王都をうろつこう
そろそろ寒くなってきました。稼ぎ時になるのは分かるけど、なんでタイミングよく高騰するかなぁ。
王都コンラッドは同心円状の壁に囲われた都市である。大きく五層に分けられて、一番中心は当然王城で、上位貴族・下位貴族・上級市民・下級市民、みたいな大雑把なくくりだ。更に王城の外にも勝手に掘っ立て小屋みたいのを建てて「町」ができているそうだ。そこが発展したら王都コンラッドは六層構造になるのだろう。
外側の区画を拡張するたびに、壁を高くしているので、外から見ると巨大な山のように見える、というわけだ。
「ウチはまぁ、狸婆さんのおかけで一応は第三層までは行けるんや。」
「一番活気があるのは?」
「まぁそら第五層、一番外やな。良くも悪くも何でもある。まぁ、後で第三層まで行かなアカンけどな。」
「なるほど、」
とジェルが相槌を打ちながらも、カエデの服を軽く引っ張り足を止めさせる。あたしの場合は肩を抱いて引き寄せるくらいまでして、場所を入れ替えるとジェルの白衣の裾が跳ね上がって、そのたびに人が倒れる。
意外と日常茶飯事なのか、誰も驚いた様子が無い。活気がありすぎるのも考え物だ。
「ウチらみたいな可憐な美少女がおったら良からぬことを考えるモンがおってもしゃーないやろ。」
「……潰した方がよいのですかね?」
ボソッとジェルが物騒なことをいう。
「変に相手にせん方がええ。下手に相手すると、向こうもムキになるさかい。」
「どこもかしこも似たり寄ったりですな。」
確かに。あたし達の世界にだって規模とカやり方は違うが「犯罪組織」ってものがある。フリーの「チンピラ」って意外といなくて、子どものスリやコソ泥もなんだかんだで「上」がいて、搾取されてるわけだ。
で、チーム・グリフォンとして犯罪組織をいくつも潰したわけだが、やっぱり楽して金儲けしようって輩は多く、叩いても叩いてもキリがない、というのが世の常だ。
そんな風に話しながら、二つほど大きな門を抜ける。大門を抜けるたびに空気が変わったような気がする。
「やっぱ治安がいいんですかね。」
「そやな。第二層くらいまでは普通に入れるが、その先はな。」
その代わり、もっとタチの悪いんがいるんやけど、とカエデ。その辺も変わらないな。チンピラの上の上の上あたりに、ちゃんとした地位を持った人がいて、裏で悪いことをしているわけだが、そういうのはジェルの大好物だ。自分の「力」が一切通じないことをジワジワと思い知らせて、最後の最後まで悪あがきをさせて、全部叩き潰すわけだ。……まぁ、そんなもんで済まないほど悪いことしているのがほとんどなので、同情のしようもないんだが。
「なるほど、露店がほとんど姿を消して、店舗が増えてきましたね。」
「そやな、さすがにここまで来てた露店はおらんわな。」
少ししか通ってなかったが、外側の区域から比べると、人も町も整然としている。が、その分活気が感じられない。呼び込みの声も無ければ、人々の会話も静かで、酔っぱらいとかもいない。静かでいいんだが、物足りないというかなんというか。
ああ、そうか。ネオンサインは無いし、あちこちから音楽が流れてないからか。ちなみにジェル曰く「ネオンサイン」というものははすでに廃れ、名前だけ残っているそうだ。
「そう言われると、なんか懐かしく感じてしまいますね。」
……う。なんか不意に元の世界を意識してしまった。ジェルのおかげで不便なく生活で来てはいるが、何でもかんでも合成物でギラギラしていたあの世界が懐かしく思える。
(失言でした。)
ジェルがあたしに聞こえるくらいの声で小さく呟いた。……その声は、とても「申し訳なさ」を感じさせる響きだった。
ごめん。ジェルだって色々頑張ってるよね。
「ここやで~ って、あれ?」
カエデが指さした先には一軒の店が見えたが、どう見ても閉まっている。
「え~と、なんやて……?」
締め切られた入口の扉には、木の板に何か書かれて立てかけてある。
あたしもジェルも聞いて話すのは翻訳魔法のおかげでどうにかなるが、読み書きに関しては全然できていない。いちおー データを収集してある程度翻訳できるようにはしているが、それこそジェルの眼鏡みたいなデバイスを通さないとできない。あたしも持っているがワザワザ毎度毎度かけなくたって、ジェルに聞けばいいわけで。
木の板に近づくカエデだが、ジェルは自分の眼鏡のつるを指でトントンとしておそらく望遠機能とか使ってるんだろ。
「ふむ。」
微妙な顔をした。何だろ? 説明しづらい内容なことが店の前に書いてある、のか?
「こら困ったなぁ……」
腕組みしながらカエデが戻ってきた。その組み方だと、ある部分が強調されるぞー と思いつつも、ジェルが目を奪われてないので、ちょっと安堵と言うか何というか。
「アカンわぁ。店閉めとるようやな。なんでも下着の注文が殺到したので、作るのに専念します、やて。」
一瞬ジェルに目を向けると、目だけで小さく頷いて間違いないのだろう。
「下着、ねぇ……」
なんかそんな話を前に……うん、あれか。
こちらの世界でも服や下着を作れないか、ってことでカエデにあたしとリーナちゃんのを一組ずつ渡したんだっけ。それがここか。
「狸婆さんもちょっと言っとったけど、今糸や布が急騰しとるんの、これかいな……」
よくよく観察してると、女性が何人も店の前で足を止めては、やや肩を落として歩いていくのが見える。
今更ながら、カエデの胸が記憶よりも揺れずに安定しているように見える。……そういうことか。
「ラシェル。」
ジェルが戦闘用の声を出す。素早くジェルの左後ろについて、まだ気づいていないカエデを呼び寄せる。
「なんやなんや……?」
「誰かに見られてます。しかも、町の警備兵らしき人達が私たちを遠巻きにしているようです。」
さすがに町中で、比較的治安のいい場所で強行突破、ってわけにはいかんか。こういう時はキョロキョロしないでジェルの行動を待つように決めている。カエデが「見られている」と聞いて辺りを見渡すが、分からずに首を傾げる。
思いついて、まだできるかどうか分からないが、目に力を込める、というか、気分的に「スイッチ」を切り替える。
なんか、モヤモヤしたものが地面から湧き上がるのがうっすらと見えた。これは魔力……?
「ジェル、前。」
それだけで分かったのか、ジェルの右手が白衣の裾にゆっくり近づく。
『ちょっと待った! 俺だ、俺!』
なんか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『今そっちに行くから変なことするなよ。特にこの前の奴!』
「なるほど。」
ジェルが身体から力を抜く。
地面に集まったモヤモヤが魔法陣を描くと、そこに向けて空から光の玉が飛んでくる。
光の玉がパッと地面で弾けると、ローブ姿の偉丈夫が現れた。
「話は後だ。いいから一緒に来い。」
王子の付き人の魔法使いであるギルさんが早口でそう捲し立てた。
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