6笹掻正美
窓の外はどんより曇り空。予報では、午後から雨だったっけ。
休日の雨は、ほんとにこころがどんよりする。遊び盛りの小童を部屋の中で持て余す他ないからだ。朝ごはんを食べ終え、私はソファに横たわる夫を横目で見ながらテーブルを拭いている。先週は上の子を連れて水族館へ行っていたけれど、今日は一向に出かける気配がない。
何日か前にした喧嘩が妙に尾を引いていて、なんだか空気が重たい。昔は素直に言えたはずの「ごめんね」がなかなか出てこない。
「ぶぅーん」
上の子は一瞬でリビングをおもちゃの海にしてしまっていた。手に持った赤い飛行機を飛びまわして遊んでいる。
下の子がさっきから泣いているが、もはや定番のBGMのように聞き流していて途中でハッとする。私が慌ててキッチンへ向かおうとすると既に夫がミルクのためのお湯を沸かしていた。
彼にはいつも助けられている。本当に感謝している。そんなことは、私だってわかっているのだ。ただ、ありがとうのその一言が、今は言えそうになかった。
たったったっと、足音が聞こえた。飛行機を飛ばしていた息子がキッチンへやってきて、私たちを見つめた。
「この家、はかいすぅ(破壊する)」
と言って、手に持った飛行機を振り回しはじめた。
「なんで破壊するの?」
振り回す手を押さえながら私が聞くと、
「この家、嫌いだから」
と答える。
「何で嫌いなの?」
「パパとママ、喧嘩するから」
思わず夫を見た。夫が苦笑いしながら私を見ていた。
ふと、張り詰めていた糸が緩まる空気を感じた。夫は息子の前にしゃがみ込み、顔を見てこう言った。
「喧嘩してないよ」
全く、こんなことで仲直りできるならさっさとすればいいのに。こんなきっかけをもらえないと何もできないなんて、どっちが子どもなんだろう。
「そうだよ、喧嘩なんかしてないよ」
バツが悪くなり、私も援護射撃する。
「じゃあ、おでかけしよ?」
だがこれはハードルが高い注文だ。首の座ってない下の子を連れてどこまで行けるだろう。
「よし、行こう」
夫がパチン、と手を叩いた。え、でもどうするの、という私をよそに、ミルクを作り始めた。
「みんなで今晩の買い物に行こう」
なるほどね。そのくらいのおでかけなら大丈夫だ。
下の子にミルクをあげ、ゲボッという大きなゲップを確認した後、息子の気が変わる前に私たちは家を出た。
幸い、雨はまだ降っていなかった。
チャイルドシートを2つ載せた車は、いつもより更に狭く思えた。だがその狭さが妙に心地よい。
エンジンがかかると、いつものように音楽が流れ始めた。
私はあっと声を出して、思わず停止ボタンを押した。
「あれ、この歌嫌いだったっけ」
喧嘩の影もなくすっかり普通のテンションに戻った夫が、運転席でそう言った。
「ううん。今は聞きたくないだけ」
それは嘘だった。
この間7年ぶりに聞いた曲。大好きで、7年前は毎日リピートしてた。今も聞きたいけれど、思い出を上書きしたくない。いつでもあの時を思い出せるように。今この瞬間もきっと、未来の私を支えるものとなるだろうから、前向いて歩いていこう。私にしか歩めない道がきっとあるから。
「なんかこの車、絶好調だねぇ〜」
と後ろではしゃぐ声が聞こえて、思わず笑った。(完)




