道具屋さんで奇跡的に、地球での愛用品に近い打ち心地のものを見つけて、私のテンションは最高潮だった。


「さいっこう! 打ちやすすぎる! 小指が軽いのも本当にありがたい……あとカスタムパーツとか多いね、こんなものなの?」

「そりゃあ、ここはピグイタン王国、タイピストの国ですから。どこだってこの程度の品揃えは当たり前です」

「ねえこっちは重めのキーもある!」

「決めたなら早く行きますよ、予算は物理キーボード1個、非物理キーボード1個分です」

「はあい……」


 領収書をきっちりもらって、ありがとうございましたー、という声を背に外へ出る。チェレーゼからキーボードを顕現・非表示にする魔法を教えてもらい、非物理キーボードは常に顕現させておくように教えられた。


「普段は使わずとも、常に打てるようにしてください。立った姿勢、走ってるとき、瞬時に自身の手元へ滑らせ、高速で打ち切る……それが必ず必要になってきますし、私みたいに目立たずしれっと魔法を使いたい時にも必要です」

「わかった」


 非物理キーボードは、使用者以外からの視界をオフにすることもできるらしく、今は私以外には見えていない。打ちにくそうだと思ったが、意外としっかり押す感覚がある。スマートフォンのフリック入力と同じか、と思うと納得した。


「それで物理キーボードの方ですが、この袋にしまってください。見た目よりも大容量ですから」

「ふーん、四次元ポケットみたいな」

「えっと……多分近そうな概念ですね。面倒なので説明は省きますが。呼び出す時の呪文は、"take_固有名詞"です。だからキーボードに名前をつけてあげてください。ちなみに私のこの子は、"かたかた"です」

「そんな打鍵音そのままの名前ある?」

「数字とかで管理する人もいますけどね。お好みで」


 私はキーボードを見つめ、ううん、と考えた。わずかに求肥のようなニュアンスを含むホワイト、スコスコとした打ち心地、我が家の昇降式デスクにいつも鎮座していたあの子、その下をころころと走り回っていただいふく……。


「だいふく。この子の名前はだいふくにするっ!」

「だいふく……て、なんですか?」

「お菓子だよ、うちの国の。もちもちしてまるっこくて、そんで、私が家に残してきたペットの名前ーっ!」


 ま、ロボットだけど。とは言わず、チェレーゼの方を見ると、少し申し訳なさそうにしていた。


「ああ……そうですよね。不安ですよね。大丈夫です、召喚した瞬間の時間にお帰ししますから。だいふくちゃんを心配することはありません」


 そう言われるとほっとしたが、じゃあ、いま確実に私がいないはずの地球はどうなっているんだ……? と考えると怖気がした。いや、考えても仕方ないことなのかもしれない。それに、だいふくちゃんはロボットだから、私がいなくなっても、電池が切れて眠るだけだ。


「ま、まぁ、それならいいけど……。とりあえず行こっか、ジム」

「もうついてますよ」

「うわぁっ」


 知らず知らずのうちにそれなりに歩いていたらしい。『バラーズ・ジム』の看板が、堂々と鎮座している。中に入って昨日と同じ受付嬢と目が合うと、こちらが何も言わなくてもバルを呼んできてくれた。


「おお、チェレーゼ神官様とソメヤさん! お待ちしておりましたよ。うちのプロたちがソワソワしてまして」

「あら、もう聞いてるんですか? この方を国の命令でプロチームに推薦すると」

「ええ。ただでさえ熾烈な争いを繰り広げてきたうちのプロたち、大会も近くてピリピリしてたところに、昨日天啓を受けたばかりの田舎者がくる……って聞いたんだから大騒ぎですよ。口で宥めてもダメでねえ。まあ、ソメヤさんがうちの奴らをボコボコになぎ倒せばいい話です、はは! 実力主義ですからねえ、うちは」

「わ、私いきなりそんな強い人と戦わなきゃいけないわけ……?」


 健闘を祈ります、とチェレーゼは私の背中を押す。いやなんか説得してくれるんじゃなかったのかよ。


「もしソメヤ様がボロッボロに負けたら私の出番なので、呼んでください」

「ははは……」


 そういうことですか。はいはい、と震えながらも、すっくと背筋を伸ばし、バルを見つめる。


「良い顔ですね。こちらへどうぞ」

「ねえ受付嬢さん、ポップコーンってありますか?」


 チェレーゼの天啓は「煽れば煽るほど強くなる」とか、そういうスキルに違いない。

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