王都を見に行こう
時間も体力もなんか大変です。がっでむ。
久々に何もない週末……だといいなぁ。
少し本とか「なろう」の小説とか消化したい……
ずびし、と頭に突き刺さった衝撃で、まどろみから瞬時に覚醒した。誰だ、レディの聖なる眠りを妨げる者は!
「トランクは持ってきております。夜這いをするのも結構ですが…… ホントに相手見てやってくださいね。」
……あ~ 思い出した。なんか静かすぎて寝付けなくて、淑女的な方法でジェルの部屋を訪れたんだっけ。
「か弱い少女をチョップで起こすというのはいかがなものかと。」
「いや、それがかれこれ数十分。口には出せないようなあ~んなことやこ~んなことまでしたのに目を覚まさないので最終手段を。」
背中を向けていたジェルがこちらを振り返って、手をいやらしそうな感じでワキワキさせる。感覚的にも性格的にもそんなことしてないのは分かっているのだが「もしかしたら気づかれないようにイタズラする方法があるんじゃないか」という不安はある。
が、ジェルはワキワキしてた手を白衣のポケットに手を突っ込むと、立ち上がる。
「廊下でお待ちしてます。適当に着替えて出てきてください。
箱型汎用作業機械が夜を徹して簡易シャワー室を作ったはずなので、浴びてくると良いかと。」
おお、それは助かる。シルバーグリフォン号でも「雄牛の角亭」でもシャワーや風呂には困らなかったからなー こうして「遠出」をすると、どうしても気になってしまう。
ジェルが廊下に出たので、パジャマから素早く着替えて、あたしも外に出た。
朝食は昨日の御馳走を取っておいたのを野菜と一緒にパンで挟んだサンドイッチである。元々濃い味の肉料理だったので、野菜とパンでうまいこと中和出来てちょうどいい塩加減になった。
「ほぉ! こいつは旨いのぉ。 普段食べるパンがこんなに変わるとはな!」
狸の獣人のグラディンさんもご満悦だ。
ちなみにここで出てくるパンは、ハンブロンの町で手に入る物よりは上質で「雄牛の角亭」謹製のふわふわパンよりは落ちる。
小麦粉の製粉と精製、それと酵母発酵の差だろう。
「それはともかく、ソフィアさんの姿が見えないようですが。」
あれ? 確かにそうだ。
「……ああ、あの騎士の娘子なら朝早く出て行きおったわ。」
そうか。「姫様」のところに戻りたかったのね。あたし達も駆け付けたいところだが、さすがに準備も根回しも足りない。それこそソフィアか、魔法使いのギルさんがどうにかしてくれる、と思いたい。
「なぁなぁ、それより何でまた王都まで来たん? ウチに会いに来たーってぇことじゃ無いんは分かっちょるが。」
狐の獣人のカエデが相変わらずのボインボインで見てると切なくなる。それでも最初に会った時と違って、露出度が下がったので、だいぶ切なさも緩和された。
あれ? そういやぁ、前にカエデに頼んでたことが…… あ、そうだ。
「そういやぁ、服とかし……どうなった?」
下着、と言いかけてさすがに朝食の席にそぐわないので止めた。でもジェルが「ああ、」みたいな顔したので、気づいてやがるな。
「あー そやそや。ラシェルを一回連れて行こうと思ってたんや。気に入るで。」
たぶん、向こうがな、と小さく呟いたのを聞き逃さなかった。
嫌な予感がしたので、この予感は大事にしておこう。
「ほな、ウチは出るがラシェルも一緒でええか?」
「儂は構わんが…… ジェラード殿はよいのか?」
「…………」
ジェルがん~と考える。まぁ答えは決まっているんだろうけど。
「私も行きましょう。それなりに王都観光もしたいですしね。」
と言いつつ、本当はあたし達の護衛なんだろう。まぁ王都観光もあるんだろうけどさ。一応、グラディンさんとカエデは今のところ「味方」だろうけど、そこから一歩出たら誰が敵か味方か分からない。警戒するに越したことはない、ってとこだ。
素っ気なく答えたジェルだが、グラディンさんがニヤニヤかニタニタと笑みを浮かべる。
「おうおう、愛されとるのぉ。」
ピクン、とマンガならジェルのこめかみに青筋が十字に現れたことだろう。
が、珍しく何も言い返さずに小さく息を吐いて、あたしとカエデを等分に見る。
「お二人は出かける準備をしてください。それなりに時間がかかるかと。」
まぁ、そうね。
「まぁ…… そやな。」
一応女の子としては、もう外に出られる服装にはなっているが、最終調整が必要だ。細かいことかもしれないが、その「細かいこと」にこだわるのが女の子だ。……たぶん。
意外と、というか、案外ジェルはあたしを見ている。微妙な変化にも気づくし、疲れてるとか喉が渇いてるとかお腹が空いてるとか、そういうのも敏感だ。分かってて敢えてスルーすることもあるけど。
程なく、二人そろって準備が整ったので、リビングに戻ると、ジェルとグラディンさんが無言でお茶をすすっていた。微妙な緊張感が流れているが、グラディンさんの顔がやや引きつっているので、ジェル相手に舌戦で負けたってとこか?
「それでは出かけてきます。
無いと思いますが、何かありましたらキューブかパンサーに伝えてください。」
「お、おう。分かっとるわい。」
二階のリビングフロアから一階の店舗スペース(今は使っていない)に降りて、裏口から外に出る。
外に出ると、馬車ごと入れそうな倉庫の入り口と馬屋・繋ぎ場がある。カエデの愛馬のモミジと暗黒馬車、そしてワイルドパンサーがとまっている。
〈あ、おはようございます。〉
パンサーが声をかけてきたので、ジェルが小さくうなずく。
「充電の様子は?」
〈着いたのが夕方なので芳しくありませんね。昼間の内にどれくらい充電できるか確認いたします。〉
「任せる。というか、エネルギー残量に問題はないんだろ?」
〈まぁ、そうですね。〉
「……ああ、すみません。行きますか。」
あたし達を待たせてることに気づいたジェルが分かりづらいが少し済まなそうな顔をする。
「まぁ、そんな急いでないからええよ。
……それんしても、パンサー言うたか? ラシェルんとこには自分みたいんがぎょうさんおるんか?」
〈難しい質問ですね。いると言えばいますが、私のように博士が手をかけまくった乗り物はごくわずかかと。〉
「さよか、というか、やはりかい。やっぱジェラードはんは大したモンやなぁ。」
ほめても何も出ないけどね。
「まだ二三日はおるんやろ? なら話はまたあとでな。のんびりしてもええけど、時の無駄遣いは金の無駄遣い、って狸婆さんがよぉ言うからな。ほな、今日がウチが王都を色々案内させてもらうで。」
何が嬉しいのか分からないが、カエデはふさふさの尻尾をフリフリさせて歩き出す。
あたしが慌てて後を追うと、ジェルもその後をゆっくりついてきた。
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